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太陽の騎士誕生編2

こんばんわ。こんにちわ。おはようございます。

中々、更新の出来ない不甲斐無い空腹です。

一月に一回の更新を目指しているのですが、ちょっと無理そうなので太陽の騎士編2を上げます。この太陽の騎士編…実は色々とネタばれが散りばめられておりまして、当初との微妙な設定変更につき改変しつつ本編の進み具合を鑑みながら上げていきますので間が開いてしまうのはお許しください。

でわww


            ロストロギアメモリー小ネタ





    A'sから五年後を送りします。

    ネタバレありで

    しかもコレがこのまま本当に進むかどうかも分からないモノです。

    毎度の事ながら、あくまでも小ネタであることを納得された方がご覧下さい。





























「ういーっす。美味しいシチュー配ってますよー。コレ食って元気だしてくださーい」

 深く嶮しい森の中、熱したスプーンでアイスクリームを抉り取ったかのようにぽっかりと開いた不可思議な野営地で、何処か涼やかで官能的なハスキーヴォイスが木魂する。


「其処のお姉さん~? ぼけっと突っ立てるぐらいなら手伝えよ。料理すら手伝わないんだから、配膳ぐらいはやってくれ」

 
 その野営地を除けば辺り一面が命を称える青々とした緑が目に眩しく。だが、其処には不思議な雰囲気を放つ何かが有る。

 何がオカシイと言う訳ではない。

 何処かが変だと言う訳でもない。

 しかし―――不思議と心が落ち着かない。

 それを確信されざるを得ない森だった。その美しい、あまりにも美しすぎる森に

「はいはい、押さないでねー。一杯有りますからねぇー」

 その声は隅々まで響き渡った。

 だが、その美声も言っている事が近所のスーパーの売り子レベルでは意味が無い。

 奇妙な森の中にあって一人全く普段と変わりない様子だ。

 それだけは見事と褒めたくなる

「あーあ、料理は大事だぜ――お姉さん知ってる? 美味しい料理を作ってもらって喜ばない男は居ないよ?」
 
 だが

 ふん

 と如何にも小馬鹿にしたような声が苛立たしい。

 次いで彼の口から

 分かってる?

 と問い掛ける声が発せられ、ついに彼女は反応してしまった。

「・・・失礼な子ね、君も。私も料理ぐらいなら嗜んでます」

「嗜む? ぐらい? おいおい、料理を舐めちゃいけないぜ。オヤジが言ってた『食事の時間は天使が舞い降りるそういう神聖な時間の事を言うんだ』てな、神様信仰してるんだろ?」

「一体どんな神様ですか」

 はぁっと溜息をつく。

 彼女は恨めしげに彼――天道鉄矢――を見た。

 常に何処かマイペース、自分の意志は必ず押し通す。そんなこの子に彼女は振り回されっぱなしなのだ。

「愚問だな。食事を作ってるのは俺。つまり天使を寄越させているのは俺。ならば神は俺以外に居ないだろう? ま、それに」

「それに………?」

 くふっ

 と邪悪な笑みを浮かべる少年に壮絶なまでに嫌な予感が止まらない。

「折角の肉の盾だ。そりゃ、なぁ?」

 完璧な笑顔を振りまきながら『もっと肥えろよ』とカリムだけに聞える小声。

「ああぁ、もうこの子は」

 本当にしょうがないと

 彼女――カリム・グラシア――は心の底から嘆きの言葉を口にした。

 何でこの子を連れてきてしまったのだろうかと。










    小ネタ――――太陽の騎士誕生編2







「ファフニール?」

 鎖を噛み千切ると言う荒業を決めた少年――天道鉄矢は何処か不信げにその名を口にする。

 その夜の砂漠のように乾いた瞳をしっかりと見返しながらも、其の動きを何一つ見逃さないと言うようにじっと鉄矢を見詰めていた。

 その熱心に過ぎる眼差しに鉄矢は微かに身を捩った。なんだか背中が痒くなる視線なのだ。

「はい。その討伐にぜひとも貴方の力をお借りしたいと。此方がそのデータです。」

「・・・・」

 鉄矢はしばらく押し黙り、空間モニターに映し出されるデータに目を通す。

 カリムも言葉を発さない。

 自然と形成されるサイレントフィールド

 カリムはそこでこの場所が酷く寒々しいことに気が付いた。

 目の前の少年の印象が強かったせいもあるが、それを無しにしてもこの部屋はあまりにも寒々しい。

 温度が無い。温かみが無い。

 白一面の壁と床。彼が月をじっと見ていた理由が漸く分る。この白一面の世界ばかりを眺めていたら気が狂ってしまう。

 第一彼の年齢は十四歳。多感な、本来であれば学生の年齢だ。

 あのワーカーホリックの気があるはやてですら学校には通っている。

 だが、データによるとこの子は三ヶ月間の短期間を訓練校で過ごした程度でその後学校に通っているとの話は無い。

 漆黒の両眼は何処か冷めていて痛々しく、それ以前に身体を拘束具に包まれていた事を全く気にしている雰囲気が無いのだ。

 それはつまり、慣れていると言う事で

「ねぇ、お姉さん?」

「あ、な、何かしら?」

 冷めた口調。

 自分の考えに没頭していた為か反応が数瞬遅れた。

 だが鉄矢はそれを気にする風も無く、こう言う。

「ファフニールってのは何百年も前に封印された真竜の事なんだよな?」

「ええ、そう。かつて聖王と【円卓の騎士(クライスリッター)】に封印された希少種のことね」

 鉄矢は更に何事か考え込み、数分後きっぱりとこう言った。

「・・・興味無い」

 そう言って鼻で笑う。

「興味が・・・無い?」

 是もしくは否の言葉が返ってくるとばかり思っていたカリムは鸚鵡返しに返す。

 勿論答えとしては否に限りなく近い物であるとは理解していたが。

「どういうことかしら?」

「だって、どう考えたってファフニールを斃す理由が思いつかない」

 鉄矢の顔に冗談の様な雰囲気は無い。酷く薄い冷笑があるだけ。

 世界そのものを破壊しかけ、何十もの集落を焼き滅ぼし、何千何百下手をすれば何万もの人間を食い殺した竜をして鉄矢には倒す理由は無いようだ。

 カリムは軽くまたハズレかと思う。コレまで何人もの騎士達に掛け合ったが皆が何かしらの理由を付けて断りたがる。

 勿体付けた理由や、正論のように聞こえる理由。

 様々あれど答えは一つ。そんな物と戦いたくない。

「君はファフニールと戦いたくないの?」

 何処か失望に濡れた声を出すカリムに鉄矢は当然とばかりに答えた。

「ああ、だって野生動物をただ殺すなんてまね俺には出来ない」

「は?」

 カリムはその言葉が一瞬理解できなかった。その言葉はココで出てくるにはあまりにも不自然に過ぎたからだ。

「あのな、お姉さん。野生動物ってのはそもそも自分のテリトリーから出るもんじゃない」

 そう言う種類も有るけどなと続け

「え、えぇ、確かに」

「其のファフニールって竜が何人人間を食い殺したかは知らないけど、殺されたくなけりゃ近づかなきゃ良いんだよ。殺されたからには、殺されるだけの理由があるんだろ」 

 領土とか、名声とか、そう言うの人間って大好きだろ?

 そう言って更に冷笑

 人類と言う種族全体に対して何一つ気負うことなく少年は喧嘩を売る。

「それは!………そ、うかも知れないけど、でも君にだって分かるでしょう? この問題はそう言う問題じゃないの」

「君じゃなくて鉄矢な。じゃあ、どういう問題だ?ファフニールって言う竜に限らず。どんな生き物だって、自分のテリトリーに入ってきた自分よりも弱い生き物を食うだろ? ソレの何がいけない。弱肉強食は自然界の常だ?」

「それは」

 そう言われれば確かにそうだけど。でもその理屈では

「人を傷つけた魔法生命体はその場で殺害が許可されてる筈よ」

「でも、ファフニールは死んでない」

「それは殺せなかったからで」

 思わず反論し掛けるカリムを鉄矢は遮り――断じた。

「お姉さん。何にしろ、ファフニールが犯した罪、罪と呼べるのかもすら俺には分からないけど、何百年も前のだろ?しかも聖王時代って言えば文献噴出が多発して最も当時の時代背景が分かりにくいって有名だ?もしかしたらファフニールはそんな罪は犯していないかもしれない。そも何百年も封印され続けたって言うなら罰は受けてる」

