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風と水の精霊術士 プロローグ

以前から投稿依頼が有ったので、せっかくですから上げて見ます。

ただ、久々に見てみると色々と目に余るので、少々手直ししながら掲載します。

ロスメモの障害にならない程度ですので速度は遅くなりますが、ご了承ください。





「んーーーーーーぬを~~~~………!!」


「うごごごごごごごごごごごごごおーー!!」


「………………」


 ばびゅーん!!


 そんな音を立てそうなくらい速い物体が地平線の果てからかっとんで来る。


 なかなかにシュールな光景であろう。


 いや、物体とはいえないだろう。何せナマモノのようだ。


 二つの人影が土埃を上げながら全力疾走しているらしい。


「はあははあはあ・・・どうだまだ追ってきてるか?」


 問いかけたのは若い男だ・・・声は既にぜーぜーという音で切れ切れである・・・髪は漆黒で癖が強い、少々眼つきは悪いが顔はまあ悪くない。


 黒い外套を翻しながらありったけの「気」を足に集中しているためか、その速度はスプリンクラーも真っ青だ。


 ………ただ腰の日本刀が異様ではあるが。


「まあな………周辺二キロにおよそ二万。」


 答える男もまた若い、ジーンズにチェックのシャツに黒いジャケットどこにでもいる成人男性だ。シニカルな顔付をしているが、彼もまた美形と言える顔立ちをしていた。


 ………ただ腕に抱えているのが少女であるという点が異様だ。


 更に言えば、少女を抱えながら世界記録を打ち破っていく様は更に異様だ。


「周辺っ!? そう言うのは、囲まれているっていうんだよ!!」


「まあ………なッ!!」


 そう言って尚も脚に力を込める。

 速度は既に自動車の類にまで引き上げられていた。

 だが、男はその超高速走破の最中でも腕に抱えた少女に負担を掛けない様限りない注意を払っている。


「………」


 少女の顔の色は悪いと言うよりも土気色だった。

 抱え上げる腕からも殆ど体温は感じない。


「………その子は………どうだ?」

 不安げに声をかける。

 心配そうに見つめる瞳は、酷くやさしかった。


「………意識が戻らない………でも、鼓動を感じる。………生きてる。」


 少女を抱えた男の瞳は愛しげだ。


「そうか、なら良かった。………こんなとこまで来たかいがあるな。」

 
 そういいながら眺めてみれば。






 そこは・・・・・まさしく地獄だった。





 空は赤ちゃけている。
 
 地面には紫色の大地。

 天と地に境はなく

 否………天も地もここにはありはしない。

 空気にさえ正常さなどなくただ悪意のみがあり

 悪意は肺をめぐり

 体は清浄さを失い

 これ以上ここにいれば

 身も心もやがて「魔」とかすだろう・・・




「てゆーか、んなことより。さっさと帰りたい。さっさと帰せ。」


 外套の男は、少女を抱えた男を脅迫した。


「無理だ。」


 脅迫には屈しない。


 それが世界の常識です。




「………………はあっ? ふざけるなよお前! いつもみたいにズパーっとやれよ。ズパァッと!」


 そんな中一瞬たりとも速度を落とさないのは、流石としか言えない。


「だから無理だ。ここには精霊がほとんどいない、つまりここに来るときに連れてきたやつだけだ。」


「………あの悪魔を相手取るのに殆ど使ったからな。てっきり帰る分位は残してると思ってたよ。」


 失望したようにため息をつき足を止める。


 同時にもう一人も足を止めた。



「囲まれた。………いや、追い込まれたな。」


「………」


 目の前に広がる壁・・・否、崖


 高々とのびる崖は砂でできている。上ることは不可能、否あの上にこそ最上級妖魔が待ち構えている。


 後方一キロには万の大群、いやなお増える。


 特に風術士は、既に逃げ場などないことを数分前には理解していた。


「………どうする?逃げ場………無くなったな。」


 諦めたのか?それとも万の魔人、魔獣、妖魔とやり合うつもりなのか声に動揺はない。


「・・・・手はある、今の俺にできるのは次元を裂いて向こう側につなげるぐらいだ。だが」


「・・・・なるほど。その穴を俺がでかくするってことだな。」


 その会話を並みの術者が聞いていたら即座に昏倒していただろう。


 次元を裂くという奇跡、その穴を押し広げるという奇跡。


 二つの奇跡をこの少ない精霊で成し遂げようというのだ。


 一流の術者が何人いたら可能なのか?


