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ロスメモ A'S二十六話

ウルトラミス!!

久ぶりだからミスってしまいました!

おそばせながら、26話です。しかし、はやての口調は変換が聞かないから難しいです。でww


「しんっ、じられない!? 何してるのこの子は!?」

「んにゃ? どうかした?」

「如何したもこうしたも………。プランBの英雄君が、またやってくれちゃった」

「んん? どれどれ? あに? この竜? ひの、ふの、みの………少なくとも二十匹以上いるね」

「正確には約百頭。場所は、第六管理世界『コープス地方』」

「コープス? 『アルザス』の不良ドラゴン達の溜り場じゃん? 何だってそんな所に?」

「知らないよ。音声まで、伝えられるようにはしなかったし。巻き戻してみたけど、自分で飛び込んだみたいだし、しかもデバイスの大半を置いてってる」

「あっちゃー。一体何考えてんのかねぇ、この子」

「さあ、何にも考えてないのかもね………どっちにしてもプランBは捨てなきゃ成らないかも………」

「だねぇ、っていたたたた………」

「大丈夫? 確か六本だっけ?」

「衝きぬけた衝撃で反対側にも罅二本」

「カード六枚使ってもそれ?」

「そう。正直あの魔法だけは洒落にならないよ。アレで三分の一でしょ? フルパワーを考えると………。直撃してたら、あのヴォルケンのチビ助は木っ端微塵になってたね。と言うかあたしも直撃してたら内臓ぐちゃぐちゃにされたけど」

「まあ、使用中は一切の魔法使用が不可能になるし、キックバックも半端無いから。デメリットを限界まで上げて創り上げた一撃必殺の魔法って事に間違いは無いね。結局当たってない所を見ると命中補正も何もなさそうだけど」

「ま、たしかっあっ、たたた。つーー、喋ると痛い………」

「後で、治癒かけて上げるから」

「うん………にしても如何しよっかこの子」

「………そうだね。………仕方が無いから、少し様子を見ようか。経過次第ではプランBは破棄。初めの計画通りプランA『デュランダル』を使う」

「了解。にしても、行く先々で問題起こす子だぁねー」

「同感」



*****************************


「しんっ、じられない!?」

「ど、如何したの?!」

「この子、まだやってる………」

「ええ?! アレから………うわ、もう十七時間たってるよ?! 休憩入れたんじゃないの?」

「そう思って、巻き戻したんだけど、ずっとこの調子………」

「………馬鹿?」

「………馬鹿だね。第一初めに比べてキレが悪くなってる。このままじゃ、ってあー、あー。脚に入った。こりゃ駄目だ」

「んん?? お、おー、まだ止めない。凄い根性」

「馬鹿なんだよ。こんな怪我で動いたらますます悪化して、その内動けなくなるよ」

「んー。この子空間系の魔法が得意だし。危なくなったら、転移して逃げるつもりなんじゃないの?」

「今が、正に危ないときでしょうが」

「ま、そだねー」

「やっぱり、プランBは破棄かなぁ」

「元々の計画じゃなかったんだし、この子が『使えなく』なっても問題無いと言えば無いし良いんじゃないの?」

「それはそうだけど。プランBはプランAの補強策だし。実行できるならそれに越した事は無かったんだけど」

「でも、このままじゃ、あっ! あーあーあーあー。壁に叩きつけられちゃった、間違いなく何本か逝ったね。此処まででしょ」

「あーもう、結構時期は未定だけど、それまでに『ほぼ』万全でいてくれないと困るのに………」

「さて、これで後は逃げるだろうし………。そだね、それとなく、クロノ達に伝えて確保してもらっておけば良いかな?」

「だね………ってあれ?」

「どしたの?」

「………逃げない………まだ闘う気だよ! この子?!」

「はぁ~?! って本当だ!! 自分の状態分かってないのこの子はぁ?!」

「本当に、馬鹿だった」

「あー、もう駄目駄目。クロノ達に伝えてさっさと確保」

「もう遅いって。向こうに着くまでには役に立たなくなってるよ。多分」

「ふぅ、私はこの子が逃げたらデバイスに救難信号送るよう命令するから、傷に触るし先に寝てて良いよ」

「そう? んじゃ、そうしよっかなぁ」

「あ、ただ、システムへのハッキングとかの準備は任せて良い?」

「りょーかい。あいつ等の動向もこれから慌しくなるだろうしね」

「ん。お休み」

「おやすみ~~」



*****************************


「………」




「………………」




「………………………」



「うぃ~~、寝すぎたぁー。結局システムへのハッキングに一日もかかっちったし」

「………………………………」

「ってアレ? 起きてたの? あたしの方が遅かった? やっぱ、怪我があると身体が睡眠を欲しがるのかな?」

「………………………………」

「ん? え? アレ? まさか?!」

「………うん。まだやってるよ」

「そんな馬鹿な?! だってアレから………」

「もうすぐ四日目に入るよ」

「そんなに動ける人間が居るはず無いじゃん?! 大体、四日も寝ないで」

「寝てるよ」

「あ、休んだんだ」

「闘いながら寝てる。一秒とか、二秒とか」

「ッッッッ!!」

「成長速度が尋常じゃない。もう、並みの魔法生物じゃ相手にならない」

「でも、だって、くっ、腕無いじゃん!!」

「さっき食べられた」

「食べられたって………ッ」

「でも動きの『キレ』が増してる。さっきよりも、今よりも」

「んな、身体のバランス崩れてるのに、動けるはず無い」

「分からないけど、もう慣れてるよ」

「ふ、普通じゃない………!!」

「うん。普通じゃないよ」

「な、何でここまでやるの? 逃げれば良いじゃん。誰も文句は言わない、誰も見てない、誰かに命令された訳でもないのに………!!」

「見てれば分かる」

「なにが?!」

「覚悟が………」

「覚悟って」

「覚悟を決めたんだ。全てをやり抜く事を、この子は決めてる」

「すべてって、一体何なのさ」

「全てだよ。闇の書を完成させる事、闇の書の主を救う事、ヴォルケンリッターを倒す事、闇の書を手に入れる事………。それ、全部」

「無茶だよ」

「無茶だよね………」

「限界を超えてる」

「超える気なんだよ………」

「自分の?」

「人間の………だよ」



*****************************


「あと、三体!」

「頑張れッ! 頑張れ! 男だろ、此処まで来たら最後まで気張れ!!」

「あっ、あっ、うーーーー」

「避けて避けて避けて!! いよっしゃーーーーーっ!!」

「後二体だよ後二体!!」

「もう少し、後ほんの少しだ!! 頑張れッッ!!」

「あぁッ! もう目だってろくに見えてないよ?!」

「目ぐらい何?! 出来るって!!」

「駄目ッ!! 喰らった?!」

「立て立て立て立て立て立てぇーーーー!!!! あんたなら立てる!! だからすぐに立てェェェ!!」

「いよっし!!! 立ち上がり早い! コレなら追撃もらわない」

「カウンターをぶちかませーーーーーーーーーーーーーーー!! あたしが許す息の根を止めるニャーーーーー!!!!」

「馬鹿!! あんた今右手と左脚が無いんだ!! 自重の不安定さを考慮した回避運動と体重が乗らない分の攻撃範囲および半径における戦法を構築するんだよ!!!」

「入った!!! 倒れた!!! あ、未だだ!!! 油断すんじゃないよ!!」

「先手必勝!! 準備の間を与えずに必殺だーーーー!!」

「いよっし!! 瞬殺成功ぉー!! 残り………」

「「一体!!」」

「最後まで集中切らしちゃ駄目だよ!」

「魔力後どれ位?」

「残魔力0.1%以下。魔力切れを起こしたら、もう血も止められない」

「限界なんかとっくに超えてる。一発で決めなさい」

「………」

「………」

「………っ?!」

「っ………!?」

「………か、勝った」

「やり、遂げた」

「み、見た?!」

「見たよ………!!」

「で、でも倒れちゃった」

「う、うん。まずいよね。助けに行かないと」

「そ、そうだ。行くの忘れてた。行くまで持つかな?!」

「死ぬって? 在り得ないよ。これ程の、コレだけの『男』が、此処で死ぬなんて在り得ない」

「だね。でも、取り敢えず急ごう。間に合うか分からないし」

「でも、結果は出たよ」

「結果?」

「うん。勝った」

「………に?」

「だよ。決着は着いた。負けない。負ける筈が無い。この男に『十数年の時』を積み重ねて完成した姿が負ける様子なんて思いつかない」

「確かに………」

「プランBは決行させる。最高のロストロギアに、最強の使い手で………」

「了解。兎も角、救出して治療しなくちゃ。失った手足は如何する?」

「後で考えよう。最悪『無いまま』でも再構築が可能だって事は半年前に証明されてるんだし」

「っ? ………待って、誰か来た………」

「え、何処?」

「右奥の方………誰だろう? 何処かで見た事がある気がする」

「………でも、こんなに綺麗な顔してたら覚えてそうなもん………あ、あった。居た。思い出した、聖王大神殿」

「え? 何処?」

「正確には聖王大神殿の近くにあるゲオルギウスの宮で」

「ええぇ? あそこに最後に行ったのって、五年前の管理局と聖王教会との会合の時位だよ?」

「うん、其処に居た」

「居たって、あそこには位の高い騎士候とか、管理局のお偉方ぐらいしか来なかったじゃん」

「一人だけ居たでしょ。あの場所に、子供を連れてきた人が………」

「子供って………まさか、あの?!」

「ええ、【円卓の騎士(Kreis Ritter)】第一位「湖の騎士」セル・ランスロットの血族だよ」

「クライスリッターって聖王教会の『ナイツ オブ レジェンド』?! そ、そう言われれば確かに、あの時の子に面影がある。でも待って、一応確認取らないと」

「そだね。にしても、何でこんな所に? あ、運び出そうとしてる」

「分からない。でも、何にしても運が良かった。クライスリッターは、つまり現存するランスロット,パーシヴァル,トリスタンは諸王戦乱時代から存在する騎士の家系。噂だけど秘匿級のロストロギアも保持してるって言うし」