 だからその竜を殺す事に興味は無いと鉄矢は言う。

 カリムは子供の戯言とはいわず。

 鉄矢の言葉を何度か胸のうちで反芻し、しかし結局それを納得する事はできなかった。

「でも、それでもファフニールは危険よ。でなければ封印される筈もない。もし、このまま封印が解けて人を襲うようなことは、絶対に許せない」

 それに鉄矢も肯いて肩をすくめた。

 カリムの言葉を認め、それでもやらないと言った断固たる決意を感じる。

 カリムは心中で密かに溜息をつき向かい合って座っていた状態から立ち上がり、ポンポンとロングスカートについた塵を払った。

「帰るのか?」

「えぇ、ごめんなさい。私はファフニールを倒してくれる騎士を探さないといけないから」

 さよなら

 そう言って真っ直ぐに扉に向かうカリムの背に鉄矢は声を掛ける。

「ねぇ、お姉さん?」

「・・・何?」
  
「どうして俺の所に来たんだ? 俺は騎士じゃないし、あくまでもD+のランクだ。ロストロギア使いではあるけど、次元犯罪以外では使われた事ないぜ?」

 そう言う彼の口調は幼さと大人らしさが複雑に重なり合っている事にカリムは初めて気付く。

 何処か安定していない口調。まるで無理をして口調を変えているように。

「そうね、貴方の娘さんが貴方の事を鬼みたいに強いって言ってたのもあるかしら」

 何処か可笑しそうにつぶやくカリムに鉄矢は盛大に顔を顰めた。

「あのアホは・・・何度俺を父と呼ぶなといえば気が済むのか」

 拘束着の残骸をプラプラと揺らしながら顔に手を当てて溜息をつく鉄矢。

 しかも鬼ってなんだ鬼って

 まあ、あの娘への天誅は後に下すとしてと言う事は

「なら、アンタがカリム・グラシア………。はやてから話は良く聞いてる。お姉ちゃんみたいだって」

「あ、ごめんなさい。名乗りもせずに話を進めてしまって」

 実際は既に名乗っているのだが、鉄矢はその時周囲の音を遮断するギャグを付けていたので聞えていなかったのだ。

「いいよ。なんか焦ってるみたいだったし・・・となると」

「なにかしら?」

「ファフニールが蘇るって言うの、あんたの予言なのか?」

「アンタじゃなくてカリムね、鉄矢。そう言えば予言についての説明もまだだったわ。でも貴方の艦長から話は聞かなかったの?」

 先程鉄矢に言われた言葉を返しつつも自分で自分に呆れる。

 完全に話をした訳ではないのに此方から話を切り上げるとは。

 コレまで体験して来た失望とここ数日眠ってない為の疲れからか反応が鈍っているのかもしれない。

 よく見れば足元が微妙に定まってないかも。

「無いね。アイツはそんな事はしない。絶対に」

 乾いた声音で断じる。何も信じていない目である。

 それに乾いた笑みが零れながらも

「でも、内容は同じよ?先程言ったとおり、ファフニールが蘇る可能性と、それを倒せる可能性のある騎士を私が探してるって事は」

「良いから良いから。ちょっと言ってみてよ、どんな予言だった?」

「・・・はぁ、それは構わないけれど。あくまでも最新の予言解釈ってだけだけれどいいかしら?」

 コクリ

 鉄矢は素直に肯く。カリムはそれを見届け鉄矢に向き直り、朗々とその言葉を口にする。


―――邪竜封封じられし地 苛烈なる光 天より振りしきり聖王の封を解く
 
―――英雄は漆黒の大剣を振り上げ 邪竜激烈なる咆哮を上げる

―――英雄と邪竜 始まりにして 終わりの戦いを始め 竜は天に帰す

―――太陽の如き者それを持ちて 加護を受ける



「以上よ」

 カリムはコレで去るつもりだった。鉄矢の言葉に応えたのもあくまでも義理が殆どである。

 主にはやてへの


 だが

「………は?………なんだそりゃ?」

 鉄矢はふざけた調子でその様な事を言った。

 だがカリムが振り返ったときには既にもう一度其の声にふさわしいふざけた表情は無く、唯真摯な瞳が再び月を見上げていた。

 それは始めて彼を見たときに感じた――何処か神聖な祈りのようで

 ふと目を奪われる。

「分かった――行こう」

「へ?」

 ぼうっとしていたカリムはその言葉の意味を捉え損なう。

「行くって言ってんの。ファフニール討伐部隊に―――」

 何処か苦々しくもサッパリとした口調

「ど、どうして急に?」

「急にって。まったく、早く予言のこと言えば断らなかったのに、面倒にしたのはカリムだろ?」

 初めて呼ばれた名前は思いっきり呼び捨てだった。

 いや、それは良いのだ。ベルカには元々敬称の習慣が薄い。それは敬称ではなく騎士などの役職名を付ける事が多かったからなのだが、それは割愛する。

「・・・あの予言が何か琴線に触れたの?」

 何処か疑り深い口調で尋ねるカリムに鉄矢はさばさばと言った。

「いや。黒い大剣持ってて、太陽の如き者って俺のことだし。俺以外にそれ該当しないし」

 と

「・・・はい?」

 素っ頓狂な声を上げるカリム

「それに天に帰すってのも、俺っぽいし」

「一体どの辺りが」

「分からない?俺の名前は『天道』鉄矢だぜ?」

「それはどういう意味なのかしら」

 日本語の漢字と言う物を理解する人が少なくて困る。

「俺の名は『天の道を鉄の意思を持ちて矢の如く突き進む者』って意味なんだよ」

「・・・あ、ああ。そう言えばはやてがそんな事を言っていたような」

「ま、と言うわけでこの予言の解釈が間違ってなければこいつを倒すのは俺なんだよ。良かったな?」

「・・・えっとそうなのかしら」

「そうなんだよ。大船に乗った気で居ろ」

「えと、タイタニックに?」

「何故それを知っている」

「こういう時はタイタニックだってはやてが」

 あの娘はと再び頭を抱えようとするが出来ない鉄矢。

 対してカリムは何となく膝を突いて再び、鉄矢と目線を合わせる。

「でもいいの鉄矢? はっきり言って危険な任務になるわよ」

「なんだよ。自分で言いに来たくせに」

「くす。そうね、でもいままでOKしてくれた人が居なくて、てっきりダメだと思ってたから」

「へぇ、せっかく英雄になれるかもしれないのに断るんだ」

「誰だって自分の命は惜しいもの」

「でも、予言者だからって何でカリム自身が『英雄』なんて物を探してんだ?」

「私だけじゃないわよ」

 少し苦い物を含ませてカリムが微笑む

「第五枢機卿。アナロス・バウリン司祭がファフニール討伐隊を編成してるの」

「第五――か。確か人以外の魔力もちの生命体に対応する所だっけ」

 思い出すように言う鉄矢ちなみに枢機卿と言う物は教皇に次ぐ高位聖職者の称号である。

 基本的に司祭がなる事が多いと聞く。

 更に言うならば枢機卿は枢機卿団を構成しており、それは第一から第六まで存在するとか。

 そして聖堂教会の枢機卿団は教皇の顧問団として三つの任務を帯びている。

 一つ目は、教皇を補佐して教皇庁の運営に携わり、聖省の長官などの高級行政官として、あるいは教皇特使、すなわち教皇の名代として高級外交官としての勤めに携わる事である。

 二つ目はさらに重要なことで、枢機卿団が教皇選挙権を持ち、互選によって教皇を選出する務めを持っていると言う事である。(教皇選挙をコンクラーヴェという)

 三つ目コレこそが聖堂教会最大の特徴だがカリム達の所属する教会騎士団とは別個の戦力を保有し、それはそれぞれロストロギアや政務等様々な局面『ごと』に投入される特殊部隊みたいなものであるとか。

 簡単に言うならば教会騎士団を純粋な警官と称すると、枢機卿団はSWAT見たいな物だ。

 コレは噂だが実際は第七枢機卿団なるものが存在し、それは対人暗殺に特化した部隊で、教会に邪魔となる人物を幾人も葬っているとかいないとか。そう言えばそれとなく誘われた事が有った様な無かった様な。

 で、その第五枢機卿団は対魔法生物に特化した部隊で対ファフニールの訓練を受けている最中とカリムは締めくくる。

「それならお姉さんが『英雄』を探す必要は無いんじゃないの?」

「ええ、其処に『英雄』が居るならね」

「居ないと?」

「少なくとも私は誰も予言に該当する人物には見えなかったわ」

「だから自分で探してたんだ。『英雄』かも知れない人物を」

「ええ」

「ふふん。その第五枢機卿って奴に嫌われたろ」

 実に楽しそうな男

「えぇ。小娘がって言われたわ」

「良い事じゃないか。若いって意味だろ?―――で、その英雄が見つかった感想は?」

「・・・・」

 カリムは拘束着に身を包んだ鉄矢をたっぷり数分間眺め回し。

「・・・早まったかしら」

「う゛ぉーい!」

 シャークな返事を返す鉄矢

「でも、確かに――貴方だけだったわ、貴方だけが私に答えてくれた。ありがとう」

「ん」

 素直に感謝の意を示すカリムに鉄矢は横柄に返答し

「ふっ!」

 辛うじて繋がっていた拘束具が弾け跳んだ。

 右腕に装備したデバイスが露になる。




 ブーブーブーブー!!