 いや、人数や時間は関係ない。精霊自体が少ないのだ、出せる力は限られている。


 ただ二人が次元違いの術者である。


 その事実のみに驚愕すべきだ。



「さあ、行くか。」


 そういうと微かな精霊を極限まで圧縮する。


 その圧縮された風は既に風とは言えぬ領域まで押し上げられ光の如く輝いている。


「はいはい、帰ったら奢れよ。」


「分ってる。浴びるほど………な」


 そう言って笑う風術士の顔はいつものようにへらへらとせず穏やかな笑顔だった。


「当然! 翠鈴の手料理も頂くぜ。」


「ああ、あいつの働いてた酒場で飲もう。あそこなら安全だ。」


 それにハッといつものように笑うと


「ここより危険な所はないよ。」


 確かに………ここ悪魔どもが住む「魔界」以上に危険な場所は「地上」にはほとんどないだろう。


 実際ここに来てまだ数日も経っていないが、彼らはここに二度と来る気はなかった。


 なぜなら


 空気はまずい

 水はまずい

 寒い

 臭い

 出会う妖魔(ひと)は醜悪で碌なのがいない。

 少なくとも住居を構える馬鹿には出会っていない。


 二人の思考はこの一瞬共有され合致した。


 閑話休題(それはともかく)



「逝くぜ、こんな所とはおさらばだ!」


「当然!」


 二人に残された力は少ない・・・・おそらくチャンスは一度


 だが、限界を超えなお猛る二人の力に・・・不可能という言葉などまさしく不釣合いだった。





 そうして


「疾っ!」


 風術士は時空を切りき


「破っ!」

 水術士は次元を撃ち砕いた。







 それから、二人の術者は無事に地上に帰り。少女は魂の固着に成功し。


 たいそう飲み、食べたそうだ。


 やがて、別れのときが来た。


 そうして水術士は去り


 その時、風術士は少女を守ることを再び誓った。


 お互いに再会の約束はなくとも


 また逢えることを毛筋ほども疑っていなかった。





 やがて、半年の時間が過ぎた。





        風の聖痕 風と水の精霊術士

      

プロローグ 二人の術士









「・・・・趣味わりー。」

 それが、依頼人への第一印象であり

 そしてそれがすべてだった。

 山手の高級住宅街に、その屋敷は傍若無人に周囲とこれっっっっっっぽっっっっちも調和せずに存在していた。

 ここまで悪趣味なものも珍しい

 これほどのものになると「悪趣味はどこまで言っても悪趣味だ!」と周りに訴えかけているようなものだ。


(いつから日本は魔界になったんだ?)


 八神和麻は過去の悪夢を思い出しつつ冗談抜きで考えた。

 ここ横浜は文明開化発祥の地で、日本で初めてガス灯が灯り、アイスクリームなんぞも発売された、由緒正しいおしゃれで上品な町なのだ。

 少なくとも数時間前まで彼の認識はそうであった。

 しかし、今や彼の目には空はにごり、この町を壊滅させた自分が高笑いしている幻想(願望)さえ見える。

 極彩色の壁、金の鯱、その形状………それらがヘヴィー級ボクサーのパンチの如く和麻を打ちのめした。


「仕事だ仕事、仕事なんだ………」


 自分を奮い立たせよううと呟くがうまくいかない




 まあ、和麻の格好も以前と同じでさらに二十一歳という若さに締りのない表情はどこからどう見ても大学生だ。

 自分のことを棚にあげて観察しているうちに、和麻は妙なことに気がついた。

 屋敷を覆う闇が聞いていた以上に深い。

 これなら霊視力のない一般人にさえ、屋敷の周りが薄暗く感じるかもしれない。


(帰りたいあの場所に取り戻したい勇気ある誓いを・・・・)