「怪我治してくれるかもしれない?」

「可能性としてはね。監視は続けて、いざとなったら行くしかないから」

「うん。それにしても………信じられない戦闘センスだったね」

「うん」

「………きちんと育てれば、十年…ううん、五年で………」

「駄目だよ気にしちゃ………」

「分かってる。ただ、惜しいなぁって思ってさ」

「そう言うのを気にしてるって言うんだよ………ん、来た」

「どう? 間違いなく本人?」

「間違いないよ。現クライスリッター【ランスロット】の孫」

「……ラン・ランスロット………か」






 その約五時間後のある場所
 




「なるほど、ランランか………ほげぇぇぇぇ?!」

「そう呼ばれるのは嫌いだ」









魔法少女リリカルなのはA's ロストロギアメモリー
  
      第二十六話 確かに掴んだ光
            されど今はこの手に無く(後編)





「っぐ、オマエ、普通本気で殴るか~~?」

「全然本気じゃないね。寧ろ軽く撫でてやっただけだ。それで痛むとは随分軟い身体してんのな?」

「そっかぁ? 感覚的には100キロ近い圧力を感じたんだが?」

「だから、そんなのジャブだろ?」

 何故ボクシングを知っている?

 そんな疑問を抱きながら痛む右頬を押さえた。

「んなこと良いからこっちだ」

 そう言ってチョイチョイと手を振る少女――ラン・ランスロット。

 なるほど、ランランかって言ったら微塵の容赦も無く鉄拳を差し向ける凶暴な人格を保有する人物である。

 だって、絶対あだ名はランランだろう? 親御さんからも絶対ランラン呼ばれるって。パンダかコノヤロウ。


「はぁ」

 愚にもつかない思考を放り捨てて溜息を一つ。

 特に行く当ても、逆らう理由が有る訳でもないからか、なんとなーく言われた通り付いて行ってしまう。

 鉄矢の眼前で薄い藍色の髪が、意外なほどに柔らかく左右に揺れる。

 反抗する気力が沸かない。

 現在、身体には殆どのエネルギーが残されていないのだ。

 こうして歩くだけで、背に百キロの重みを乗せられている様な疲労が襲い掛かっている。

 飯を食わせてくれると言うならば、何処にでも行く。

 現在の心境を正しく言葉にするならばこんな所か………。


「ぅ………」 

 目に入る白い光。

 長く古めかしい香りのする廊下の角を出た所で日の光が直撃した。

 太陽の光が眩し過ぎる。

 それでも、起きた時に比べれば幾らかマシだろう。

 目を針で突かれた様な、焼けた鉄球を目玉に据え返られた様な痛みに比べれば………だ。


 チュンチュンと言う鳥の鳴き声

 目線を光源である窓にやれば、色取り取りの花々が優美に咲き誇り、力強い大樹が根を這う様が目に入る。

 明らかに計算された魅せる為の庭、それも中庭だ。

 部屋の調度品の豪華さからもしやと思っていたが、相当な豪邸である。

 大体、一分歩いただけで三十以上の扉を見かけているのは一体どういう訳だ?

 一体幾つの部屋があるんだ?

 と言うか掃除は? 掃除は如何してるんだ?

「おい」

「あ?」

 何故か家のでかさに掃除する側の大変さを考えていたため、微かに反応が遅れた。

「そっちじゃない、こっちだ」

 何時の間にか立ち止まっていたランランを追い抜いてしまった。

 ………相当ボケてるぜ。

「ん、わりーランラほげえええええええええッッ?!」

 必殺の右が頬に炸裂した。

「しつこいね………オマエも…」

 …………………………………相当………ホゲてるぜ………ガクッ…。




*****************************



 ギイィィィイ

 古い、扉の軋む音。

「うぎゅー」

「ちっ、右の一発でノビるなよ」

「い、今のは絶対、魔力が篭っ、てたぞ………」

 駄目だコイツ。普通じゃない。普通のパンチじゃない。

 衝撃に頭蓋骨がカチ割れかけたぜ。

 頬を殴られた筈なのに何故頭蓋骨が軋むかと言うと、殴られた衝撃でアクセルジャンプを強行させられ側頭部を傍に置いてあった花瓶に直撃させ『られた』ためだ。

 花瓶は砕けたが、俺の頭蓋骨が砕けなかったのはまさに行幸である。

「っと、ほら、自分で歩け」

「ど、畜生………」

 きぃぃぃ


 無理に立ち上がらせていた肩が外され、倒れこむのを扉に寄りかかるようにして防ぐ。

 結果、召使の様に、率先して扉を開け放つ羽目になった………のだが、正直そんな事は如何でも良かった。


 まず初めに感じたのは香しいバターの香り。

「う、うおおぉぉぉ?!」

 次に視覚。

 コレは奇跡か?!

 眼前に踊る赤と緑と黄!!

 熱気が白い湯気を立て其処に、更なるアクセントを加えている。

 ハーブの香る肉料理からは滴る肉汁が煌めき、新鮮な魚介類を惜しみなく盛り込んだパスタからは海の幸特有の磯の香りが胃を直撃する。

 赤銅色に光る七面鳥はパリパリとした食感が見た目から感じられるほどだ。

 そして、最も間近に据えられた見た事も無いほどに巨大なロブスターから滋味豊かな肉汁と溶けたバターが混じり合う。

 眼球と鼻腔の許容限界を超えていた。

 故にその行動は脊髄反射であった。


「うばぁぁぁ~~~~~~~~」

「うおぉぉっ?! スッゲーーーー涎!!」


 滝の如き勢いで涎をカーペットに垂らす鉄矢にランは素で引いた。
 

「おば、ごきゅ、おめ、ごくごく。なんにぢ、んぐ、も、だまに、ぐ、じゅるじゅる。ぼ、ぢど、じゅじゅーーー! どどご、びゅるるるるー。のぞーずで」

「わり、何言ってるのかさっぱり分からん」

 いや悪くは無いかとトロトロとカーペットを汚染する粘着物から二歩離れる。

「ずま゛り! ずるずるずるずる」

「あ、ああ」

「ぐってびい?」

「多分だが、食って良い? って聞いたんならイエスだ」

 瞬間鉄矢は鳥になった。

「とう!!」

 スッと完膚なきまでに無表情で椅子を引いたメイドさん………メイドさん?! あ、やっぱ今は良いや。

 兎も角、オートで引かれた椅子に舞い落ちる花弁の如く舞い降りた鉄矢はジャギンッとニ天一流の如くナイフとフォークを構えた。

「いだばぎごおうりゃあああああああああああああん!!!!」

 あんむごぶぐ

 うめーーーーーー!!

 突き刺したフォークとナイフ。

 切る等と言う無粋な真似はしない。

 突き刺した端から怒涛の勢いで口に運び、骨ごと殻ごと、容赦無く粉砕。

 飛び散る肉汁

 弾け跳ぶ骨欠

 そして涎に混ざったソースが真っ白なテーブルクロスに消えない足跡を踏み残す。

 王国貴族が食するような大豪勢

 其処に現れたのはもはや蛮族である。

 きっと鉄族とかそんな感じの蛮族っぽい何かである。

 あむむ

 むしゃむしゃ

 うみゃーー


「んじゃわたしも、あんじゅぶりごぐちゃあーーー」

 ぐちゃぐちゃ

 にゅっちゃぬっちゅ

 ばりぼり

 ごっくん

「「あんむ、んぐんぐ、むちゃむちゃ、ごっくん」」

 蛮族である。

 蛮族が2体に増えたのである。

 長テーブルの対面に品のある仕草で座ったランは、次の瞬間に獣となった。

 今この時、今此処で喰わなければ後は無いと言うわんばかりの喰いっぷりである。

 見た目、酷く美しい造型をした少女だけに、その喰いっぷりは目を覆わんばかりのあんまりさであった。

 あんまりすぎて、もうどうしようもないとは、この事である。

「あんぶうちゅ、んーーー、にじでぽ(にしても)、あー、よーばぐ(よーやく)、ングング、びとごぶうぶぶ(人心地ついた)!!」

「ぞうばい(そうかい)、ぞればぶいびぶぶんぐんぐ(それは良いが)、びょぎだなぶぎねちゅるちゅる(チョイ、汚すぎね)?」

「ぶ(む)、だびがばあばるびどば(確かに悪いとは)おもごごごっくん(思ってるんだが)、てばががががごりぽり(手と口が止まらんねん)」

「んぐんぐ。まあ、ろくに飯も喰わずに修行してみたいだし、納得する所はあるんだけどさ………」

「びびゃびびゃ(いやいや)、ぞべびん(それ以前に)、びいびごっくんごっく(言いたかないが)、ぷはーー(ノーマルでそんな喰い方してるお前は何なんだよ?)?!」

「あ、あれ? 何か話し分かんなくなったぞ?」

 食ってる間は分かったのに………と蛮族の言葉(と言うか喰いながら漏れる雑音)を評するラン。

 ちなみに以後、面倒くさいので蛮族語も通常表記にします。

「まあ、私の食い方は置いておいて。つーかさ、オマエ【竜穴】で何やってたんだ?」

 ちなみにポイッと骨ごと(骨ごと!!)喰い千切ったスペアリブの様な何かの皿を脇の退けながらの台詞である。

「修行」

 同じく七面鳥(っぽい味とカタチの何か)の香草焼きを完食(丸呑み)した鉄矢が、皿を脇にやりながらの台詞である。

 ところで豪華って面は分かるのだが、鉄矢の目から見ればかなり乱雑な料理の種類だ。

 種類的に国を超えまくっている。いや、まあ、あくまでも鉄矢からの見た目でありこの世界(そういや、今何処の世界にいるんだろう?)から見れば普通なのかもしれないが………。