 激しく鳴響く警報。



――緊急事態発生

――緊急事態発生

――No.RXX01110-000010009の脱走意思を確認


 音波兵器じみた音量に両耳をグッと抑えるカリムだが

 鉄矢は何も気になることは無いとでも言うかのようにふんふふーんと拘束具の残骸を蹴飛ばして居る。

 全くの無意味だった。

 この男を拘束する事などできない。魔力を塞ごうが何をしようが――だ。純粋な『力』だけでデバイスにも使われる魔法合金を引き千切る男を拘束できる事などできるはずが無い。



 と軽くデモンストレーションをかましている鉄矢にブーブー鳴り仕切る警報

 そして倒れ伏すカリム

「何やってんだ?」

『さあ?床がすきなんでしょう?』 

 ジャラリと硬質な音を奏でる。

 封印を解かれたカイロスがスタンバイフォルムである腕輪と指輪を鎖で繋ぐ。

「・・・こ、腰が抜けました」

「はぁ?」

「だから、この音で腰が抜けたんです!」

 音波兵器が鳴りしきる中

 ペタンと女の子座りで立ち上がる気配の無いカリム

「・・・・早まったか?」

 鉄矢はカリムを見下ろし、実に深く呟いた。







*****************************






「よ、良かったんですか。こんなことをしてしまって?」

「良いんだよ。検査より任務優先。そう言う取り決めだ」

 とっとことーとカリムを背に乗せて走る鉄矢。

 ブーブーという音は次第に大きくなりつつある。

 間違いなく大脱走

 ああ、どうしてこんな事にとカリムは嘆く―――が既に遅い。

「もう、どうしてこんな事を、手続きを取ればちゃんと普通に出られたのに」

「あそこには一秒も居たくないんだよ」

 きっぱりと言って尚足を速める。因みに脱出妨害様っぽい装置が次々と登場するがひょいひょい避けていくので意味が無い。

 と言うより今壁走ったこの子

 そして人一人担いだままで発射される魔力弾を避わす。

「居た!止まれ、て、ぼぐりゅー」

「キック」

 飛びまわし蹴りが良い感じに決まり吹っ飛んで行く職員らしき白衣の男

「ご、ごめんなさい!」

 カリムは泣いた

 何となく泣いた

 流石に涙は流さなかったが、心の中で盛大に泣いた

「ああ、もう、どうしてこんな事に」

「………」

 るーるーるーと嘆きの声を上げるカリムに対して鉄矢は只管、その感触を楽しんでいた。

「ところでお姉さん」

「・・・なに?」

 睨む様に見つめると微かに振り向く横顔には微かにつり上がった唇と緩やかな弧を描く瞳が映った。

 それは形だけの、笑顔とは言えない、不確かな表情だったが

「結構おっぱい大きいね。うん、八十nうげぇぇ」

「シクシクシクシク」

 カリムは泣きながら全力で鉄矢の首を絞めた。

 それでより密着すると分かってはいても〆た。

 ハッキリと

 色々失敗したと確信しながら。

 HAHAHAHA

 と言う愉快な鉄矢の笑い声を聞きながら。











*****************************










「はあ」

 以上のことを思い出しカリムは深く溜息を吐いた。

 あの後正式な手続きをして天道鉄矢の身柄を一時聖堂教会預かりにするなどの事を思い出すと更に疲れる。

「溜息をつくと老けるぜお姉さん?」

「老けません」

 言いつつ髪をキュッとリボンで縛りエプロンに手を掛けてニッコリと営業スマイル

「はい、皆さん。まだまだ一杯有りますから、きちんと並んでくださいね」

 封印要員とファフニール討伐の第五枢機卿団――総勢百五十名

 何故か鉄矢はその飯盒係を自らかって出た。更に言うと何故か彼にはお手伝いの部下が二人ついている。いや、教会の事務係を無理矢理引っ張ってきたのだが。

 ちなみにその粗末なテントではとっても大きな鍋にトロトロになった野菜と鶏肉のシンプルなシチューが三つほど火にかけられて、木製の食器に次々と配られていく。

 カリム自身二度ほどこの封印作業に立ち会った事があるが、ここまで贅沢な配給は無かった筈だ。

 基本軍用のレーションに近い物だったと思う。

 それに比べると現場の士気は高い。

 やはり糧食が士気を決めるのか。

 カリムが配膳に加わった事で給仕係は任せられると判断したのか鉄矢は食器洗いに移行した。

 事務係の人と三人で百五十人にシチューを配っていく。いや、何人か御代わりしに来ている人が見れるから、それ以上かもしれないが。

「ばしゃばしゃー♪」

 何が楽しいのか鉄矢はご機嫌で食器洗いをしている。

 本当に彼でよかったのだろうか。

 一応万一に備えて管理局側との連携は密に取っているが、それでもファフニールの問題を聖堂教会で方をつけられないのは痛い。

 せめて円卓の騎士が一人でも来てくれれば。

「にしてもお姉さん?」

「あ、何かしら?」

 食器洗いの手を止める事のないまま鉄矢から声が掛けられる。カリムも配膳をこなしながらも耳と声を傾けた。

「ベルカって数百年単位で不毛の大地になったって聴いてたけど、ちゃんと森とかあるんだな」

「………確かにベルカの地は汚染により数百年経てもなお人の住めぬ土地となったけど、汚染を逃れた地域もちゃんと有ります。ただ、かなり限定的な範囲に限られる上、今更此処みたいな自然が生き残ってる所に人が住むのも…ね。今はこういった自然は手を加えず、少しずつこう言った土地を増やして行ける様に見守ってるのよ」

「ほほぅ?」

 パシャリと洗い終えた食器を置き、何処となく興味がありそうな瞳の輝きが見える。

「興味あるのかしら?」

「ま、ね。俺の父親側の遺伝子はベルカだから」

「まぁ、貴方は第97管理外世界出身だって聞いてたけど?」

「産まれは。遺伝的にはこっち」

「へぇ、それは如何いう………」

「騎士カリム。アナロス・バウリン司祭をお連れしました」

「あ、ありがとう、シャッハ」

 何気ない鉄矢の言葉に興味を引かれて聞き返そうとした所に短髪のシスターが小太りな中年の男性を連れてきた。

 シスターはシャッハ・ヌエラ。陸戦AAAを誇る騎士であり、カリムの護衛役でもある。

 そして、シャッハの言葉通り…彼がアナロス・バウリン司祭である。背は高いがメタボリックなボディと何処か神経質な瞳が印象に残る男だった。

「この様な姿での拝謁をお許しください司祭」

 何処ぞの町娘と呼んでも支障がない自分の格好を思い出しながらもカリムは敬意を露に膝を着く。

「いや、騎士カリム殿。貴方のような美しい女性に給仕をされれば我が騎士の士気も上がりましょう。どうぞお顔をお上げください」

 アナロスはその顔に意外なまでの温和な表情を浮かべている。

「はは、貴方が我が騎士を信じられず。貴方の予言に出てくる『英雄』を探しに言ったと聞いたときは憤りもしましたが、いや貴方は決して我々の足並みを乱そうとしているわけではないと。コレを見れば分かりますよ」

「ありがとうございます」

 



「ちょっと貴方。カリムに配膳をやらせてたんですか?」

「ん?ああ、シャッハか。そうだけど?」

「そうだけど?――じゃなくて、どうしてそんな事をさせるんですか」

「・・・暇そうだったから」

「暇って貴方………」




 カリムとアナロスの会話のすぐ横でコソコソと会話を交わしているシャッハと鉄矢だった。







「・・・アレが貴方の見つけた騎士ですか?」

「・・・はい。正式な騎士の資格はまだですが」

「そうですか」

 ピクピクと神経質そうに揺れるアナロスの眼

「ふう、騎士カリム。私には分かりかねます。あの子供と我が騎士達。どちらが英雄と呼ばれるに相応しいか、一目見れば分かりそうなものですが」

「ええ、司祭。それは、その、そうなんですが」

「貴方の予言が『正し』ければ、今日ココでファフニールは我が騎士達の中の誰かに討ち取られるでしょう」

「―――はい」

 何気ない、司祭の言葉にカリムは極力感情を廃して応えた。

 つまり今のはこういう意味だ。

 ここで何か問題が起こればそれは貴方の予言が間違っていたのだと。





 この司祭は確かに信仰に厚い。人格者である事も間違いようが無い。

 だが、この男は支配欲も上昇志向も更に言えば金に対する欲求も人並み以上に持ち合わせている。

 それが悪い事とは言わない。多少黒い噂もあるが、それは『上』に行けば行くほどに自然より苛烈になるものだ。

 何より問題が起こっていないことは良い事である。

 司祭は確かに人間的に過ぎる所が多い。だが、聖職者としては人間の醜い部分も全てを知り尽くしたアナロスは優秀だ。

 唯の洗練潔白な人間にはできない事を易々とこなせる。

 無能だが人徳に溢れた司祭よりも、有能で人間味に溢れた司祭の方が組織は上手く回り、結果として救われる人は多い。

 彼の様な上司の部下であることは恐らく幸運な部類に入るのではないだろうか………今回踏み台にされかかっているのが自分でなければだが。





「では騎士カリム。私は騎士達に声を掛けてきますので」

「はい」





 そうして司祭は去っていった。何気にその手にシチューが握られている辺りが何ともいえない。

 良くも悪くも、彼は部下に近しく接する人物だ。偉そうにふんぞり返っている連中とは一味も二味も違う。



「ずずっび、っばーーーーっぉん。モグモグごくッ。なんとも、中々大した奴だな。好きにはなれそうも無いが」

「ゴクン。はぁ、彼は優秀な司祭なのですが人間的に過ぎる所が欠点ですからね。まあ、その欠点が良い方向に向いている以上問題は無いでしょうが」


 司祭が去ったのを見計らってか、シチューをすすりながら二人がカリムの傍に立っていた。と言うか鉄矢は残った特大の鍋を抱えるように持って、お玉でガブガブとまるで『シチューは飲み物ですよ?』と言わんばかりの喰いっぷりだ。