 物凄く嫌な予感にかられ、和麻は半ば以上本気で思った。

 屋敷を覆う闇は予想以上だが、この程度で自分がここまで不吉に思うはずがない。まだ何かある。

 これまでの人生から鑑みて(嫌な予感は外れたことがない)よって信頼性はかなり高かった。

 だが、これが日本での初仕事なのだ。「何となく」ですっぽかしたら、これから先、仕事を干されかねない。
 
 そうなったらいったい誰が翠鈴のために金を稼ぐというのだ。

 金はそれなりに溜め込んでいるが、無限ではない

 貯めに貯めて何時いかなる時でも対応できる様にして


 老後はのんびりと過ごすのだ。


 将来の夢に希望(夢?希望?)を咲かせ

 重い足取りで、和麻は屋敷に向かった。無意味に大きい正門の前で再び立ち止まる。

 呼び鈴の前に立ちながら、まだ和麻は逡巡していた。

 危険信号(否、不快信号)が打ち鳴らされ逃げ出したくてたまらなかった。


 しかしーーー


「八神様、ですね。お待ちしておりました。」


 前触れもなくインターホンから流れ出た声が、和麻の悩みを解決してくれた。無論、もう逃げられない的な意味で………。


 がちゃり


 声と同時に門の左横にある通路が開く、勝手に入って来いと言う事らしい。


(お待ちしておりましたって割りには、随分ぞんざいだな。)


 不愉快だが、相手はお客様だ。そのまま通用口をくぐる。

 予想通りというかなんというか、塀の内側にはこれでもかと監視カメラやセンサー類が溢れかえっていた。

 よほど後ろ暗い人生を歩んでいたのだろう。玄関に向かって歩いていくと、何台ものカメラが和麻を追尾する。

 不躾な依頼人に殺意に近い苛立ちを感じたがそれを抑えこむ。


「ひっ・・・」


 抑え込んだつもりだったが、顔に出ていたようだ。出向かいのメイドは殺人鬼にでも出くわしたかのごとく歪んでいた。
 
 和麻は慌てて表情を取り繕う。


「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。」


 劇的に変化した顔に不審を覚えないはずもないが、メイドは何事もなっかたかの様に微笑んだ。


「プロだ・・・。」


 思わずもれた声には、彼らしくない賞賛に溢れていた。

 歩き出したメイドの形の良い尻をながめ感情をヒートダウンさせつつ和麻は依頼人の待つリビングに向かった。




*****************************


(帰りたい・・・以下同文)

 案内されたリビングに入ったとき、和麻のテンションはマイナスを指し始めた。

 そこには偉そうにふんぞり返った貧相な小男――依頼人である坂本某――だけでなくもう一人の術者がいた。
 
 その術者は和麻を認めると一瞬驚愕するが、すぐにニヤリと唇をゆがめ、蔑みに満ちた顔で和麻ねめつける。


「何だ、もう一人の術者とはお前のことだったのか、和麻。神凪の宗家でありながら、無能ゆえに勘当された無能者が、よくも術者などと名乗れたな。」


 その術者は神凪の分家の一つである結城家の末子である慎治である。その言葉は誰かに説明するかのようだが、これはまさしく依頼人に聞かせるために口にしたのだろう。

 案の定、坂本は期待通りの反応を見せた。


「なっ話が違うじゃないか。一流の霊能者だというから、君を雇ったのだぞ!」


 和麻はまあまあと――詰め寄られた分後退しつつ――答えた。


「仲介人が何と言ったかは、俺の知ったことじゃありません。まあ期待分の仕事はできると自負していますが。」

「ふむ、そうだな・・・」


 坂本が成金特有いやらしい笑みを浮かべた。

 和麻の微かに回復したテンションが一気にマイナスまで下降した。

「では、こうしてはどうかね?二人に除霊してもらい成功したほうにだけ金を払おう。ああ、無論失敗した方にも前金を返せとは言わんよ」

「いい考えですな」

 依頼しておいて散々な言い草だが、慎治はすぐさま了承した。そして馬鹿にした顔つきで和麻に問う。

「お前はどうする?」

「・・・・・好きにしてくれ。」


 興味はないとばかりに目を瞑り壁に体を預ける。興味は無い所か既に、もう本気で帰りたいと思っていたほどだ。

 と言うか自分の【過去】を知っている以上神凪の術者なのだろうが………

(だれだっけ、こいつ………)