「おおいおい、今さっき修行してきたって話はしただろうが、話し進めようぜ?」

「………むむぅ」

「ん?」

 答え無いわけにはいかない………。

 危うく死ぬ所だった自分を拾ってくれたばかりか、恐らくは貴重である薬(大体肉体の損壊すらも極短時間で修復させるような薬なんて聞いた事も無い。明らかにロストロギアの一種だ………所で副作用とか無いんだろうか………)まで使ってもらった立場だ。

 大いなる借りがある。
 
 その借りを返さない訳にはいかない。

 矜持とか、誇りとかそういったご大層なものではなくて、もっと原始的な感情でそう思う。

 胸の内から浮かび上がる恩を返せと言う感情。

 それが一体何から産まれるのかが分からない。

 だが、答えなければならないと言う感情だけは動かない。

 ………とは言え………。

「いえ、あの、本当に唯の修行だったんですが?」

「ただのしゅぎょー? あんな場所で??」

「え? だって、ドラゴンいっぱい居る所だぜ? 修行するのに悪い所じゃないと思うんだけど?」

「馬鹿、あんな所で遊ぶのは私位だ」

 その意見なんかおかしくね?

「いや、だからその」

「んん、まあ、こっちも何となくあんな所まで来て修行するならなんか理由が在るかなって思っただけなんだけどな………」

「………あ、いや…別に…」

 って、ん? 大事な事をすっかり忘れているような………。

 ………あ。

 ふと、思い出した。

 そーだよ、そーだよ。

 良く考えてみれば、在ったよ理由。

 確かに修行に百頭の竜とバトリ続けるって言うのは、ある意味無意味と言うか、何してんだろう俺って言うかそう言った類の行為だ。

 大体、竜と闘いまくって一体何になると言うのだ。

 稼げるのは竜との戦闘経験位だろう。

「いや、在った。実は理由在った」

「だろ!? やっぱあると思ったんだよ理由。何だよ何だよ。よーーーし、来たキタキタァァァ!! 絶対面白そうな話だと思うんだよな私的に!!」

 キラッキラと瞳を輝かせるランラン(心で思うに留めて置く)。

 なんとなく、コイツこの話が聞きたいから俺を持ち帰ったんだなぁっと思った。

 その後の俺を治療したと言う件は、完全な善意なのだろうか? 話を聞きたいだけなら、話せる程度。言うならば、先程の内臓破裂状態でも話す分にはあまり問題があった訳ではないが………………いや、遥かなる問題点は多数だが。

 兎も角………。

 理由は………えっと、良いのか? この場合、言って良いのか?

 理由は在る。

 天道鉄矢にとって行動を起こすに足る理由が………。

 とは言えそれは、世間一般的に行動を起こしても良い理由なのかと問われれば、苦笑を浮かべて首を振る。

 自分が行っている行動が、道義的には兎も角、倫理的に正しいかと問われれば、失笑を浮かべて頭を振る。

 さて、この場合、正直に話す以外に現状打てる手が無い事が憎い所だ。

 聴いた瞬間、管理局にピッポッパとやられれば、逃げても良いかも知れないが、逃げては迷惑を掛けてしまうかも知れない。

 ふ、無駄に高い倫理観………は無いから、えっと正義の心………もチョイ微妙だし、そうあれだ義侠心!!
 
 義侠心―――類義語として男伊達とも言う。意味としては男の面目を立てる。弱気を助け、信義を重んじる事またはそういう人のことを言う。

 ふ、俺にピッタリだぜ

 どの辺がピッタリかと言うと、実際には無頼の徒が自らを美化して使う言葉に過ぎない辺りが………。


 やばい、自分で言っててなんだが涙が………。


「何泣き真似してんだお前?」

「いや、ちょっと、自分の現状を考えると、軽く俺って一体何してんのかなぁっと。思ったり思わなかったり…」

 まあ、全てを包括する考えになると如何しても、良くない自分の有罪判決が下りそうだったので、あくまで自分の罪を受け容れて置くだけに留める。

「んでんで? 何だ何だ? 何か面白自体になってんだろ? 話せ話せ話せよー!!」

 キンキンキンキンと皿とナイフを打ち付けるランラン。

 をいをい………今時小学生でもやらないような行為である。

 その勇壮な有様は正にお子様の権化である。

 正直、痛々しいですよ?せめて箸でやれ。この食卓に箸は、無いけど。

「あ、いや、その………」

 とまあそれは兎も角………思わず、周りのメイド(無表情でランランと俺が喰い散らかした皿等を片付けたり、水を注いだりしてくれている)を見てしまう。

 先程までは、まあ其処まで問題のある質問ではなかったのだが、この質問への回答は中々拙いのではと思ってしまう。

 この若干年上の少女に自身の現状を説明してくれと頼まれれば、俺に拒否の選択肢は不可能なのだが………。

 しかし、例えば割りと犯罪行為をしてます的な事を言って、ランランに対しては『オモロー』で終わる可能性もあるのだがこの周りのメイドさん達は『まあ、お嬢様こんな性犯罪者今すぐ追い出しましょう、いえ通報しましょう、寧ろ殺しましょう』的な反応になられると流石に困ると言うか何と言うか………つーか、性犯罪者って何だおら嗚呼嗚呼ああ!!

「ふーん、まあ、そういう事か。分かった」

 その、ほんの僅かな一瞬の目線の移行に何を感じたのかニタリと笑うランラン。嫌に楽しそうである。

「消えろ」

 クイッと顎を逸らし扉に向けた。

 するとどうだ、深々と頭を下げたシックなメイド服を着こなした無個性とも言うべき人達は静々と扉から去っていく。

「お、おい良いのか?」

「は? メイドってあーゆーもんだろ?」

 違うのか?と首を傾げられる。

 いや、違うのかと聞かれても、メイドなんて………月村すずかの家で見た事が(それも一度だけ)在るくらいだ。

 今みたいな一連の流れが、普通であるのかと問われれば、それに対する返答は無いと言って良い。
 
 だが、少なくとも、こうではなかったとは思うのだが。

 なんと言うか、一言で言えば温かみが有るというか、確かに主人と召使との明確な身分の差みたいなものは感じたが、それ以上に、彼女達の間に暖かな感情が存在している事は、間違いようの無い事実ではないと感じたのだが。

「ま、メイドなんて唯のお世話係だろ? 主人に快適に生活してもらうために居るんだから、寧ろ私が消えて欲しいと思ったら自分達から消えるのが当然なんだよ」

「そう、なのか?」
 
「ああ、少なくとも家はガキの頃からそんな感じだ」

 むぅ。そう言われてしまうと俺のメイドに対する知識など穴だらけの風呂敷状態である。

 俺が一体メイドの何を知ってると言うのだろうか?

 いや、何も知らない。(逆説)

 ………俺にも『お前は何でも知ってるなぁ』『何でもじゃないわ、知ってる事だけ』的な勢いの解説キャラがいればこう言う時に困らないのに。

 後一つ言って置く。

 俺は、おっぱいは大きい方が好きだが、大きすぎるのもアレだと思う。だからと言って、大きなおっぱいが良いかと言うとそんな事も無い。

 無論大きい方と小さい方どちらを選ぶかと言われたら大きい方だが、ある一定以上のラインに入ったら其処からは単純な大きさよりも美しさが価値観に映ると思う。

 無論小さくとも美しい胸があるというのは分かる。所謂、微にゅ………失敬、美乳と言う物があることも知っている。

 だが、君。ステーキを例にとって見よう。

 確かに、美しいつまり美味しいステーキは魅力的だ。

 しかし、そのステーキが五十グラムしかなかったら如何だろう?

 それで満足できるのかな?

 我々若人が?

 日々性よ………失敬、食欲を滾らせている我々若人に? どんなに美味しくとも五十グラムのステーキじゃあ満足できまい。

 最低でも三百グラムは欲しい所ではないだろうか?

 それ位無くては喰った気がしないではないか?!

 無論美味しいに越した事はない。

 如何にデカかろうがアメリカの五百グラムステーキを二度と食いたいとは思わない。

 しかし、ある一定レベル以上の『肉』であるならば最低でも三百、美味さの話は其処から広がるのではないだろうか?

 無論、流石の俺とて二キロ以上の『肉』を出されてしまえば飽きてしまう。

 ようは、そうバランスの問題。

 大きい事は良い事だ。

 しかし、一定以上のレベルに達したならば、其処からは味と大きさのバランスが裁量を決めていくのではないだろうか?

 極上の三百と普通の五百では極上の三百を選ぶように!!

 つまりは! そう言う事なのだ!!



 ………しかし、いつの間に俺は、こんなにもおっぱいについて熱く語りだしてしまったのだろうか?