 断じて気を抜いたわけではないが、気配は全く捉えられない。

 この子も凄いんだか凄くないんだか分からない子だとカリムは思う。


「ほら、これカリムの分。他の奴はもう食い終わったぜ」

 と言って木製の器とスプーン差し出す鉄矢。

 辺りを見渡せば確かに殆どの人が食事を終え、封印作業の準備に取り掛かろうとしている。

「事務の二人はもう帰しました。ここは危険になるでしょうから」

 手拭を渡して来るシャッハ。

 ここ数日鉄矢の面倒を手伝わせていた為か順応が早い。

「ありがとう、シャッハ、鉄矢」

 そう言ってカリムはシチューを一口含み

「あ、おいしい」

 と呟いた。

 その時鉄矢は、ハッキリとカリムを見つめて、柔らかく微笑んだ。

 こうしているときは普通に可愛い子供だとカリムは思う。

 烏の濡羽色とも言えるほどに黒く青みのある艶やかな髪は、女性として羨ましさすらも抱かせるほどに美しく。

 何処か色気に満ちたハスキーヴォイスは耳に心地良い。

 顔だって悪くは無い。少年の甘さと青年の鋭さを同時に備えた顔付きは十分に女性を魅了できる筈だ。

 しかし

「にしてもこの森って変だよな」

「何がですか?」

「んーー。何処がとは言え無いんだが・・・ココっていつもこうなのか?」

「?貴方が何を言っているのかはよく分かりませんが特に以前来た時と違いは見られませんが。ここは元からファフニールが封印された影響で動物も寄り付きませんし」

「ふーーん」

 シャッハと話すこの少年には自分のそう言う部分を使う気はまったくないように見えた。

 美しく長い髪は無造作に後ろで縛られ風に揺れているし、季節感を無視した紅いマフラーと漆黒のコートが暑苦しさを感じさせそういった美点を人に意識させないのだ。

「そう言えば、こんなに広い森なのに一匹の鳥も獣もいないな。普段からコレなら、植物が群生してる理由が分からないけど」

「いえ、動物が寄り付かないのは、この封印部分で森自体にはちゃんと住み着いてますよ」

 ポンポンと足でペンペン草1本生えていない剥き出しの地面を叩くシャッハ。

「封印自体は半径二百メートルほどですが、その影響で半径一キロにわたって木も生えませんし、動物も寄り付かないのです」

「へぇ―――それじゃあ、どうしてココに来るまで俺は一匹の動物も見つけられなかったんだ?」

 ここに来る前には皆、森の中を通ってきた筈だと少年は言う。その瞳がじょじょに引き絞られ鋭さを増してきた。

 同時に先ほどまであった少年特有の甘やかさが徐々に消えていく。

 酷く、嫌な予感がした。

「それは―――多分先発隊が通った影響で動物達が逃げていたからではないでしょうか?」

 その予感をシャッハも感じ取ったのか言葉には微かな緊張が含まれている。

「忘れてるかもしれないけど、俺は人間じゃないぜ。どんな人間が見逃しても、数日中に居た動物の痕跡を逃すような間抜けには出来てない・・・・何か、あるな。――お姉さん!」

「あ、はい」

「カイロスのロック解除とインフィニティーコアの転送を今すぐ!」

「・・・デバイスのロック解除はすぐに出来ますけど、貴方のロストロギア転送は封印作業開始一時間前、つまり後二時間は許可できる状態にありません」

 鉄矢の表情に何か感じたのか余計な事は聞かず返答のみに止める。

「遅い………!」

 忌々しげに呟き右手に装備されている鎖をぐいっと引き伸ばす。

 その様子を眺め、カリムの手は解除申請を形成しカイロスのロックを解除した。



 ガチュンガチュン

 

 すぐさま顕れる漆黒の大剣

 ピコーンとそれに備え付けられている宝石が瞬いた。

『Open up』

 機械的な、気だるげな女性の声が響き渡り、鉄矢の眼が更に鋭さを増す。

「漆黒なりし我が翼よ、天を翔け、我が身を守れ。来よッ! 召喚獣――――ダークッ!」

 一閃

 詠唱と同時に振るわれた大剣から漆黒の何かが

 ギューイ

 と鳴きながら放たれた。

 影のような召喚獣は目視すらさせずに何処かへとバサバサと不可思議な飛行で飛んでいく。

「ど、如何したんですか?」

「ちょっと待て」

 目を閉じ

 集中する鉄矢

「いない」

「「?」」

 意味がつかめない。

 掴めないまま予感は現実に昇華される。

 カツカツカツカツと足元に転がる小石が震えていく。

「何処にもいないんだ。この森に動物が、虫も何もかも、川魚さえもいない」

 顔を見合わせるシャッハとカリム

「命を持つ物がこの周辺にいない。・・・くそ、苛烈なる光ってまさか」

「一体何があったんですか」

「みんな逃げたんだ。ココが危険だからな」

「何か分かったんですか鉄矢」

 じりじりと背筋を這い登る焦燥

 意味は全く分からないが、この少年が何かに気が付いた事を感じる。

「ああ、今すぐ封印作業を止めて撤退させた方が良い」

「な、それは無理です。ベルカがこの封印を中止する事がどんなに」

「じゃなきゃ、せめて――――っ!! カイロス! ダーク送還!」

『Yes My Lord!!』

 ギュィンと先程光った宝玉がまた瞬く。

 同時に凄まじい轟音が鳴り響く。初めは弱く低く。

 だがコンマの秒毎に鳴り響く音は圧力を伴って鼓膜を圧する。

 空気が

 大気が

 否、世界がそれに恐怖し慄く様に!

「俺の後ろに隠れろ!! 全員、対物理防御だ!!」

 声と思念を最大音量で飛ばした鉄矢は廻りいるボケッとした人物を蹴り飛ばし、殴りつけてでも自分の後ろに隠す。

 それは実際に何秒だったのだろう

『My Lord! 限界です!』

 カイロスの声が響いた。

 鉄矢はコンマの狂いも無く反応する。

「分かった」

「鉄矢! 説明を!」

「喋るな!!目を瞑って耳を押さえろ!!」

 尋常でない鉄矢の様子に、それを超える世界の異変に、シャッハを含めた何人かが騎士甲冑を纏う。

 シャッハは鉄矢の声に従い私をぎゅっと抱えて鉄矢の背後で目と耳を閉じた。

『Distortion Shield』


 その声がした次の瞬間






 空が光る





 次いで爆音が世界に轟く






 全ては光に包まれ、音も何もかもが消え去った無明の世界が到来した。











 








*****************************















「―リム!カリ―!し、り―してくだ――!」

「起き―い―か?」

「は―。どう―ら―――ようです」

 うっと自分の口から空気が漏れる。

 頭と耳がいた


 バチィン


「痛い!!」

「よし。起きたな」

「ちょ、無理矢理すぎでしょう!!」

 鉄矢とシャッハの声がする。ついでに言うと右の頬がジンジンする。

「カリム。俺を見ろ、見えるか?俺の名前は何だ?」

「・・・鉄矢?」

「良し。頭とか痛くないか? それとも痛いところが無いか?」

「ほっぺがジンジンします」

「良し。痛覚あるな」

 バチィ!

「いたい! な、何を!」

「寝てる暇は無いぞ。シャンとしろ」

 左頬を叩いた鉄矢はカリムに自分が着ていた上着を掛けてやった。自分の服を見るとと所々が切れて素肌が晒されている事に思わず頬に熱が駆ける。

 だが、それ所ではない。

「鉄矢?一体何があったんで――」

 辺りを見渡すだけの余裕が生まれたカリムは絶句した。

 先程までいた人々の殆どが地に伏している。

 怒号と悲鳴そして異様な気配が辺りを包んでいた。

「流石だな枢機卿団。封印に直撃して衝撃の殆どが相殺されたとは言え死者は無いみたいだ」

 枢機卿団の騎士達が封印の為に来ていた一般の騎士や、それ以外の人々全員を護ったようだ。

 だが、それで彼らの全員が手傷を負っている。護られた側も死んでいないだけの人物が殆ど。

 ココに居るのは怪我人だけだった。

「鉄矢、一体に何があったのですか?」

 その惨状に顔色を悪くしながらもカリムは何が起こったのかを鉄矢に聞こうとするが

「鉄矢!貴方!」

「大丈夫。痛くないよ。で、何があったかだよな」

 見ればシャッハは無理矢理鉄矢の各所にある傷口を縛っている。

 彼女がカリムを起こさなかった理由がコレだった。いや、声は掛けたのだが。

「隕石だ」

「いんせき?」

「ああ、隕石が降って来て封印に直撃したんだよ」

「そんな・・・」

 自分達は最も隕石の墜落点から離れた所にいたのだ。それでもそれなりにダメージを受けた。

 封印作業に入っていた彼らは

「そんな、隕石が落ちてくるなんて情報は………」

「元から、ベルカにはそう言った施設自体がないだろうが。幾ら調べたって限界はある。………兎も角死人は出てないみたいだから、カリムとシャッハはあいつらの回収と治療を頼む」

「貴方は、貴方の空間転移なら」

「いや、俺は」

 カリムの声に鉄矢が首を振った所で




――――――ウ、ウ、ウ、ウルルヲアアアアアアアアアアアア!!




 大地を揺るがす咆哮が鳴響いた。


「あいつの相手をしに行く」

 咆哮により土煙が一瞬晴れる。

 そうだ、隕石なんていう大エネルギーが封印にぶつかったら………?!