 自身では優秀であると思っていた頭脳だが、残念な事に和麻HDの性能は思っていたほどではなかったらしい。


 そんな勝手にテンションを下げ続ける和麻はそういえばとばかりに慎治に問う。


「というよりあんた誰だ? 初対面でひどい言い草だな。もしかし妄想癖が?」




「………………お前………覚えてないのか?」


 まさか………そんなことが………とでも言いそうな感じである。


 まあ、自分で色々やってきたんだ。少なくとも常人ならば忘れることはできないだろう。


「全然?」


 にっこりと………何を馬鹿なこと脳味噌は大丈夫かい?

 そんな響きを持たせた声音で答えた。

「慎治だ!結城家の末子の!」

 まさか忘れられているとは思っていなかったのか、顔を真っ赤に染めている。


「………………………ん~~~~~居た様な居なかった様な。………居たっけ?」


「俺に聴くな!」


 見下していた相手に、逆にバカにされ慎治は激昂した。

 依頼人の前であるが、拳を握り和麻に殴りかかる。だがそんな様子を和麻は冷ややかに見ている。

 頭蓋骨を粉砕しようとする拳を、和麻は左手で軽くいなす。


 同時にそのまま突っ込んでくる慎治の喉に軽く左手の人差し指をあわせる。


「ごふっ!」


 自らの推進力で喉を打ち慎治は一気に咽る。

 その横に極自然に回りこんだ和麻は軽く足を払う。

 咽こみ体勢がままならない慎治は前かがみに倒れしたたかに頭部を強打した。

「くっ・・ごふっ・・くそっ。」

 喉と頭部を強打した慎治は立ち上がることすらできない。

「お前、体術で俺に勝てるつもりだったのか?いまだに思い出せねーけど神凪の分家だろお前?四年前、誰一人俺に体術で勝てる奴なんていなっかたろうに」


 実際、四年前の時点で彼に体術で勝てる人間などほとんどいなかった。彼に勝てたのは交通事故に会う前の宗主、重悟、父である厳馬。

 炎術なしで彼に勝利できたのは神炎使いたる二人の最強だったのは神凪の腐敗ぶりを良く表している。まあ、実際、そんな事もあったな程度にしか覚えていないので、何とも言えないのだが。


「だっ黙れ!」

 和麻は勝ち誇るでもなく、ただ事実を事実として告げる冷徹さを持って告げる。

 そのことが慎治の理性を跡形もなくかき消した。

「そこまでにしてもらおう」
 
 不意に制止の声がかかり、二人は同時に声の主に目を向けた。坂本は注目を集めたことに満足そうな表情を浮かべるとさも大物ぶった表情で二人をたしなめる。

「君達を呼んだのは試合をしてもらうためじゃない。この部屋の調度はどれ一つとっても見ても君達に払う報酬よりも高いんだよ。乱暴な真似をされては困るな」

 いきなり金の話に持っていく辺りが下種だった。あまりの成金臭さに和麻は顔を歪める。

 こう言う奴は大嫌いだった。和麻自身、お金は欲しいと思うが、ここまで来ると嫌悪感で薄ら寒くなる。

 根が小市民である事も起因するだろうが………


(嗚呼、もう帰りたい………)


 ついに壊れ始めた不快指数計測器に頭痛が止まらない。

 この場にいることはもはや不快でしかない。

 このまま帰った場合に向けられる翠鈴の笑顔のみが彼をここに留めていた。


「ん・・・・・・・・・?」


 だが和麻はそんな中、屋敷中に拡散していた妖気が急速に収束していくのを感じる。それが何を意味するのか、すぐに理解できた。


「―――来るぞ」


 その妖気が、リビングの一点で焦点を結ぶ。
 
 和麻はさりげなく、妖気と自分との間に坂本と慎治を挟む。


「何だと?何が・・・・・・・・・」

 和麻に遅れること十秒以上、妖気が黒く濁り出すに至ってようやく慎治も気がついた。


「むう、出たかっ!」


「な、何だね?どうしたんだ?」


 いきなり、和麻と慎治が争いだし、事態の展開についていけぬまま、しまいには自分のわからない現象が起こっているのだ。

 そのあまりの緊迫感に耐えかねたのか坂本が上ずった声で喚いた。


 既に術の行使のため精神集中を開始していた慎治に代わり、和麻が答えた。


「お仕事の時間だよ。あんたに取り憑いた『悪霊』とやらが出てきたのさ」


 適当に解説しながら、和麻は情報が誤りであったことを悟りつつあった。


(こいつは悪霊なんてレベルじゃないな、明らかに妖魔クラスだ。)