 きっとアニメ版のおっぱいが凄い事になっていたからだろう15話の………。
 
 
「んで? 結局何が如何して、如何なって、【竜穴】に居たんだ?」

「へ? ああ、それは………」

 鉄矢が脳内でおっぱいについて激しく講義している間、何やら悩んでいるとでも思ったのか、異常(誤字にあらず)に満足げに頷いたタイミングを見計らっての質問であった。

 鉄矢にとっては非常(誤字にあらず)にありがたいことに、流石にその程度の空気は読めたらしい。

 眉間に皺を寄せ、急にウンウン唸り出されればそうもなるであろうが………。

 しかし、その悩みがメイドから派生しておっぱいについて飛躍して行った事はお天道様でも見抜けまい。

「まあ、選択肢は無い訳だよな………」

 特にカイロスから制止の声も掛からないし『ま、良っか』と言った心持。

「簡潔に説明すると………だ」

 



*****************************


「きりーつ、礼」

『先生さようなら!!』

「はい、さようなら。みんな、明日も元気に登校しましょう」

『はーい!!』

 わいわい、がやがや、きゃいきゃい

 元気な声が木霊する。

「………ん」

 その声で意識を此方側へ持って行く。

 別領域に存在するロジックの数々を一時的にフリーズ。

「は、ぁー」

 排熱するかの様な熱く、無味乾燥な吐息。

 微かな休憩。あまり心配を掛ける訳にもいかない。

 意識の大部分を裂いていた作業を中断し、何時もの自分を取り戻す。

「………」

 微かな頭痛。酷使し続けた脳が軋んでいる。

 目を瞑り、痛みを無視させるべく痛みに耐えるための領域を作り出した。

 コレで痛みは消えないが、痛いと認識する部分は表層に出てくる意識とは別領域になる。

 周りの人には気付かれない。

「よ「こら」しにゃ?!」

 他愛無い掛け声と共にパカンと頭に軽い衝撃がはしった。

 その衝撃に折角別領域に整えた分割思考は見事に瓦解し、発生した頭痛に微かに顔をしかめながらその努力を無為に帰す行為をなした人物に恨めしげな視線を送る。

「な、なに? アリサちゃん?」

「何? じゃないわよ」

「ふえ?」

「ふえでもなーーい!! い、つ、ま、で、其処に座ってる気?」

「え?」

 気がつけば、クラスに残っている人は殆ど居なかった。

 ………マズイ。

「先生、ボケーッとしてるアンタの事不審げにしてたわよ。不審者を見るレベルで…」

「そ、それは幾らなんでも言い過ぎじゃないかな?」

「まあ、フォローしておいたけど」

「まことにありがとうございました」

 つまらなそうに呟くアリサと苦笑を深めるすずか。

 この私立聖祥大学付属小学校におけるいつものメンバー。いや、それは適切ではない。

 もう一人

「あ、なのは気がついた?」

 ガラリと前方の扉(主に教師たちが使う事が多い扉(理由は授業に使う黒板が近い)で、何となく我々は後方の扉を使う事が多い。無論決まり等無く、行う事多数だが、何となく距離的問題等が同条件ならば後方を使ってしまう)が開き目に眩い金色の髪が翻った。

 もう一人の友人であるアリサも金髪ではあるがやや茶髪がかっており、完全な金髪とは言い難い。が、それにしても眩い。豪奢な金色の髪だ。

 言わずもがなフェイトである。

 手に携えた数枚のプリントは、おそらく日本語に対する蔵しの低いフェイトの漢字の練習用のプリントだろう。

 多分、プリントを持ってくるのを忘れた担任が、フェイトを職員室に呼び出してプリントを渡したんだと思う。

 いや、いやそれは兎も角。

「フェイトちゃん………気がついたって、そんなまるで気絶してたみたいに」

「いや、アンタほぼ気絶したみたいな状態だったわよ?」

「うっ、気絶って………」

 そんなに変だったかなぁ。

「気絶って言うのは大げさかもしれないけど」

「すずかちゃん」

「でも、ボーっとしてたって言うのはあたってるかも」

 うぅ。やっぱり、処理速度がかなり落ちてきているのかもしれない。

 昨日までは、挨拶と同時に思考形態の変更までに掛かる時間は一分掛からない筈で、問題なく帰宅できていたのだから。

 しかし、この有様を見るともしかしたら五分、いや十分ほどフリーズしていたのかもしれない。
 
「もしかして、例のあの件、まだ悩んでるの?」

 ずいっと、吐息が掛かる距離まで身を乗り出したアリサの眼が迷うなのはの眼を覗き込んだ。

「あの件?」

「とぼけないのー」

「むぎゅ、い、いた…くは無いけど止めてー!」

 頬を引き伸ばされた顔が余りにも情けなかったのだろうか、微かに顔をしかめて緩くひねていた指を開放した。

「はぁ、アンタちゃんと寝てる?」

「ね、寝てるよ? 昨日も八時には寝たもん」

「うそ」

「うそだね」

「嘘だよ」

 三方向から一斉に否定の言葉を投げかけられてしまった。

「なのは、そんな隈を作って、そう言っても誰も信じてくれないよ?」

「うぅ」

 そう言えば今朝も鏡を見ればあったし、家族にも問われていた。

 家族には此処最近眠れないと伝えたし、実際父からは『ならば俺が抱きかかえて寝れば!!』との意見もあったのだが母の鉄拳によりそれは不許可とされていた。

(お母さんは病院行こうかって言われたけど断っちゃったし)

 実際、病院に行くほどでもない。

 本当に無い。

 本当に、ただ普通に悩み事があるだけなのだから。

「まあ、フェイトの言う通り隈作って、八時に寝たって言うのも信じられないし。さっきも言ったけど、まだ悩んでんの?」

「………………うん」

 はぁ、っとアリサからおもい溜息が響く。

「………………」

 フェイトは微かな共感と労りを含んだ眼差し。

 そして

「………………っ」

 何故だろうか、すずかからはアリサやフェイトとは違う、何か、こう

(怖がってる、みたいな………)

「んで?」

「え?」

「だから、結局未だ『親犬を苛められた子犬とその子犬の飼い主と理由が在って親犬を苛めた奴』の話を悩んでるのかって」

「え? なんのこへぐぅぅぅ?!」

 何の話と言わんばかりに捻った首が更に捻じ曲げられる。

 こう、枯れ枝を折る感じでポキッと!!

 テレビでやってるプロレスラーさんが対戦相手を絞め落とすかのように!!

「ぎ、ぎぶぅぅぅぅーーー」

「ったくもう」

 拘束は割りと一瞬で済んだ。

 しかし、先程まで真前にいたアリサは一体何時の間に後に回ったのか?

 ちなみに特に驚いた様子の無い残りの二人。

 この間のドッチボールでも分かっていた事だが、二人の運動能力はアリサを遥かに凌駕している。

 そのアリサを遥かに下回る自分とこの二人の運動能力には一体どれ程の差が………。

 そして、恐らくはその二人さえも上回るのではと思える少年との間には…………。

「はぁ」

「また、溜息…」

「むぐ?!」

 あー。と続きそうになった吐息を無理矢理に塞ごうとしたが無駄だった。

 むしろ、可哀想な者を見る目で見られて素でショックだった。

「まぁ、今回は相談してくれたからこれ以上は文句を言う気は無いけどね………」

「………」

 何やら満足そうなアリサ。相談されて自尊心を満足させた様子にも見えるが、これまた違う。

 彼女は、純粋に、人が困っている時に黙っている事が出来ないタイプなので、動ける事、考えを示せる事自体が嬉しいのだろう。

(多分………)

 前回の騒動。今ではプレシア・テスタロッサ事件とか言われてしまっている事件の時にも、似た様になのはは悩みを抱いた事があった。

 その時は、語ることもせずに内に篭り必死に解答を求め続けた。

 そのときの解答が正しかったのかは今も良く分からない。

 後悔が無いとは言えない。

 迷いが無かったとも言えない。

 話してしまったのは、その事が原因なのかもも知れない。

 無論、事実を事実のまま話すわけにはいかないので先程のアリサの言の通り、かなり歪曲な表現は使ったのだが………。


 ちらりと、フェイトを見上げる。

 彼女は現状を一体如何思っているのか。自分と同じ、同じモノを見聞きして、一体何を感じたのか。

「………」

 脈絡無くじっと見詰められた事で首を傾げるかと思ったが、そういう風ではない。何処と無く悔恨を得ているかのような………。

 数瞬の思考の結果、答えに辿り着く。

(そっか、前回って事は)

 自分が関係したのではと思いつめたのかもしれない。

 寧ろその事を思いつめるべきは、自分なので困ってしまう。

 しかし、関係無いと嘘をつくべきなのか、何でも無いと誤魔化すべきなのか、それとも正直に話すべきなのか、全く分からない。

 如何する事が一番良いのか、何が正しいのか、自分にはそれを判定する能力が欠けていると、最近は強く思う。

 ガタリと椅子を引き付ける音。

「アリサちゃん? どうしたの??」

「ん~。鮫島来るまで少し時間掛かるから、ちょっと話をしようかなって。ほら、こないだライオンが家の学校に逃げ込んだじゃない。アレのせいで、しばらく出歩きには、車を使いなさいって言われてるし」

「朝も、バスじゃなくなっちゃったしね」

「「あ、あはははははは」」

 ひくりとフェイトなのはが同時に笑い声を上げた。

 しゃっくりでもしているような不自然な笑い声である。

「? 何でなのはとフェイトが誤魔化すみたいに笑うの?」 

「え、なんでもないよ?」

「うん、全然関係ないよ?」

 二人で、同時に頷く。事件の裏側を知るが故に。

 なんか、ふらりと会いに着ただけのライオンの不遇を思って。

 あと、何でわざわざ小学校に逃げて来るかなぁと言う諦念の思いと共に。

 更に、休校にならなくて良かったと言う安堵共に。

「………まあ、良いけど………」

 ちっとも良くなさそうな口調だが、アリサは特に不機嫌な風も見せずになのはの前の椅子に反対側に座った。少し足広げすぎじゃないかなぁっと思う。

「ん~っと………」

 少しだけ不安げに此方を見詰めるなのはを前にして、さて如何しようかとアリサは思う。

 悩んでいる事は話された。

 悩んでいる理由も知っている。

 それに関する此方の考察も伝えた。

 此処でまた、一緒に考えてあげる事は出来る。一緒に悩んであげる事もできる。

 しかし、如何すれば良いのか。

 高町なのはの悩みの根源は、多分これから自分が如何したいのか、如何すれば良いのかが判らない事によると思われる。

 つまり、なのはの悩みは、自分自身でしか決着のつけられない物のように思われる。

(多分………)

 知らず、なのはと同じ事を考えながら、アリサは極短時間で様々な自体を検討した。

 とは言え大まかな選択肢は二つ。

 此処で、なのはの悩みについて話し合うか否かと言うこと。

 だけど、此処で悩みについて話し合って、なのはの悩みは晴れるのか?