 大地が破裂したようなクレーターの元に漆黒の何かが鎮座している。

「そんな」

「ま、苛烈なる光っていうのは隕石の事だったんだな。なるほど、それは防げない」

 嫌に成るほどに冷静な声が響く。

 バキィン

 鉄矢の服が硝子のように砕け散り、その下から肘まである漆黒の手甲とやや大きめの脚甲を揃え、法衣と鎧が合わさった様なバリアジャケットが顕現する。

 その隙間

 首筋や腕、そこ等中に見える傷跡が目を引いた。

「アイツの怒りを感じる。まあ、何百年も封印されてたんだ怒って当然だな。落ち着くまで、アイツを受け止めてくる」

 くっ

 という声。

「そんな無理よ。だって、もう戦える人なんて」

「シャッハ、カリムとみんなを頼んだぜ?」

「いえ、私も一緒に」

「駄目だ。見れば分かるだろ? もう動けるのはここにいる奴は何人も居ないだ。騎士だけで百五十人、ミッドからの護衛が五十人、俺がアイツの相手している間に何とかしてくれ。頑張れよAAA」

「ですが」

 シャッハは自分達を護った為に傷を負った少年を見つめた。

 が鉄矢は既に言うことを終えたのか、未だ膝を突いているカリムの頬に手を寄せてしっかりと目を見つめる。

「カリム、インフィニティーコアの転送願いを出してくれ。この状況なら疾く出してくれる筈だ」

「貴方は」

「行ってくる」

 そう言って微かに振り返る鉄矢。

 少年は騎士の顔をしていた。

 誰よりも騎士の顔をしていた。

 子供らしさなど、人間らしさなど既に其処にはなかった。

 深紅の瞳で遥か遠く彼方を見つめていた。

 ザァっと一瞬強い風が吹く。

 バサバサと彼の外套が揺れる。

 広く強く大きい背中

 そうかと納得する。

 彼は既に子供ではなかったのだ。

 親の居ない子供、貧しい子供に偶にある、幼少期を奪われた者の姿。

 酷く不安定で悲しく

 だが、それ故に強い。

 ああ

 理解した。

 先ほどから零れる喜びの声は彼の物だった。

 視界に映る漆黒の影。

 その魔力を感じる。


「はっ、動くぞ………アレ………」


 
 GWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!




 鉄矢の笑んだ声。

 同時に上がる雄叫び。

 風が――――奔った。

「ひっ………」


 思わず声が引き攣る。

 だが、それを恥じる必要は何も無い。

 何せ視界に移る総ての人が一斉に脅えた。


「お、ブレス」


 だが、その恐怖に引き攣る声の中に暢気な声が響く。

 其処に恐怖は無い。

 其処に焦りは無い。

 本当に何も無い。


 この子は何も感じないのか?


 体が震える。

 自分を抱えるシャッハの身体でさえも震えている。

 何だ、なんだ何だナンナノダアレハ?!


 視界の先に漆黒の光が宿る。

 風が吹く。風が轟く。

 漆黒の穴が開いてる。

 あれは………地獄の門だ…。間違いない。

 アレが広がってこの場に居る人間は総て死に絶えるのだ。

 全身に悪寒がこれでもかと走り抜ける。

 全身の細胞が脅えている。毛先から爪先まで一つ残らず総てがだ。

 足が諤々と震える。

 顔面は一気に蒼白

 歯の根は合わずにガチガチと見っとも無い。



「拙いな…」

『何故ですか? 狙いバレバレですよ、無駄に力を使わせて、隙を突いてボコボコにしましょう』

「辺りの人間吹っ飛ぶわ………行くぞ……」

『ちっ』


 ダッ

 土を蹴る音


 完全に脅えたカリム達ノーマルな騎士、魔道師達は論外として、シャッハを含む枢機卿団の人間全員が怯み、後退った。

 その只中

 その声は余りに明瞭だった。

 誰もがその威光に怯んだ。


 それは当然だろう。

 その瞬間、その漆黒の何かが放たんとした最大瞬間魔力量は優に億を超えていた。

 誰もが足踏みし、誰もが息を飲んだその中で


 誰よりも速く

 何よりも疾く

 鉄矢は駆け抜けた。


 だがそれでも

「間に合わないな」

『ですね、Di』

「いや、アクセルだ」

『了解…Acellcore Extra Charge』

 真紅の宝石が瞬く。

「………クロックアップ」


 そして言の葉とともに全てが停滞する。


 ゴキンッ

 指の関節が鳴る。

 鉄矢は停滞した時間を疾走し、漆黒の巨体に向かって飛び上がった。

 時間にして一秒

 アクセルコアのチャージ一回分で可能なクロックアップの限界時間だ。


『続いて Dimension core Extra Charge』

 全身に強化魔法

 右拳にエタニティフィスト・ギガドライヴァー

 唸りを上げる鉄矢最強の拳

 だが、その魔力は総量で二百万以下

 対する漆黒の化身は億越えである。

 勝負所か話にも成らない。

 結果は歴然だ。

 漆黒が放つ光を核だとすれば、鉄矢はマッチ。

 核の炎の中で朧火が燃えられる理由は無い。

 

『Cyclone』


 だが鉄矢はソリッドジャンプで一歩外に跳んだ。

 確かに直撃すれば鉄矢の細胞ごと蒸発する。

 だが、それならばクロックアップした意味が無い。

 疾走速度と対する相手の魔力収集速度を鑑みるに到着と相手のブレス発射はほぼ同時と鉄矢は見た。

 流石に鉄矢が知る限り最大級の砲撃魔法【スターライトブレイカー】をも遥かに上回る砲撃に近づきたいとは思わない。

 しかも余りの魔力に空間が歪んでいて空間転移で近づく事も出来なかった。
 
 クロックアップの超高速移動で無ければ其処に間に合わなかった。

 だから

「グレネイドッ!!」


 ガギィンと言う鉄骨同士が衝突したかの様な異音。

 
 弾ける衝撃

 炸裂する波動

 対人に直撃したならば高ランク騎士、例えばシャッハであろうと一撃の下に戦闘不可能にさせる奥義。

 とある女性から貰い受けた必殺の拳。

 
 ギィィンッ!! と言う振動

 ピシィィッと言う砕ける音色


 GYA!!


 グルッン!

 弾ける竜顔

 口内に蓄えられていた億越えの魔力が弾け、爆砕した。


 AAAAA!!




 その瞬間

 鉄矢は初めて砂塵に覆われないそれを見た。

「…おぉ、コイツは………」

 爆光に鉄矢の言葉が掻き消される。

 同時に口門から光の激流が吹き溢れた。

 発射の、正にその瞬間に横合いから受けた鉄拳に顔面を跳ね飛ばされた『漆黒の竜』のドラゴンブレスは怒りのままに放たれる事は無く明後日の方角に弾け飛び、同時に漆黒の竜の顔面付近で暴発した。

 暴発といっても億越えの魔力である。

 爆光は殴りかかった鉄矢を包み込み、同時に漆黒の竜―――ファフニールの顔を焼いた。

 雄叫びと、黒煙を上げて、竜は――――――――倒れない。


 AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 更なる怒りの大気圧(こえ)を発し尚も魔力が高まっていく。

 だが、幸か不幸かその場に居た全ての人間の意識はほんの一時、ファフニールから外れていた。


「そんな、馬鹿な………!?」
 
 その声は誰が発したのか

 誰でもあり。

 誰でもない。

 全ての人の声であり

 全ての人の思いであった。

 

 ファフニールのドラゴンブレス

 その二,三割程度の破壊力が炸裂した地表が溶けている。

 溶けて、溶けて、溶けて

 唯黒い。

 見えない。底が見えない。

 一体どれ程の破壊力だったのか。

 破壊の規模で上回る兵器はある。

 例えば、時空管理局が保有する最強の兵器アルカンシェル

 あれならば周囲数十キロに渡って完膚なきまでに破壊させる事が出来るだろう。

 だが、それはあくまでも魔力炉があってのこと。

 それは生命が生み出すものとは違う。

 自然現象でもない。

 誓っても良い。

 アレは生命が持ちえて良い破壊力では無い!




「………て、てつやは?」

「…分かりません、あれ程の魔力に突撃したのですから、消し飛んでいても可笑しくは………」

 息が乱れていく。

 怖くて怖くて堪らない。

 駄目だ。

 アレは駄目だ。

 アレを倒そうなどと

 アレを封印しようなどと

 それは余りにも無謀

 アレは………まさに



 GROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!

 

 神か悪魔だ。



「おおおおおおおおっぉぉぉぉ。撃て、撃て……ウテェェェ!!」


 耐え切れず、溜まらずに、恐らくはカリムと同等の恐怖と諦念を抱いたであろう枢機卿団達が吼えた。

 
 同時に目まぐるしい数の、夥しい数の火線が飛ぶ。

 
 第五枢機卿団に属する騎士達の攻撃魔法であった、彼らは皆Aランク以上の騎士であるがそれにしても小隕石の爆心地付近に居て尚も戦闘能力を保持出来ていた事は驚嘆に値する。

 それも枢機卿団員のほぼ全員が…だ。

 その練度

 そして行われたであろう訓練濃度は、ランクを除けば本局の教導隊にも匹敵するやも知れない。


 だがそれさえも無意味だった。


 火線

 火球

 爆発

 衝撃

 轟音

 
 数多の魔法が突き刺さる。

 数多の衝撃がファフニールの体躯に突き刺さる。

 だが、その殲滅を目的とした遠距離攻撃はあくまでも布石。

 騎士である彼らの真の実力を発揮できる場所は接近戦。

 遠距離攻撃等で決める気は無い。

 決まるとも思われない。


 魔力光が飛び交う中、十二の影が飛ぶ。

 彼らは枢機卿団の中でも選りすぐりの人員だ。

 魔道師としては全員が近代ベルカ式AA~AAAランク。

 飛び交う魔力光とは密度、量ともに桁違いの魔力がそのデバイスに込められた。

 それは過去に何十何百もの魔獣を葬ってきた完璧な連携。

 そう、例え相手がSランクを超える魔獣であろうと葬ってきた。

 
 此れまでは――――――――であるが。


 込められた魔力は全員が先ほど鉄矢の放った攻撃の倍以上。

 彼らは鉄矢の放った攻撃から相手の耐久力等を予測想定していた。

 故にこの攻撃は通る。

 先程の魔道士の魔力が200万程度ならば、此処に居る全員がその魔力を上回る上にこの人数。

 倒せずとも攻撃は通る。

 それを幾度と無く繰り返せば如何な化け物でも………!!