 悪霊とは怨みを抱いて死んだ人間や動物の霊が変化したものだ。しかし所詮は霊的に優れぬ生命体である人間や動物の霊、限界はむろんある。

 対して妖魔は産まれた時、既にそう言ううものだと定義付けられている。

 純粋な魔である彼らは「魔界」からこちら側に迷い込んだものか召喚されたものがほとんどだ。

 故に彼らはこちらの世界に受けいられない。

 ただ存在するだけで苦痛を伴うそんな存在は遅かれ早かれ狂ってしまう。

 妖魔がヒトを襲うのは本能の他にその苦痛から逃れるためであるという。

 聞いた話では人と交わってその苦しみから逃れ共存しようとしている種族さえいるらしい。






――――ま、初仕事ならこんなものだろ?あんたの実力が噂どおりなら、片手で捻れる悪霊だよ―――




 軽薄そうな男だったが、実績は確かだと聞いている。彼等の仕事はある意味術者より信用が命だ。これほど大きなミスを犯すことなど、まずありえない。

 信用を失った情報屋に未来はない。和麻がここに残っている要因の一つはそのためでもあるのだ。(あまり大きくはないが)


(ハメられたか?ま、いいさ。お手並み拝見といこうか)


 和麻は壁にもたれながら腕を組みとりあえず見物に回った。

 悪霊の出現に備え、慎治は精神を集中していた。出現した瞬間に焼き尽くそうというつもりらしいが、その顔、態度、目その全てが油断を示していた。


「お~い、気をつけろ~。ただの悪霊じゃないぞ~。」


 とりあえずの忠告を入れる。

「うるさい黙って見ていろ!神凪の炎術を見せてやる!」

 そういって慎治は胸の前で透明なボールを構えるように両手を合わせる。その掌の間には小さな炎が宿る。

 どうやら聞く気はないようだ。


(まったく・・せっかくの中告をこれだから神凪の術者は)


 炎術師は元々探索に優れた存在ではない。

 そんな奴が他人の忠告を聞かないのならいったいどうやって情報を得るというのか。

 この傲慢さ、当に救いようがない。
 

 おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおっぉぉぉおん


 怨嗟に満ちた声が空気を振るわせ、悪霊が姿を見せる。その溶け崩れた顔が、すべての生ある者に無限の憎悪をぶつける。


「ひぃっ」


「はああぁっ!」


 悲鳴を上げる坂本に目もくれず、慎治は鋭い気合と共に必殺の炎を放った。悪霊はその炎に浄化され跡形もなく滅び去る―――と慎治は信じていた。


 だが―――


「ふうっ・・・アホ。」


 心のこもった侮蔑も彼には聞こえないだろう。

 そう言うと和麻は次に起こるであろう火事に備えた。



 ぎおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・



 悪霊の苦鳴が響き、慎治が細く微笑んだその時――炎が爆発した。


「がああああああっ!?」


 爆発した炎に巻かれ、慎治は絶叫した。また無意味に広いリビングが火の海と化した。


 呵々々々々々々々々々々々々


 悪霊の陰に隠れていたのは妖魔だった。この場には悪霊だけでなく妖魔までいた。それも炎の属性を持つ。

 慎治の炎を喰らい尽くした妖魔は、自らの炎に焼かれた慎治を嗤った。

 彼等、神凪の分家の人間は確かに神凪の宗家と同じように、破邪の力を秘めた炎を有している。

 普通の炎のように、分子運動を加速させることで生じる物理的現象ではない。不浄を焼き払う神秘の力を有する。

 だがそれは血筋による力でもある。血が薄れていくにつれ、その能力が低下することが必然である。

 分家の人間が最高位の炎である『黄金』を失って久しい。
 
 炎の属性を有する妖魔が相手ならば、放った炎を逆に吸収されることもあり得るのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 和麻は煉獄と化した居間を見ている。和麻の周りには清涼な風が取り巻き、荒れ狂う炎が近づくことさえ出来ないでいる。また熱も遮断されているのか、汗一つかいていない。