 きっとそれは無い。

 此処で晴れるような悩みなら此処まで真剣に、ここまで必死に考え続けているなのはが、答えを見つけられないような事も無いと思う。

 だからもしかしたら、悩み、考え続けるだけでは、この問題は解決しないのかもしれない。

 アリサ自身の考えで、なのはの悩みを解く最も良い考えは、なのはの言う『親犬を苛められた子犬とその子犬の飼い主と理由が在って親犬を苛めた奴』と話をする事が一番ではないかと思う。

 でもだ、でも。それが出来るならば、この行動力に溢れまくった友人がそれを実行しない筈が無い。

 第一『親犬を苛められた子犬とその子犬の飼い主と理由が在って親犬を苛めた奴』と言う話もかなり複雑だ。その当人達となのはがどのような関係かは分からないが、無理に聞きだせる状況でもないのかもしれない。

 話を聞く限りなのはは第三者だ。

 第三者だからこそ、自分に出来る事が何なのか、何がしたいのかと悩んでしまう。自分の行動で誰かを傷つけてしまうかもしれないから。

 其処まで考えた上で、自分に出来得る事は何か………。

 なのはの悩みを解決させる事だけを考えるなら『親犬を苛められた子犬とその子犬の飼い主と理由が在って親犬を苛めた奴』に直接話を聞きにいく事が一番だろうと思う。

 しかし、それは無い。と言うか在り得ない。

 その行動は、『ちょっとあんた達! あんた達の言い合いでこの子が悩むから! 一々争うのを止めなさい!!』と言った具合だ。

 ………数年前の自分ならやってしまいそうで本気で怖い。うえ~。

 困った事に自分は、第三者ですら無く傍観者。張本人達の痛みも苦しみも知らず、そんな事を言えるような厚顔無恥ではないつもりだった。

 それで、今の自分に出来る事は………。

「良し。ねぇ、なのは」

「う、うん」

「ガルムってわんこ知ってる?」

「え? えっと、それって鉄ちゃんの?」

 パチリと何故今その話をと言った顔だ。困惑していますと顔にハッキリと出ている。

 でもそれで良い。

「あ、やっぱり知ってた? じゃあさ、抱っこした事ある?」

「ええ? えっと、んと、だって、あの子物凄っく大きいよ?」

 良し。喰いついた。

「分かってないわねぇ。アレぐらい大きい方がふもふも感が………」

「え? でも、やっぱり結構………」

 強引だったかもしれない。

 だが、こうやって少しでも悩み続けて消耗していく事を止める事がいま自分に出来る事なのではとも思う。

 正直、何をする事が一番正しいのか分からない。

 何をする事が一番良いのかも。

 でも、こうやって出来る事、やりたい事を一つずつやっていく。

 自分がしなければいけないのは、それなのだと、半年も前に学んでいる。



*****************************


 ガブゥ!!

「あいたーーーーー!!」

 指を貫く鋭利な激痛に喉からひゃっくりの様な悲鳴が迸った。

「ああ! はやて! 大丈夫?!」

「だ、大丈夫や。お、怒っちゃだめやよ?!」

「う、ぅ、わ、わかってるけどさ」

 自分よりも幾分小さな背の赤髪が、悲しげに震える。

「でも、だって、こいつはやてに………」

「ヴィータ!!」

 その言葉に思わず声を強くしてしまう。

『ギャア!!ギャウウゥゥゥ』

「ああ、ご、ごめんな。緋焔ちゃん」

 キコキコと微かに軋む車椅子の摩擦音。

 八神はやては、自らの指を強く噛締めて、膝上から逃れてテーブルの下に逃げ込んでしまった子竜に呼びかけた。

『ギュアルルルゥゥゥ!!』

 腕の力(車椅子の活動などにより普通の女の子よりは強い力)だけで、床下に下りて目線を合わせるが、子竜の目が恐怖と怒りと言った面持ちの酷い興奮状態であることしか分からない。

「緋焔ちゃん。お願いだから、こっちに来てぇな。仲直り、でもなくて、えっと、私とお話させて?」

『ギャウ!!!! シャアアアアア!!』

「あぅ………」

 言葉をかけてもまるで応えてくれない。牙を剥き出し、幼い声を上げて威嚇する。

 だが、それも当然だろう。

 当然なのだ。

 当然あってしかるべき。

 当然の事を、自分はしてしまったから。

「緋焔ちゃん………」

 だが、焦る。

 焦ってしまう。

 詮無い事だとは思う。

 何を都合の良いことをと思われているのだろう。

 自分の立場に置き換えれば、それは当然過ぎて涙が出るほどだ。

「そやけど、お願い。お願いやから、少しだけ、少しだけ私の話を………」

『ギャルゥゥゥゥ!!!』

「アツゥ!!」

 伸ばした手に再び生え揃わない、小さな牙が刺さった。

「イタタタッ………」

 テーブルの下から思わず抜き出してしまった手には紅いものがこびり付いている。

「はやて!! コイツゥ!」

 その血色に、傍で見守っていたヴィータの目の色が変わる。

 その幼げな相貌とは裏腹な、弾ける様な戦意が空間を占めた。

 『ギャア』と言う脅える叫びがテーブルの下から響く。

「駄目やッ!!」

 思わず声を荒げる。

「ッ!!」

 そんなはやての荒げる声が自分に向けられる。

 その初めての自体に、思わずヴィータの身体が凍った。

 それに酷く悪いことをしている気分になってしまう。

 はやてにはヴィータの気持ちが痛いほど伝わってきている。

 彼女はただ純粋に自分を心配しているだけなのだ。

 でも、それでも

「怒鳴ったらあかん。怒ってもあかん。私等にはこの子の事を、怒る権利なんてないんや」

 そう無い。

 自分はこの子竜に何をされても文句は言えない。

 どんな事をされても怒れない、怒る権利が無い。

「違う。違うよはやて! 悪いのはあたし達が………」

 そのあまりにも重い責任を背負う主に対してヴィータにはもう言葉も無い。

 何故だろうと思う。

 何故こんな事にと思う。

 自分達は、この人がこんな目に合わない様に努力してきたのではなかったのか………。

 罪を負うべきは自分達であって彼女の主ではない筈なのに。

「それに気付けなかった事も、その責任も私にあるんや。もう言わんといて」

「でも、はやてがこんな事する必要は無いんだ。アイツだって、こんなの無理に決まってるって思ってやらせたに決まってるよ!!」

「………」

 例えば。

 例えばだ。

 この親を奪われた子竜の立場に自分達を置き換えてみればそんな事は簡単に分かる。

 はやてならば、理不尽にヴィータ達を奪われるようなもの。

 ヴィータならば、理不尽にはやてを奪われるようなもの。

 コレは奪った側が、奪われた者に対して許してくれと願う行為。

 特にヴィータ達は理不尽に奪われかけたはやてを救い出す為に、子竜の親の命を奪ったのだ。

 それに対して許してくれと言う筈が無い。言える筈が無い。

 それら全ての痛みは自分達が負うべき物で、はやてが負うべきではない筈なのに。

「なら、我慢するんや」

 そのヴィータの気持ちの大半を理解しながらはやては言う。

「はやて」

「私達はあやまらなあかん。皆が迷惑をかけてもーた全ての人に、全ての命に対して………」

 起きてしまった事はもうどうしようもない。

 恨まれる事も、憎まれている事もこの数日で痛いほどに理解させられた。

 自分達は、恨まれている。憎まれている。………死を、望まれている。

 謝らなくてはいけない。

 ヴィータ達が、家族が自分の命を護るためにやった事だとは分かっている。

 でもそれはでも罪は罪だ。動機は如何あれ、起きてしまった悲劇を無かった事には出来ない。

 恨み、悲しみ、憎んでいる命はきっと沢山居るだろう。

 この緋焔という名の子竜はその最初のひとり。

 許せない、憎いと、ハッキリと自分達に突きつけてくる最初の一人なんだと、そうはやては思う。

 だからこそ話さなければいけない。その最初の一人に、話をする事も出来ないのだったら、コレ以後にも続く多くの命たちと話せる筈が無いのだから。

「だから、ヴィータも耐えるんや」

「耐えるって、我慢してるのははやてだけじゃんか!」

「なら、私が我慢する事に耐えるんや! この子がどれだけ悲しんでいるか、どれだけ泣いたか、どれだけ恨んでるか、どれだけ傷ついてるか、ヴィータにも分かるやろ?」

「それは、でも…」

「謝まらなあかん。迷惑をかけた、痛い思いを、悲しい思いをさせた皆に真っ直ぐに背筋を伸ばして………。だから、その過程で痛い思いをするんは当然。皆に痛くて苦しい思いをさせたのに、謝る私達が全然痛くなかったら気持ちは絶対に伝わらへん。そうやろ?」