 長剣が、戦斧が、槍が、斧剣が、最新式のベルカ式デバイスがカートリッジをロードする。

 それぞれが、個人用にチューンナップされたオリジナル(個人用)デバイス。

 騎士と武器

 恐らくは共に聖王教会トップクラスにあるだろう。

 それが破壊と言う一点に特化した放たれた。


 爆音と爆光が響き渡り。

 バギン、ボギン、ビキッ
 
 ガラスの砕けるような音が響いた。

「なにぃぃ?!」
 
 全てのデバイスが砕け散った。

 

―――グゥゥゥゥ

 漆黒の竜が何かをした訳ではなかった。

 間違いなく彼らの攻撃は直撃した。

 各々のデバイスは渾身の魔力と共に放たれ、単純な硬度差によって自らの衝撃で砕け散ったのだ。


―――ゥゥゥゥゥゥ!!

 低い唸り声

 衝撃は全身を包み込む竜の魔力によってほぼ相殺され、衝きぬけた刃も竜鱗(ドラゴンスケイル)に容易く弾かれた。

 ダメージは皆無だ。

 漆黒の竜は目に映るものを脅威と認識していない。

 在り得ない事態に数瞬の停滞が騎士達を襲う。


―――ルゥゥアアアアアア!!!


 だが、漆黒の竜にとって、脅威等と言う感情はコレまでの時間に感じた事等無い。

 だから其処に居るのが何であろうと関係がなかった。

 ニクイ

 ニクイ

 ニクイニクイニクイニクイニクイニクイ

 感情が強すぎて、余りにも怒りすぎて

 思考する力も無いほどに荒れ狂う心が暴走を引き起こす。

―――GAッ! AAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!

 爆音

 そうとしか取れない、激咆、哮撃

「ヒッ、?!」

 魂をも凍らせかねない衝撃に鍛え抜かれた筈の騎士が声を漏らした。

 それは周囲の人間に絶望を抱かせる悲鳴であり、今日まで続けた訓練の全てを放棄させた恐怖の叫びだ。

 身に纏う億の魔力

 魔法合金をも上回る硬度

 ありえない。

 この上なく優れた騎士達だからこそ理解した。

 叶わない。

 一矢報いる事さえも出来ない。

 自分達は、此処で確実にコロサレル。

 確定された未来。

 目蓋に映る破壊の爪。

 それはゆっくりと振り上げられ


「こんのッ! 極楽トンボ共がッッ?!」

『ちっ、ウンコクズ共め』


 それが………流された。

 爆砕する大地。

 飛び散る火花。

 圧倒的な、余りにも圧倒的な魔力と質量が大地に叩きつけられ、大量の『岩盤』を巻き上げる。

 直撃していれば、骨も残らず爆散していたであろう鉄槌がたった一本の『ちっぽけな剣』で受け流しされたのだと、誰も理解できない。

 だが、鉄矢にしてみればそれ程不思議な事ではなかった。

 確かに凄まじい一撃だった。

 篭る魔力、滾る筋力、そして質量さえも桁違い。

 でも『慣れ』ている。圧倒的な力と言うものに。


 そもそも、魔力だけを言うなら、今周囲に転がっているAAAランク魔道士達だって、鉄矢にしてみれば桁違いだ。

 攻撃が通じない?

 当然

 相手の方が強い?

 寧ろ弱かった方が少ない

 絶対に勝てない?

 ガキの頃から九歳まで訓練した相手こそがそれだ。


 つまり、鉄矢にしてみれば、絶対に叶わない相手、圧倒的な存在、無残に殺される未来予想図、そういった全てに慣れっこなのだ。


「ちっ、せめて右手の痺れが取れるまで引っ込んでろよ」

『本当に役に立ちませんねこの連中』

 鉄矢の舌打ちと共にカイロスからの毒舌が発信される。

 さきほど、竜の息吹(ドラゴンブレス)を発射直前に砲門(くち)を最強の鉄拳で捻じ曲げたのだが………痛かった。

 そりゃ、魔法合金でさえ砕けるような超硬度の竜鱗を思いっきりぶん殴ったのだ。

『折角、グレートワイバーンから製作したのに一撃で砕け散りましたしね』

「ああ、滅茶苦茶、痛かった」

 まるで素手でカイロスを殴りつけた様だったとは言わない。

 とは言え、痛むだけなら兎も角、骨の芯まで響いた衝撃はカイロスを握るのにも影響を与えると判断。
 
 爆裂するドラゴンブレスを尻目にスタコラサッサと森に隠れ、マッサーーージを試みていたのだが、見る間にやばくなって行く状況に仕方なく飛び出したのだった。

「しょうがない、次」

『Yes。Barrier Jacket Duelforme 4.04 Main-de-fer part Installation』

 砕けた右手甲の代わりに両方の手甲を交換。

 その時点で、ファフニールは第二撃を放つ準備を終えていた。

 だが、余裕を見せながらも鉄矢に油断は無かった。ただ、慎重にファフニールの攻撃のタイミングを測っていたのだ。

(………くる、くる、くる、今!)

 ミサイルの様な豪腕を寸分で見切りカイロスを合わせる。

 開いた物を掴むと言う事を拒否した兇器の様な五指の合間に入った剣は、微かに軌道を逸らし大地を爆発させるに留めた。

 もっとも

「あだだだだだ!!」

 ガンッギンッゴンッガンッ

 爆発した鉄塊のような岩が其処彼処にぶつかるのでノーダメージとはいかない。と言うか地味に効く。可能ならば逸らすのではなく避ける事が出来れば一番良いのだが………。

『激しく邪魔ですね』

 メインコアの輝きと共にカイロスが愚痴る。

 此方も全くの同意見だった。

 ほぼ、完璧に受け流しても衝撃で身体が軋む。

 そう何度も繰り返してはいられない。だがそれでも

―――RUOOOOOOOOO!!

「おんどりゃあああああああああああああ!!!」

 咆哮に怒声が被さる。

 互いの一撃は全くの同時。

 差は歴然。

 真っ向からぶち当たったならばカイロスは兎も角、此方の腕が持たない。

 斜め下方からの掬い上げる様な斬撃。

 鉄矢は竜の身体を熟知している。何せ九歳の頃から百竜組み手を一月ごとに行ってきたのだ。管理局、本局を通して鉄矢ほど竜と言う種との戦闘経験に溢れる人材は恐らく居ない。

 だから如何に規格外の身体と魔力を持とうとも、肉体を持つ以上生態的な特性、つまり関節の曲がる方向があれば、生物的な反射も存在することを鉄矢は知っている。

 指関節に直撃した反応で五指が歪む。

 間を抜けるようにして前転。

 パワーはあるが速度は此方の反応速度を振り切るほどではない。

 竜としての体型は四足の飛竜型。

 後ろ足のバランスから言って、短時間の二脚運動も可能。

 現に今も両前腕を振り回している。

 振り切って竜鱗に弾かれたカイロスを流れのままに背に掲げ、弾き飛ぶ弾丸の如き岩石を防ぐ。土靄の立つ中、そのまま前腕にカイロスでぶっちぎる。


 ギッィィィン


 …ッ、弾かれた。やはり、通常攻撃は全くの無意味。だが、注意は此方に向きつつある。

「よっ、と。ふぅッ!」

「ぬわぁっ!!」

 右脚に一人引っ掛けて、遠心力で弾き飛ばす。

「うぜっ」

 あと十人。

 直撃は避けるように軌道変更してやっているが、弾け飛ぶ岩石類と魔力衝撃までは防いでやれない。

 初撃の放心状態でそれらを喰らったのが拙かった。

 バリアジャケットだけで防げるほど生易しくも無かったのか、それとも隕石落下によるダメージが表面化したのかは分からないが、もうこいつ等は使い者に成らない。

 勿体無いな。折角の高ランクの戦力が使えないとは………。

『My Lord。枢機卿団が』

「あん? うげ………」

 再び舞い踊る魔力砲。

 鉄矢の剣戟よりは十分に強力なそれにファフニールの注意が逸れる。

「こんっのッ! クソ、浮気すんなっての!!」

『それを貴方が言いますか………』

「うっせ、シリンダーシステムロック解除」

『O.K.My Lord』

 ドルンッ、ドルンッ!!

『Slash Forme』

 魔力増強に反応してか、紅眼が応じる火線よりも此方を注視する。

『DimensionSlash・Burst』


 ドルンッ!!