 それと同時に思い出すは一人の青年

 彼は別に神凪の様に優れた血の持ち主ではなかった。産まれは詳しくは彼自身も知らない。

 父も母も分からないと彼は笑った。

 彼は異端として産まれ周りから疎まれ・・・そして捨てられた・・・酒の席でそう語る青年の横顔はとても寂しそうだったのをおぼえている。





 しかし、その力は・・・目の前に倒れ伏す存在とは比べることすらおこがましいものだった。

 彼の力はこんな小物ではなく・・・・より雄大で・・・・より繊細で・・・・より美しかった。


「た、助けて・・・・・・・・・・」


 とっそこで和麻の足元で何かが呟く。それは黒っぽいものである。悲鳴と共に結界の中に入ってきたのは、依頼人の坂本であった。

 あちこちに焦げた跡はあるが、残念ながら死にそうな様子はない・・・ほんとに残念だ。

「ああっ、た、助けてくれっ」

 坂本は叫びながら和麻の足にしがみ付こうとする。

 しかし、無情にも和麻は依頼人を結界の外にはじき出した。


「あああああああああ、熱い、ひいひい・・・たったすけて。」


 無残に炎に舐められ生き絶え絶えになった。依頼人に和麻はきっぱりと言った。

「依頼人でもない奴を助ける趣味はない、あまり近づくんじゃねーよ。汗臭い。」

「熱っ、ひっ、ひぃっ、たすけて!お金なら倍出だしますから!」

「倍?ってことはたったの百万?随分安いんだなあんたの命。」


 ぷぱーっと結界の外にタバコを出し火をつけたタバコを吸い紫煙を吐き出す。なぜかそれは炎に舐め舐めされている坂本に直撃した。


「ひい、いっ一千万だしますから。お願いたすけて!」


「ん~ど~しよっ「五千万!五千万払います!」まいど~。」


 予想以上の効果にニヤリと口の端を歪めると


「さて、お引き取り願おうか・・・・・・・・・・」


 和麻は風の結界で坂本を一応、守ると真剣な表情になる。


「邪魔だな」


 ポツリと呟くと右手を横薙ぎに振るう。その手に押し出されるかのように荒れ狂っていた炎がまとめて窓の外に放り出される。炎は草木に燃え移ることなく散り散りになって霧散する。


 室内にはゆがんだ顔の付いた火の玉――――妖魔の本体だけが残った。


 ひゅおぅっ


 消え去った炎の代わりに風が室内に荒れ狂った。和麻はただ静かに佇んでいるだけ。手もポケットに突っ込んだままだった。指一本動かさない


 それでも風は和麻の意に従い、炎を削っていく。もはやそれは戦いではなかった。悪霊は和麻の圧倒的な力の前に、なす術もなく切り裂かれていく。身動き一つとれずに消滅の時を待つしかない。