「………だからって、だからって、はやてが痛い思いをする必要は無いよ。痛い思いをするのはあたしらだけで………」

「ヴィータッ」

「………ッッ」

 思われている。互いに互いの愛情は酷く感じている。

 でも、今は駄目なんだ。今はその愛情に甘える時ではないのだ。

 今は謝る時なのだから。

「お願いやから、言う事を聞いて? そや、買い物に行ってるシャマルとザフィーラの所に行って、アイスお願いしてくれへん。もしかしたら緋焔ちゃんアイス好きかもしれないやろ?」

「はやてぇ」

「さ、行って行って。早くせえへんと、二人とも帰ってまうやろ?」

 ニコリと優しく微笑むはやてに胸が痛む。

 自分が此処に居てもはやての役には立たず、かえって邪魔になる事は既に分かっている。

 分かっていても心配なのだ。

 幼いとは言っても子竜。

 その気になればはやてに大火傷を負わせる事も出来る。誰かが、はやてに付いていなくては危ない。でも

「あたしが居なくなったら今、家にはシグナムしか居ないじゃん。はやて、そいつと居るつもりなんだろ? 危ないよ」

「大丈夫。大丈夫やから」

「でも、シグナムが来るとそいつもう滅茶苦茶になっちゃうよ」

「………」

 そう、この子竜の親を殺してしまったのは、シグナムだ。

 それを知るこの竜は、彼女が居ると狂った様に暴れる。爪を剥き出し、火を撒き散らす。

「私は、一人で大丈夫、だから、な?」

「でも………」

「お願いや、ヴィータ」

 何時までも、動こうとしないヴィータに努めてはやては硬い声を出す。

「な、さっきも言うたろ? 我慢して? 私も我慢するから」

「…………………分かった。でも、はやて危なくなったら」

「わかっとる。分かってるから。………な?」

「………うん」

 渋々と言う言葉を具現したかのように何度も振り返りながら、ゆっくりとリビングを後にする。

 鮮やかな赤髪が消えたからか、それだけで室内の温度が低下様に思われた。

「緋焔ちゃん?」

『………ぎゅー』

 声をかけると、少しだけ先程よりも落ち着いた声がする。

 やっぱり、怖いのかもしれない。

 此処には、この子を護ってくれる少年が居ない。

 だから、自分の親を殺した存在が居る所では落ち着けないのかもしれない。

 急ぎすぎたのだろうか。

 自分が、シグナム達と関係の無い人間だと思わせて少し仲良くなってから、話をしたほうが良かったのかもしれない。

 だけど、時間が、時間が限られている。

 しかも、何時まで時間があるか分からない。

 早く、早くこの子と話が出来るようにならなければならない。

 でも焦ったのでは結果が出ない。

 ゆっくり、ゆっくりと言葉をかけて行くしかないのだろうか。

 そして、時間は一体何時まで………。

「鉄矢君、今何処で何をやってるんやろか………」

 『ぎゅい?』

 少年の名に反応したのか、緋焔がトコトコとテーブルの下から出てきて首を傾げた。
 
 

*****************************




 ああ

 そうしてまた一日が終わった。


 キーンコーンカーンコーン


 と言うレトロなチャイムが帰宅を促す放送と共に流された。

「ああ………」

 乾いた唇から吐息にも似た呻きが漏れる。

 首元の紅い宝玉が、そんな主を労わるかのように一度だけ瞬いた。

 だが、普段ならば気付いたであろうアクションに少女は、何一つとして行動を起こさない。


 礼を言う事も無く。

 心配を掛けまいと気を張る事も無く。

 疲れ切り、澱んだ瞳を彼方に向けたまま、息を忘れるほどに、此処ではない何処かを見詰めていた。


「………………帰らなくちゃ………」

 殆ど、反射のレベルで働く帰巣本能。

 チャイムが鳴ることで、彼女は漸く家と言う単語を思い出す。

 だが、言葉に反してその足は………動かない。

 動かそうと言う考えが浮かばない。

 帰ろうという気持ちに『からだ』が付いて来なかった。

 心はずっと、一途に、たった一つを追い求めている。

 求めている。

 でも、如何すればそれが手に入るのか分からない。

 だから、悩んでいる。

 だから、悩んでいる。

 朝も昼も関係なく。

 
 でも………。

 なのに………。 

 もう、頭がパンクしそうで、心がキシキシと痛むまで考え続けてるのに、答えは未だに出せなかった。

「………かえらなくちゃ………………」

 言葉を繰り返す。

 もう、なにを思ってその言葉を呟いたのかなんて自分にも分からない。

 夜の闇が迫ってくる。

 紅く、燃える様な世界が色を失っていく。

 凍えるような冷気。

 指が痛い。

 どれだけ悩んでも、どれだけ考えても、寒ければ指は悴むし、お腹は減る。

 ただ、アレから五日………高町なのはは殆ど眠っていない。

『Master………家に帰りましょう?』

 その様子に耐え切れなくなった愛機が、思わず声をかける。

 ここ数日でレイジングハートは更に人間味を増していた。

 味覚を除く五感、つまり視覚,聴覚,触覚,嗅覚の精度を急激に上昇させた副作用のようなものだ。

 今では朝の空気、夜の空気、成分的な差以外にも、人が感じる爽やかさ等の感想的な部分の違いも理解できる。
 
 だが、だからこそ『苦しい』

 今まではデータとしか受け取れなかった情報をほぼ人間と同等かそれ以上の『感覚』として受け取れるように再設計されていたために感じる『苦しさ』だ。

 簡潔に言うならば今は『空気』が読めるようになった。

 以前ならば、主が思い悩む事に心を痛める事は在っても、その主の発する雰囲気に心身を擦り減らす事など無かった。

 それは、負の気配とでも言うのであろうか………。

 今の主からは、常にそれが発し続けられているように感じる。

 顔や眼差しから酷く悩んでいるのは以前でも感じ取れただろうが、今はその主の纏う雰囲気が他人に不安や困惑と言った影響を与えている事まで理解していた。

 悩んでいる内容は明白だ。

 天道鉄矢………彼以外に在り得ない。

 普段ならば共に居れば最も頼もしい仲間の一人である彼だが、敵側………いや、敵と言う訳でもない………うーーん………!? そう、味方で無くなった状態では最も厄介な存在の一人だ。

 以前もそうだった。

 以前、約半年前………P.T事件の際、彼が人間で無い事が判明し逃亡した際の事だ。

 当時は、愚かな選択であると思っていた。逃げるよりも、管理局に協力し、自身の安全を確保するべきだったと思っていた。あの時は、無理矢理カイロスに運ばれていったが自分の意思で戻ってくるべきだったと。

 だが、今ならば多少、当時の彼の心情が考えられる。

 きっと………怖かったのだろう…と言う事がだ。

 当時の彼の状況は、非常に不安定で危うかった。

 何よりも彼自身の命が危うかった。

 その中で、人間で無いと謳い上げられた
 
 その時の心情は、想像に余りある。

 当時の彼にとって味方は、カイロス唯一つだったのだろう。

 自分の命を助けてくれるのは自身のデバイスのみ。

 そう、願う様に命を懸けた。

 正直、その信頼は同じデバイスとして吐き気を催すほどに羨ましい。

 だが、彼はそれだけに留まらなかった。

 それだけに留まらず、当時問題を抱えていたフェイト・テスタロッサをも何とかしようと精一杯に頑張った。

 結果は自身に語る資格は無い故、少なくとも限界ギリギリまで努力を重ねたとだけ思うに留める。
 
 

 そして、今。

 それ程の精神力を持った男が、殺すために動いている。



 話を聞く限り、その結論に至るまで彼は、相当に思考錯誤を積み重ねて来ていた。

 それを自分の胸に隠し続けてきた事は問題だが、それも話されれば彼女にとっては理解の及ぶ範囲だ。

 極簡単に説明すると彼の目的は復讐の肩代わりと言えるのだろう。

 母を殺された子竜の願い通りに、その仇を討とうとしている。

 相手は人間どころか生き物ですらない。其処に一体どんな迷いがあろう。

 無論、相手方にも言い分は有るそうだ。

 何でも自分の主を守りたいとか………。

 こちらの気持ちも良く分かる。

 だが、彼はそれを聞いて自分が集めるから、もうこれ以上魔法生物を襲うのを止めて欲しいと願い出て、更に実際にそれを行ったらしい。

 そして、裏切られた。

 交わした約束は反故にされ、奴らは再び蒐集活動を再開した。

 そして、彼の気持ちは定まった。


 コロス………と。


 もう、どんな言い訳も聞かないしいらない。

 その、流れ、その決意に辿り着くまでの考えも理解できる。


 理解は出来る。

 だけど、主はそれを望んでいなかった。

 だから、理解は出来るが止めて欲しかった。

 人間ならば重い重い溜息を衝きたくなる状況だ。

 現在の機能から言えば、呼吸器官があれば間違いなくそれを行っていると思える。


 彼の行動は一本の線が通っている。罪には罰を。悲劇には報復を。血には血を。

 そう言った考えが彼の根本にある。

 無論、恐らく………ではあるのだが。

 それを止めるには如何すれば良いのか? 何を行えば良いのか? 何を言えば良いのか?