 アクセルを引き絞り、開放。

 増強され溜め込まれた魔力が押し付けた状態からでも鉄塊を易々と両断する出力で噴射される。

 点火する大型魔力ブースター七機。

 小柄な鉄矢の身体を瞬時に高速域へと追いやり、その前腕に渦を巻くような刃の軌跡を作り出した。

 派手な火花が散る。

 鋼鉄と鋼鉄が甲高い悲鳴をあげ、傷は、衝かない。

 カイロスにもファフニールの竜鱗にも。

 困ったものである。

 感触からして、カイロス・ノヴァに使用される魔法合金【ヒヒイロノオオガネ】よりも更に硬度が高い。

 一般的なデバイスとでは木と鉄ほどの差があるだろう。

 カイロス以外のデバイスが砕けたのにも納得だ。

 これでは通常攻撃も魔法攻撃もほぼ無効化されてしまう。


 本当に


「困ったぜ!!」

 顔面まで上り詰め、カイロスを振るう。

 無論、細心の注意を払ってだ、何時ものように硬度差を狙った乱暴な剣ではコイツには傷一つ付けられない。

 真一文字に切りつけ、流れるままに十字切り。

 全てが火花を上げて弾かれる。

 並みの魔道士なら防御魔法を使う暇も与えない。

 巨重を感じさせない乱れ切り。

 其処に力押しは無い。

 全斬撃が全身駆動を利用した斬鉄に足る技量。

 大剣を扱うには、繊細すぎるその技は偏に武器を傷つけないために身に着けたものだ。

 舞う、舞う、舞う、舞う、舞い続ける。

 不安定な竜の肩から、数多の斬撃が雨霰の如く舞い落ちた。

 だが、無意味。

 効果が無い事は鉄矢自身が良く分かっている。

 今は、飛び散るような魔力砲よりも『目障り』にならなければならない。


 斬る斬る斬る斬る斬る

 無駄と知りながら一心に

『今!!』

 声と共に空間転移。

 吹き荒れる魔力流に座標固定もままならないが今は構わない。

 転移位置は―――多分右後脚の辺り?

「お? ちょっと入ったか?」

『やや、ですがね』

 巨大な脚の隙間から先程まで登っていた竜の顔面には竜自身の腕が衝き立っていた。

 此方の攻撃はまるで通らなくても、自分自身の腕ならば、同じ硬度同士ならば

「通ると思た!!」

『やや、ですがね!!』

 更に残る前腕にディメンションスラッシュ・バースト。

 狙うは関節の裏


「どっせいいいいいい!!!」

 
 メキョ!!


―――GURUOOAAAA!!


 強烈無比な『ヒザカックン』を受け、さしものファフニールも倒れざるを得なかった。

 どんなに強力でも、関節を持つならば如何なる生物にもヒザカックンが有効である事が証明された瞬間である。


 ズッシイーーンッと微震を辺りに振りまきながらの転倒。

 今の内に、幾人か周りに居る奴らを弾き飛ばしても良いのだが、全員を此処から退かすのはハッキリ言って面倒だ。

 このまま戦闘を繰り返していれば全員を退かす前に、何人踏み潰されるかもしれないし、先程のように無駄な魔力砲を撃たれてそっちに行かれたらどうしようもない。



 なら………

「いっくぞカイロス!!」

『O.K.』

 グッとファフニールの腕に力が篭ると同時に、再度ヒザカックン。

 持ち上がりかけた顎が落ちる。

―――ONE

 カイロスからのサーチ情報を脳に叩き込み、影響範囲内の人物を特定。範囲内の人数は三名。

 立ち上がる前に全員を弾き飛ばさなければ。ノヴァフォルムに変形させたカイロスからヴァニッシュフォルムの長剣を地面に突き刺す。


―――TWO

 一人目(気絶していた)をカイロスに引っ掛けて、そのまま投げる。

 飛距離は出なかったが今は影響範囲外に飛ばせれば良い。ついでにディフィーションのショットガンも突き刺しておく。

―――THREE

 二人目、走り込みながらトゥーキック。信じられないと言った顔をした騎士が吹き飛んでいく。まあ、ガードしてたし大丈夫だろう。

 ブラストフォルムの双剣を放り投げ、二箇所に衝きたてた。
 
―――FOUR

 三人目、最後の一人。間が悪い奴。両脚をファフニールに挟まれているようだった。

 迷いは無い。流石に三度も『ヒザカックン』をやらせてくれるとも思えない。次の瞬間には走り寄った騎士の両足を切断。弾き飛ばす。

 遺されたカイロスをその場に叩き付けた。


―――EXTRA CHARGE!!


「『D.G Impact!!』」


―――大地が、引っ繰り返った。

 その場に居たものは、後にそう語ったそうだ。

 実際、そうとしか言えない光景であった。

 しかしそれは先程の様に魔力による爆発ではない。

 カイロスの各パーツを始点に描かれた五芒星の魔法陣は重力を反転させ、更に次元魔法による衝撃効果で岩盤を巻上げたのだ。

 もっとも、その事に気付ける術者は居なかったが………。



 浮き上がる大質量。

 これほどの質量を飛ばすとなるとオーバーSランク魔道士でも一人では不可能であるかもしれない。

 だが重力魔法に質量は関係無い。問題となるのは寧ろ、効果範囲。

 重力系の魔法をコアによる魔力変換に頼っている鉄矢にはそれ程の規模の重力魔法を起こす事は難しい。

 カイロスの各パーツを五芒星状に配置する事で、必要な効果を得るための補助を働かせる事が出来る。

 しかし無論の事ながら、コレを行うには相手が動いてしまっては意味が無い。

 しかも一度発動させた魔法陣に使用した魔力は還ってこない。

 失敗は、大いなる損失を生む一種の賭け。たかが人間一人の両足を切断する事を辞さない程度には………。


「今だろ!!」

『EXTRA CHARGE!!』

 ディメンションコアを励起させる。

 深度の向上した『空』の魔力を右脚に集中。

『EXCEED!!』

「スマッシュ!!」

 反重力に捕らわれた巨竜に十トンに達する一撃が通った。

 通常重力状態でさえその身を揺るがしかねない衝撃ファフニールが吼えた。

 無重力力場外に弾丸の勢いで跳ね飛ばされながらも、空中で翼を開き姿勢制御、四,五百メートルほど跳ね飛ばされた地点に両足をついて着地した。

「くそ、もっと離したかったのに」

『まあ、人間の居ない所に跳ね飛ばせただけでも良しとしましょう………』

 鉄矢の愚痴に圧縮魔力の残滓を排出しながらカイロスが応える。

 ぼやいてみせるが現状は変わらない。

 そもそも、こう言った軽口は戦闘では無意味だ。

 しかし、鉄矢は軽口は止めない。

 隙を見せる、と言うものとは違うが、気を抜くことなく相棒と言葉を交わせる程度にはマルチタスクに余裕を残している。

 だが、こう言った事態で軽口は非常に大きな意味を持つ。

 先程の騎士達の様に、無言で生真面目に、決死の覚悟を持つ事も悪い事ではないが、そういった場合どうしても思考に余裕が無くなる。

 多くの試練、苦難を乗り越える際に必要なものは何か。

 折れない意思か?

 挫けぬ心か?

 諦めないと言う決意か?

 そのどれもが正解だろう。

 それらを無くして降りかかる試練を突破する事は出来ない。


 しかし、其処までは枢機卿団も鉄矢も何も変わらない。

 いや、たった十四歳の少年にベテランの騎士達と同じ心構えを持っている事でさえも驚きであるが、鉄矢はそれにプラスして一つだけ、彼ら騎士達が持ち合わせていなかったものを持っていた。


 それは



「しっかし、綺麗なドラゴンだよな?」

『はっ?』

 ファフニールが怒りの声を上げる。 

 咆哮と言うよりも物理的な風圧が鉄矢の顔を襲う。

 周りに転がる数人が絶望的な顔色を見せる。

 それを無視して、無残に潰れる一組の脚が落ちてくるのを受け止めた。

 先程鉄矢が一刀の元に斬り捨てた一人の騎士の両足だった。

「おい、アンタ、アンタだアンタ」

 一番近くに居た騎士に両足を預ける。

「おい、コレは………」

「空間魔法で切り離しただけだから、暫らくくっつけとけば自然に戻るよ。と言う訳で後よろしく」

 背から説明を求める声がしたが、鉄矢は無視した。

 今は、そんなものよりもずっと気になる事があるのだ。

 漸く、全体を視る事が出来た。

 先程から、近くに居すぎて全体図を見る事が叶わなかったのだ。



 美しい漆黒の竜鱗(ドラゴンスケイル)