「これで」


 和麻は最後にゆっくりと右手を上げる。霊視力のある者なら、その手に集った精霊の密度に恐怖しただろう。


「終わりだ!」


 神速で振るわれた右手から発生した不可視の刃は空気分子すら切り分けながら、妖魔を真っ二つにした。

 音もなく、霊子の欠片さえ残さずに消滅していく妖魔を、和麻は哀れむような目で見ていた。


「終わったぜ」


 和麻は床に未だ転がったままで呆然としている坂本に告げる。


「金は三日以内に振り込んでおけよ。さもないと、この世に生まれてきたことを後悔することになるぞ?」

 顔だけは営業スマイルに彩られていたが完全に犯罪者の台詞だ。だが坂本は和麻が本気である察し、首をただ縦に振るしかなかった。
 
「あ、ああわかった。金は三日以内に払う・・・・・・・・・しかし結城君には悪いことをしたな。まさかこんな大事になるとは思ってもみなかったよ」

 そんな坂本の言葉に反応し、和麻はゆっくりと慎治の成れの果てらしい消し炭に近づき、足を振り上げ・・・そのまま踵落としを決めた。


「がっ・・・。」


「な、何をするんだ!?君達の間で何があったか知らないが、死体を辱めることはないだろう!?・・・・・えっ。」


「・・・・・・・・・・・死んでねーよ」

 ぼそりと吐き捨てると和麻はゆっくりと振り返る。

「こ、これは・・・・・・・・」


 ぼろぼろと和麻の踵落としの衝撃で炭が剥がれ落ち、ほとんど焼けどもしていない肌が現れる。


「神凪の人間は皆、炎の精霊王の加護を受けている。分家の人間だってこの程度の炎じゃ死にはしない」


 そして和麻は感情を込めずにこう付け足す。


「俺は例外だがな」


「う・・・・・・・・ぐ・・・・・・・」


 そうこうしている内に慎治が目を覚ました。周囲を見渡し、すでに妖魔が滅んだことを確認する。


「お前がやったのか?」


「・・・・はあっ?もう忘れたのか?」


 ぬけぬけと何言ってやがる――和麻はそんな口調で答えた。意識を保っていたことを見抜かれ、慎治は慌てて釈明した。


「気づいていたのか・・・・・・・だが、さぼった訳じゃないぞ。本当に動けなかったんだ」


「んな言い訳聞いてねーよ。・・・・・雑魚。」


 和麻は冷たく言い捨てると、立ち去ろうとする。


 だが慎治は立ち去ろうとする和麻に、慌てて声をかける。まだ聞かなければならない事がある。


「なぜ戻ってきた?」


「何となく、かな」


 実際は翠鈴が和麻の故郷に行ってみたいと言い出したことが始まりだったのだが。


「なんとなくだと?それで長老方が納得すると思っているのか?」


「俺は勘当されたが、国外追放を命じられたわけじゃない。どこにいようと俺の勝手だ。」


「・・・・・・・・何を企んでいる?」


「別に何も」


 和麻は簡潔に答え、肩をすくめる。

 本当に何も考えていない。

 第一、こいつ等は自意識が強すぎる。自惚れが強すぎる。

 何故こいつ等は自分達が其処まで重要視されているとでも思っているのだろうか?

 
「神凪に戻ってくるのか?」

「死んで魂になっても逝かねーよ。」

 余りにも馬鹿げた台詞に吐き捨てるように答えると、和麻は今度こそ迷わず歩き去る。





 その背中を見送りながら思う。

(一刻も早く宗主に報告せねば・・・・・・・・・)