 主はずっとその答えを捜し求めている。



 悩ましい問題である。

 天道鉄矢は子竜の仇を討ってやりたい。

 ヴォルケンリッターは、主を守りたい。

 高町なのはは、誰にも死んで欲しくない。

 そして、ユーノ・スクライヤからの情報に寄れると、今彼は闇の書の主を助けるために行動を開始しているらしい。

 なるほど、流石は天道鉄矢と思わず納得しなければならない行動力だ。

 復讐よりも命を護るために動く。彼らしい行動であると思うと同時に止めて欲しい。

 正直な感想としては、復讐を果たすなら復讐を果たすでサッサと奴らに止めを刺して欲しいのだ。

 そうなれば、主も此処まで悩む事はない。なまじ時間があるが故に、タイムリミットがあるが故に主の焦燥は激しかった。

 その考えが逃げである事もレイジングハートは理解していた。それはあくまでも現時点で発生している苦悩を抜き取るだけで、根本的な解決には至らない。

 仮に彼が事を成したのならばそれはそれで主は悩み、傷つき。そして自分は、何故もっと時間をくれなかったのだろうかと思うのだろうと予測が簡単についた。

 常にマスターの現時点での苦悩や脅威、困難を取り除く事に集中しすぎる事は、我々デバイス(更に言うならば使い魔等)にとって欠点とも言える。

 だが、それは同時に存在理由(レゾンデートル)に関るが故の欠点だ。

 将来を見越した考え方が出来ない。今其処にある危険から、苦難から、苦しみから、それを全身全霊を持って妥当しないと言う考えが浮かばないのだ。

 我々は決して教師ではない。知りうる魔道を、効率的に学ばせる事は出来ても、其処が限界なのだ。

 其処から、何をするか、何を願うかは主次第。

 我々の本分はあくまでも、そのサポート。

 以前、フェイト・テスタロッサの使い魔が、主との会話を妨げようとした事があった。

 その時、天道鉄矢は酷く憤慨していたが、それは我々の様なモノとしては当然の選択だ。

 事実関係が、酷く切迫しており、更に明言出来るほどの事実を持ち合わせていないため、なんとも中途半端になってしまうが………あの日、あの時のフェイト・テスタロッサの状況において、使い魔が求めたモノは、主の願いであり、主の安全であった。

 逆を言ってしまえば、それ以外を考え付かなかった。此方に明確な敵対する意思の有無は関係なく。此方が、どうなろうとも考慮にすら値しなかった。

 結局は、彼女の方から此方に助けを求めて来たとは言え、少しでも状況が違えば、最後まで徹底抗戦してきた事は想像に難くない。


 恐らく………件の守護騎士も存在として、我々に似通った存在なのではないだろうか?

 魔道士として、騎士としての姿形を持つ守護騎士だが、結局の所は主を守護するためのプログラム。

 思考形態が、何処と無く我々に似ている気がする。

 アレ等の事情を大まかに把握した今となっては、敵対関係と言う状況を打ち破る方策は見えて来た。

 我々と思考形態が同じならば、敵対関係を止めるにはまず第一に此方が、アレ等の『主の身の安全を妨げる者でない事』と『敵に回す方が主の身の安全の妨げになる事』を理解させてやれば良い。

 方法が力で捻じ伏せるのか、理を持って説くのかは別として、成功の可否と難易度は兎も角として方法は有る。方針も決められる。

 コレまでのような遭遇戦や、事情の聞きだしを求める事しか出来なかった頃に比べれば格段の進歩だ。

 此処までは良い。

 此処までは良いのだ。

 
 其処に『復讐の肩代わり』を目的とする男が入ってくると話は一気に難しくなる。

 
 何せ其処に利は無い。

 復讐によって得るものなど何も無いとはよく言ったものだ。

 正に、其処に理は無い。

 守護騎士の様に主の守護のための殺傷などと言った回りくどい物ではなく。

 目的は殺傷のための殺傷。

 殺傷の結果として得られる何かのためではなく、殺傷そのものが目的。シンプルだ。この上なくシンプルな目的だ。

 これまで、主の遭遇した事件に比べなんて簡単、何て単純。

 込み入った事情など無い。

 殺したいから、殺すと言った有る意味究極の我侭である。

 何故、未だにそれを実行しないのかは不明だが、推測としては闇の書の主の守護に守護騎士の存在が必要であると言った所か。

 つまり結局は、闇の書の主の無事が確認された後に事を成さねばなら無いような状況………。

 その状況を鑑みれば、ある意味妙手だ。

 もし仮に、何か他に理由が在って守護騎士の殺傷を見送っているならば、闇の書の主を救うと言う行為は窮めて良好な手段になる。

 何せ、守護騎士の目的はそれで達成されてしまう。

 我々と同じならば、恐らく其処で満足してしまうだろう。

 もし仮に、自分ではない誰かが主を救ってくれたならば、そしてその相手が自身の破壊を願うなら………。

 我々は、聞き入れてしまう。

 我々は、そう言う物なのだ。


 単純な戦闘能力から言えば、天道鉄矢では守護騎士を倒す事は不可能である。奇襲、罠、召喚獣、あらゆる戦術を組み込んだとしても、単純に魔力量が違いすぎる。

 それは間違いない。だからこそ彼も魔力切れを狙い急襲を決行したのだろうし、魔力が無いアレ等ならば殺れると判断したのだろう。

 しかし、その方針が取れないならば、アレ等の魔力が回復した状況でも妥当する方針が必要になる。

 もしくは、魔力を回復させないような状況を作るかだが、それは限りなく難しい。


 現在、天道鉄矢との連絡は、五日前にユーノ・スクライヤが管理局本局の無限書庫にて遭遇したのを最後に途絶えている。

 正式に届出を出し、管理局のトランスポーターを利用して第六管理世界へと移動してからの足取りが掴めないらしい。

 第六管理世界は、文化保護区があり、古き良き暮らしを愛する者たちが暮らす土地。言ってしまえば田舎であり、次元通信が厳しく制限されても居る。

 それに、本事件を担当する執務官や提督は、あまり天道鉄矢の行動を公にはしたくないと言う思惑があるらしい。(これは、天道鉄矢の独断先行を報告しないための措置。もしくは、事件捜査に対して多くの人員(コレだけの事件に対しては余りにも少ないと言えるが)を有する捜査官達の仕事がたった一人の子供にも劣るモノだと誤解させないためであると思われる。彼等も中々に敵が多いと言えるだろう)

 結果として、天道鉄矢の行方は知れず、活動を止めたヴォルケンリッターを捜索する事は極めて困難であり、捜査に殆ど進展が見られない状況となった。(唯一の救いは、アレから被害が全く出ていない事か………)

 
 そして今現在

 主は、普段通りの行動を許され、有事に備えてはいるのだが………彼とアレ等、誰もが傷つかない、誰も死ぬ事がないような結末を夢見て、考察を続けている。


「………………」

『………………Master…』

 それを手助けしたい。

 それこそが、我々の在り方。

 しかし、共に考察する事三十分で………いや、無理じゃね?

 と言う結論に至ってしまった………。

 それではいけないと思いつつ、何度も何度も考察を繰り返すのだが、結局………いや、無理じゃね? となってしまう。

 だが、それはきっと主も同じなのだろう。

 半ば思考停止状態に陥っている自機と未だに真剣に考察を繰り返している点が大きく違うのだろうが………。


 しかし、主の望む様な誰も死なない結末と言うのは、つまり例の子竜に仇を討つことを諦めろと言う事に等しい。

 何処かで、そうすれば良いと言う考えも浮かぶ。だが、それを言えるのは余りにも心を欠いた者だけだろう。

 コレでどちらかが人であるならば話は容易かった。子竜が人であるならば、正式な法に則って守護騎士が処分となる事は十分に考えられたし、逆に守護騎士が人であったならば、話はあくまでも器物破損に留まる。

 されど、この状況でそれは適応されない。共に人で無いモノ、しかし人で無いモノにも命があると見る。彼等の信条と優しさが話を難しくする。

 どちらも人ではない。故に優劣(そんなものがあるならば)は付け難い。人でないアレ等に、生き物ですらないアレ等に命が有ると、殺すのはいけない事だと定義する主は、自機も高潔で素晴らしい考えだと分かる。

 だが、同時にアレ等は人でない魔法生物を多く殺している。人は確かに殺していない。だが、アレ等の人以外への扱いは余りにもずさんだ。考慮していない。アレ等はリンカーコアを抜き取られた魔法生物がその後の生死について全く考えていないのだ。止めも刺さず、治療もせず、リンカーコアを抜き取った後は、完全に放置している。

 そうして、親を殺された子竜が復讐を望んでいる現状。

 自業自得だ。

 彼も言っていた。アレ等は既に殺っている。

 死んだ命は決して生き返らない。

 アレ等が子竜の親を殺した事実は、決して消える事が無い。

 それを、子竜に諦めろとそう言うのかと彼は言った。

 理不尽に親を奪われた子竜の無念は何処に行くのかと。

 仇を討つ以外に、一体その無念は如何したら晴れるのか?

 そう言う彼の言葉も分かる。

 子竜の復讐は正当と考えられる。

 親を殺されたと言うこの上なくシンプルな命題の元に行われる復讐。

 それの肩代わりが良い事であるのか悪い事であるのか、自機の考えとしては明らかに悪行ではあるのだが………納得は出来る。

 そして、それを止める様に言う主に彼が酷く苛立っていた事も分かっていた。

 彼は、両親(特に父親)を心酔している。神聖視していると言っても良いかも知れない。親の言葉を必死に、真摯に、ずっとずっと護り続けようとしてきていた。

 そんな彼にとって、親を殺されたと言う事象は、この世に在るあらゆる罪よりも重い物なのかも知れない。

 もう、親の居ない彼にとって、親を失うと言う事象は、虫唾が走り、肌が粟立つほどに不快な出来事なのだろう。

 もしかしたら、フェイト・テスタロッサもそうなのかも知れない………。

 彼女の人格、実力共にレイジングハートは高い評価を下していた。

 共に闘った仲であると言う事も有るが、半年前の事件は今回の事件をと比して、彼女が人や動植物を傷つける等の行為に対してどれ程の忌諱の念を持って当たっていたのかが、良く分かる。

 だからこそ、かつて天道鉄矢は、彼女の味方で居たのだろう。

 だからこそ、とレイジングハートは思う。

 ならば何故、彼は高町なのはの味方では居てくれないのだろう?