 深紅の魔眼

 額に据えられた桃色の逆鱗

 流麗でありながら、力強いその完璧なまでに美しいその体躯

 その竜の姿に鉄矢は

「ヤバイ」

『どうしたのですか?』

「惚れた」

『ゲ』 

 呟くような鉄矢の甘い台詞にカイロスは呻く。

 ほう

 と色っぽい溜息が持ち主から聞こえる。

 センサーで捉えられた脅威反応を美しいとほざく主に何と言ってやろうかと悩むカイロス。

 鉄矢の頭には既に目の前のドラゴンの事で一杯だった。

 感じられる魔力が既に人間にどうこうできるモノでない事もしっかりと理解している。
 
 それでも鉄矢はあまりにも美しいその竜に魅せられていた。

 自身の特性上これまで多くの竜を見てきた鉄矢だったが、コレほどまでの美人さんと遭うのは初めてだ。


 そして、そんな事を思えるほどに鉄矢の心には余裕があった。

 余裕とは笑いであり、笑いとはユーモアである。

 多くの人間が悲壮な決意を固めファフニールに飛び掛って言った中、鉄矢一人だけがそれを忘れなかった。


 砂塵が晴れて、一目見た瞬間から美しいと、感嘆していたのだ。

 だからこそ、余裕を失わない。

 軽妙な軽口も、カイロスとの戦闘に於ける無駄とも言える遣り取りも、全てはこのため。

 笑いを、笑みを、楽しむという心を失わない為の物だ。

 余裕は思考を柔軟にさせ、想像力を刺激する。

 仮に、枢機卿団の騎士達に心の余裕が残されていたならば、先程の様な無様は晒さなかっただろう。

 少なくとも鉄矢ならば一度攻撃を留まり様子を見る。

 体制の立て直しも必要だし、自身の損傷も確かめたい。

 しかし、彼らは登場した余りにも強大な存在に心を乱した。

 隕石落下と言う在り得ない自体から早急に立ち上がった事は賞賛に値するが、その後の対応は拙かった。

 脅威を払おうとした初めの一発。

 それを誰が撃ったかは分からないが、アレが全てを決めた。

 場の流れを、攻撃に切り替えてしまった。

 せめて、其れが僅かでも効果があれば違ったのだろうが………絶望的な状況にあった彼らの心を折るに十分な衝撃だったのだろう。

 それも心に柔軟性を残せたか否かに寄った。

 この場の誰もが、歴戦の騎士達でさえも余裕を失ったその瞬間に

 唯一人


 天道鉄矢だけが余裕を失わずに思っていた。


 ただ、美しいと。


 そう思いながら、鉄矢は漆黒のこの上なく強烈な竜に近づいていた。



――――GRRRRRRRRRRRRR


 唸り声が聞こえる。

 自分が誰に吹き飛ばされたのかを理解したのだろう。

 深紅の瞳には怒りしかない。

 狂っているといって良い。

 それほどまでに怒っている。

 嗚呼

 これじゃあ話は聞いてもらえない。少し落ち着いてもらわなきゃな

――――GWOOOOOOOOOOOOOO

 ファフニールは目の前にやって来る矮小な物が気に食わないのかその場で銀色の鉤爪を振るった。

 ただそれだけで巨大な魔力の刃が飛んでくる。

 存在自体が魔力の宝庫

 手を動かす事

 それが既に魔法である。

 唸りを上げる魔力刃

 防げない。ファフニールにとっては戯れの一撃でもそれは天道鉄矢の魔力総量を遥かに超えている。

 全魔力を防御に費やした所で防げない。

 よって

「ふっ――と」

 鉄矢は最小限の動きで避けた。

 ファフニールとしては何故目の前の生物が生きているのか良く分からない。

 自身に向かってくる者は必ず自分に敵意を抱いてくるモノだ。だが目の前の存在にはそれが無い。

 恐怖すら感じない。

 怒りに揺れる脳で微かに考えながらもその手は虫を払うかのように振られる。

 今度は槍の様な魔力がズガンズガンと放たれた。

 一撃ではなく連撃

 次々とランスが放たれる。

 しかし

 すっすっす

 と尚も最小限の動きで鉄矢は避わす。

 バサバサと鉄矢の外套が揺れた。

 ファフニールは自分の身体が殆ど動かない事に気付いていた。

 長く封印されていた弊害だ。

 そうこうしている間に近づいて来るモノは己が爪の範囲に入っていた。

 先程、こうして己が爪を弾かれた事は覚えている。

 しかし、もう違う。

 身体は殆ど動かないが、それでも先程よりも徐々にだが身体は解れ始めている。



―――GWAAAAAAAAAAAA 





 咆哮を上げ大地ごと叩き潰すかのように右腕を振り上げ、叩きつける。


 ズズン


 ズバッガーーン


 込められた『力』により粉砕され押し込まれた大地は次の瞬間には炸裂した。

 ファフニールはコレで死んだだろうと満足する。

 先程のモノよりも尚も巨大な岩石が炸裂する空間で生きていられるようなモノは居ない。

 そして次にファフニールは竜にあるまじき事だが驚愕した。

 なんと先程のものが自身の手の甲に立っているではないか。

 いや、なるほど、確かに其処は安全かもしれないが。

 ファフニールは未だに良く見えていない緋色の眼を瞬かせ、その存在を見ようとした。

 








 なるほどファフニールの力は恐るべきものだった―――だが、真に恐るべきは鉄矢の胆力である。

 鉄矢は自身を間違いなく圧殺できる腕が迫る中

 これっぽっちも目を逸らさず冷静に指と指の間に入り込み

 更に階段を上るかのように自然な動きでファフニールの手の上に乗り込んだのだ。しかもファフニールの手が地面に叩きつけられる一瞬の間に。先程までは周りに他の人間が居たために使用できなかった回避法だ。

 だが、先程よりも更に威力が上がっている事には正直驚いた。その誤差は十回に三回は失敗する程の致命的とも言える隙を与えた。そのギリギリで命を拾ったような状況で

「よう、そこの美人なドラゴンさん。お茶でもしないかい?美味しい紅茶とシュークーリムを出す店を知っているんだけど?」

 鉄矢は一瞬の躊躇なくファフニールをナンパした。

 いや、実際こんなでかい生物店に入らないだろうとか、そんな問題は棚上げである。

―――GYAAAAAAAAAAAAA

 ファフニールが腕を振る。

 音速でも突破しそうな勢いだったので鉄矢は数瞬差で降りた。

 流石に音速突破の衝撃はバリアジャケットでは防げない。

「なろほど、まずはダンスがご希望か。いいぜ、たとえどんなに難解でもあわせてやる」



 鉄矢の言葉を理解しているのかいないのか。

 連続で叩きつけられる左腕


「『はっ!!』」


 デバイスと主が同時に凶暴性に満ち溢れた声を放つ。

 同時にファフニールの視界から鉄矢が消える。本当に跡形も無く。

 ファフニールの漆黒の竜鱗に同じく漆黒の大剣が音を立てて接触する。

『Thrust』

 ジェットブースターが火を噴く。

 並みの魔導師、騎士ならば防御ごと叩き割るカイロスの一撃

 しかし

 ジィィン

 痺れたのは鉄矢の手だ

 鱗の一枚も割れない

 鋼鉄をひしゃぐ鉄矢の怪力に魔力を合わせてもダメージ無し。

 しかし鉄矢は其処で止まらない。

「パワー上げてくぜ!!」

「YES!!」

 豪!!

 魔力ブースターが吼える。

 咆哮を上げるカイロス

――――GYIII!!

 迎え撃つが如く咆えるファフニール。

 爪と剣が交差する。
 
 力の差は歴然。

 故に鉄矢は

 ドルンッ!!

 ブースターを更に強く。速度差が発生した体と腕は紙一重で避け、そのまま自重で押しつぶそうと走り寄ったファフニールの顔面にカウンターを決める。

 鉄矢の考えは正しかった。

 自分の力が足りなければ相手の力を上乗せして、何も不思議な事は無い。誰もが当たり前に行う、戦法の一つ。

 もっとも………この質量差でやろうと思えるような人間は少ないだろうが。

 そして当然の如く、竜鱗(ドラゴンスケイル)に傷は無かった。

 まるで、ダンプカーと紙飛行機。

 弾き飛ばされた鉄矢は、カイロスの全ブースターを逆噴射、森の木々を二、三本へし折って止まる。

「ぺッ、カウンターも意味無しね」

『体重に差がありすぎます。DGインパクトもエクシードスマッシュでもダメージは皆無です』

「ったく」

 聖王が封印しか出来なかったわけだ。あれではかすり傷を造る事にさえ大仕事になる。

『My Lord 気が付いているとは思いますが、アレは封印が解けたばかりで動きが鈍い。しかし、その状態でも貴方の戦力を遥かに上回っています。アレはSSSランクなんてものでは有りません。自然災害の類です』

「だろうな。魔導師じゃ、騎士じゃ歯が立たない」

『ええ』

「でも」

『ココに居るのは天道鉄矢です』

「なら」

『はい』

「いつものように」

『突貫です』
 







「はああああああああああああああ!!!」

―――GYAAAAAAAAAAAAAAA



 空間転移を繰り返しながら愚直に突進する天道鉄矢

 それを敵と認めたのか迎え撃つファフニール





 ここに戦鬼と邪竜が合間見えた。


 後に真竜の闘いと称される決闘が始まったのだ。




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No title

太陽の騎士誕生編更新待っていました

以前掲載していたのと違う部分や付け加わった箇所があり、どうなるのか楽しみにしています。

楽しみにしてました

いやあ、太陽の騎士ずっと楽しみにしてました(^_^)

もう本編よりも太陽の騎士、とりあえず以前の辺りまでを先に読みたい位です♪

No title

おお、久しぶりに太陽の騎士更新ですね!

前の鉄矢よりもダークサイドよりですね。なにがあったんでしょうか?
バトルシーンもけっこうかわってますね、しかし、助けるためとはいえ躊躇なく切とばすとは・・・。
最近、本編の鉄矢もバイオレンスだけどこの時期の鉄矢はさらに上ですねぇ。

大まかな流れは変わって無いみたいですが、ちらほらA'sの影響がありますね。
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