 慎治の不安はある意味で的中した。神凪を滅亡のふちに追い込んだ戦いは、今、この瞬間から始まった。










 ぴろぴろぴろぴろ
 

「んっなんだよ?」


 やっとのことであの忌々しい建造物――家とはけして言いたくない――から離れ一息ついた所で和麻の携帯が間抜けな音を出した。


 一瞬「でない」という選択肢もあったが、もし相手が翠鈴だったら大変だ。早く翠鈴の声も聞きたくなってきたころだし。


 そう思ってディスプレイを見ると・・・・そこには一年前、復讐に身を焦がし続けた時も・・・・彼女を救うため魔界に乗り込んだ時も


 変わらず自分と共に有り続けた親友の変わらない番号が映っていた。


「っもしもし?」


 先ほどまでほんの微かな動揺すらしなかった男が、今は完璧にどもっていた。


「………………」


「ああ、俺だ! 久しぶりだな! 今までどうしてたんだ?」


「………………」


「はっ? 日本に来てるのか。そりゃまたどうして? いや、今は良い。今俺たちホテルに泊まってるんだ。近くに来てるなら………」


「………」


「ああ、分った。待ってるぜ。早く来いよ?」


「………………」


「ああ、じゃあな」


 ピッ


「………ホント久しぶりだ。………翠鈴にも知らせなきゃな…」


 そう、穏やかに言う和麻は先ほどまでの不快な出来事も五千万を手に入れたことさえ忘れているようだ。

 何処か子供の様な口調で、軽い足取りで、彼は一歩進みだした。







*****************************


「ふう・・・」


 携帯を仕舞うと青年――白銀(しろがね)深夜(しんや)――は隣に浮かぶ女性に目を向けた。

 癖のある黒髪で割と端正な顔立ちをしているが鋭い瞳が減殺している。


「和麻という人に連絡は取れたのですか?」


 そういう女性は五十センチほど浮かんで深夜に微笑んだ。

 浮いていることからも分るように人間ではない。ただ霊視力のある人間ならば彼女から迸る力に只ならぬものを感じただろう。

 肩に掛かるぐらいのさらさらと柔らかい淡く青い髪に美しい顔立ち、チャイナ服に包まれた肢体は彼女の持つ楚々とした印象をからは想像もできないほど色っぽい。


「ああ青龍、意外と近くにいるみたいだ。」

 それを絶妙なポジショニングから眺めつつ答える。

「ともあれ、日本に来た目的は果せそうですね」

「まあな、元気でやってりゃいいんだけど」

 まあ、先ほどの会話から見てよろしくやっていることには違いないだろう。ただ、日本には神凪という彼の宿敵ともいうべき存在がいるそれが少し心配だった。

「それにしても、この東京に着てからずっと後をつけている人間はどうします?」

 青龍は先ほどから一般人の振りをしてつけてくる者、付かず離れず付いてくる者、そして何らかの能力でこちらを見張っているもの。

 それを順繰りと見回して(そのすべてを見透かして)言う。


「心配ないさ、もう来る。」


 そういって深夜が見つめる先には細身でありながら、メリハリの効いた肢体を持つ女で青龍とはまた違った色気を持つ女だった。

 女は深夜の近くまで歩み寄ると妖艶なしぐさでそれでいて慇懃無礼に挨拶をした。

「こんにちは、お久しぶりと言うべきかしら?水の契約者(コントラクター)白銀深夜。今日は和麻と一緒じゃないのね。」

「お久しぶり。二年ぶりかな?和麻なら今から会いに行くんだけど・・・。」


 にこりともせず、目を合わせる。

「・・・そちらの女性は初めてね。できれば紹介してくれる?」

「まずはそっちの用件からどうぞ。」

 だが、それには取り合わず女―霧香―の用件を促す。いちいち青龍のことを話したくないだけだったのだが。


「そうね。それでは本題を、警視庁特殊資料整理室というのをご存知?」


 そのまるで託宣のように言い放つ姿に、凄みに、なんか微妙に逝っちゃってそうな気配に。


 深夜は相手が動くまで待っていたのをちょこっと後悔した。









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No title

この作品の更新をずっと楽しみにしていました!

以前は原作の本編が出るまで更新しないとのことでしたが、
誠に残念なことに原作者様がお亡くなりになってしまいました。
なので続きは空腹さんのオリジナルでいいと思います。

ロスメモと一緒にこれからも楽しみにしていきますので
がんばってください!!!

大変お久しぶりです

下手すりゃ忘れられてそうですけど、お久しぶりです!

原作者さまお隠れ後、最終巻も出た中二次での製作を期待している咬平です
少なくとも二巻編までは書いて欲しいと思っております、では

No title

MOTOさまへ


>この作品の更新をずっと楽しみにしていました!


いやぁ、実は元居た場所に既にあるんで、上げづらい感じではあるんですが。


>以前は原作の本編が出るまで更新しないとのことでしたが、
誠に残念なことに原作者様がお亡くなりになってしまいました。
なので続きは空腹さんのオリジナルでいいと思います。


実は其れが一番きついと思うんです。何せラスボスもままならない状況で終わってしまわれたので!!


>ロスメモと一緒にこれからも楽しみにしていきますので
がんばってください!!!


ロスメモメインですのであまり期待せずに気長にお願いします。



蝦蟇口咬平様へ


>大変お久しぶりです
下手すりゃ忘れられてそうですけど、お久しぶりです!


自分も既に忘れ去られているのかとも思いました程にですが、お久しぶりです!!


>原作者さまお隠れ後、最終巻も出た中二次での製作を期待している咬平です
少なくとも二巻編までは書いて欲しいと思っております、では


むぅ、恐らくロスメモが四期終了後あたりで………いや、もしかしたらシャ●書くかもしれないし………う~~~ん!!
やはり、中々厳しいとは思いますが、あまり期待せずに気長にお願いします。ではは
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