 彼には分からないのであろうか?

 高町なのはが、どれ程優しくて、どんなに強い心を持っているかを………。

 その強さと優しさ故にどれ程苦しんでいるのかを………。


 この世に絶対的に正しい事など無い。

 天道鉄矢は、守護騎士を斬り捨て

 守護騎士は、主以外の全てを斬り捨て

 高町なのはは、幼き子竜の願いを斬り捨てている。 
 

 誰もが、大切な何かを護ろうとして、誰かの大切な何かを切り捨てようとしている。
 

 天道鉄矢は、どうしようもない不幸に見舞われたモノ達を救おうとして

 守護騎士は、存在意義である主を護ろうとして


 だが、高町なのはの思いとは何なのか?

 子竜の気持ちを切り捨てようとしている主が、護りたいのは、救いたいのは、何とかしたいと思う事柄は何なのか?

 全ての命を救う事なのか?

 誰にも死んで欲しくないと言う願いなのか?

 正直、其処の所がレイジングハートにも良く分かっていない。

 願ってる事、思っている事は分かるのだが、その真意がハッキリと見えていなかった。

 そして主自身もずっと、悩み続けている。

 ちなみにだが、先立っての事件にて同様に主が悩みを抱えた時に爆発した主の学友であるアリサ・バニングスや月村すずかがそれに気付かない筈も無く、再び言い寄られたのだが、今回は、困り果てていたのだろう。

 かなり遠回しな言い方(事実関係をかなり曖昧にした)ではあるが、彼やアレ等そして主自身の考えを述べている。

 しかし、主の悩みは晴れない。当然、事実関係を曖昧にしたが故に、助言も自然曖昧な物となるので当然と言えば当然だが………。

 その助言だが、アリサ・バニングス女史はやはり過激な方だった様で、考え方自体が天道鉄矢よりになり(罪には罰を、罪を犯したならば正当な法に則った制裁を加えるべき的な)、月村すずか女史は穏やかな方であるので主側の考え方(みんなで話し合えば良いんじゃないかな的な)になっていた。

 そして、此処も問題なのだが、二人とも守護騎士の考え自体を否定した訳ではなかった。そう言う事をしてしまう事もあるのかもしれないと一定の理解を見せていたのだ。

 この事件に明確な解は無い。

 それだけ難しい出来事なのだ。

 だが、高町なのはの考えが最も間違いを犯さない解である事は間違いない。

 殺すと言う、未来を失わせる行為はそれ程に重い。

 しかし、それも間違いを犯さないと言うだけで、正しい答えかと言うとやはり悩んでしまう。


 ………兎も角、我々はデバイス。

 やるべき事は主の願いの手助け。そして主が、願うだけの勝利を手中に『収めさせる事』。

 何が正しいかは、問題ではない。

 要は、天道鉄矢に守護騎士の殺傷をさせなければ良いのだ。

 話し合いでは、やはり………無理じゃね? と言う結論に至ってしまう。ある意味で、誰もが自分にとっての正しい事をしようとしているからだ。

 なればこそ、我々デバイスの役目は、主の願いを具現させる事。

 そのためならば、天道鉄矢の一人や二人、如何にか出来なくて如何するのか(重複表現)?!

 確かに、説得は難しいが、主の正しさを昼夜問わず懇々と延々と三日三晩指摘し続ければ、如何な天道鉄矢と言えど、『あー、そうかもしれない』と言う結論に至らせる事が出来るかもしれない。

 彼の考えにも想いにも、共感できる部分もあれば納得できる部分はあれど、彼に間違いが無いとは言えない。

 彼が切り捨てているのは守護騎士だけでなく守護騎士を失う主の気持ちだ(最も闇の書の主がそれをなんとも思わない様な人物である可能性もあるが………)。

 その主がどんな人物かはようとして知れないが、結果として彼は、その主に守護騎士を失わせる決断をしたのだ。

 それはつまり、子竜と同じ気持ちをその人物に与える事ではないか………と言えるのでは?と考えられる。

 まあ、この考え方も幾度も検討したもので、結局の所、その人物は子竜の親『達』の犠牲によって生き長らえる訳で、それに対して文句を言うのもお門違いではないだろうかと言う考えもあるのだが、この際その考えは捨てよう。

 この方向性で、忠言すれば、天道鉄矢も分かってくれるだろう。

 そして、優しさと強さ故に主がどれ程悩み、苦しんだかを伝えるのだ。

 そうすれば、彼もきっと、主の味方で………………。


 其処まで、思考を集積回路に走らせた時に気が付いた。


 主は、優しい、優しくて強い。そして、正しい事を精一杯成そうと、困っている、苦しんでいる誰かを救おうとする素晴らしい人だ。

 でも

 でも天道鉄矢が、味方になる人物は違う。

 天道鉄矢は、どうしようもない『運命』とでも言うべきモノに振り回される『弱者』の味方なのだ。

 正しい事も強い事も天道鉄矢が味方になる理由にならない。


 何てことだ。

 レイジングハートは驚愕に打ち震え、ながらも冷静にその言葉を掴み出した。


 高町なのはが、天道鉄矢と同じ方向を向くのは、天道鉄矢が味方する者の味方に成った時だけである事を………!!

 そして今、高町なのはが、今の願いを持ち続ける限り、決して天道鉄矢は味方に成ってはくれないと言う事を………!!


 その驚愕が一瞬だけ、センサー内に侵入してきた魔力反応の感知を遅らせた。

 普段ならば、取るに足らない、隙ともいえない程度の遅れではあったが、この人物にその常識は通用しない。 
 

 ふわりと、黒色のマントが翻った。




*****************************


「うぅ、お前、良い奴だなぁ。グッスゥ」

「えーっと………」

 ズビィッと鼻汁を啜り上げるランにやや引きながら、鉄矢は悩む。

 彼女に現状(闇の書事件のあらまし)を説明しきり、何故竜穴で竜百匹とバトッていたのかを説明し尽くした所で、ランはポロポロと涙と鼻水を溢してしまった。ちなみに既に飯は喰い終えている。ゲプッ。

 女の子泣かしちまったよ?!と内心打ち震えながら、泣き止ませようと声を掛ける。

「あのですねランさん。俺は、俺がやりたい様にやってるだけなので、別に良い奴じゃないよ?」

「良い奴だって! だってさ、お前、お前がやってることやり切ったって、お前には何も良い事無いじゃんか。それなのにそんなに頑張れるなんて、偉い! 良い奴だなぁお前!!」

「いや、その、え~~~~???」

 その全肯定に困惑する。

 だって自分には、自分が絶対に良い事をしているって言う自信が無いのだ。

 自信が無い事を肯定されて困ってしまう。

「うん? だって自分に利益が無いことで、頑張れる奴って良い奴じゃない?」

「いや、いや。良い事は在るって!」

「なんだ?」

「俺が気持ち良い」

「?! 他人の幸福が自分の幸福って奴か?! 始めてみたぞ! 正義に味方かお前!!」

「いや、あの、そうじゃなくてですね?」

 正義に味方なんてむず痒い物に例えられて背筋がモジョモジョする。

「何だお前、チミチミとふやけた奴だなぁ。そんだけ良いことしてんだから、少しは胸をはれよ。ふははははってな感じで」

 いや、それはルル●シュ。

 じゃなくて

「別に良いことしてる訳じゃないって」

「何処がだよ?」

「それは………俺がやる事で不幸になる奴が居るんだよ」

 一瞬、言葉に詰まったが、続く言葉はすんなりと出て行った。

 そう何が、俺を正しいと言わせないかと言えば、やはり第一にはやての顔が浮かぶ。

 俺と同じ親の居ない、家族が居なくなってしまった子の、新しい家族を俺は奪おうとしている。

 それが、苦しくて痛い。

 何か俺を迷わせるものがあるとするなら、それに他ならない。勿論、他にも気を重くする事象は沢山在るのだが、第一に何を挙げるかと言われればソレだ。

 その苦悩を

「はっ、そんなのはあったり前だろう?」

 とランは笑って流した。

「良いか天道鉄矢? どんな生き物でも、何かを喰って生きている。それは喰われる方にとっちゃ溜まったもんじゃない」

「ソレとコレとは、話が違うだろ?」

「いや同じだ。喰われる方に何か罪があるといったらそれは、弱さだ。弱い奴はいつも強い奴の食い物にされる。ソレが当然ソレが普通」

 ニヤニヤと笑いながら鉄矢のささやかな苦悩をあざ笑うラン。

 鉄矢の頬がピクリと震えた。

「何だよ? 何が言いたい?」

「お前は、誰だって生きてるだけで誰かの癇に障るし、迷惑をかけてるってことを知らない」

「はぁ、なんだそりゃ?」

「お前、本当に私にそっくりだ。世間知らず過ぎる。アレか? 最近までずっと『家族としか接してこなかった』たちか?」

「………?!」

 的を射すぎた意見に咽喉が詰まる。

 何故ソレをと、言葉以上に自身の目が語っている

 ランはやっぱりかと笑った。

「もっと人を見ろよ。迷惑を掛けられない奴なんて居ない。迷惑を掛けない奴なんて居ない。誰だってそうなんだと私は思う。今回遭遇した相手は、生きてるだけで他の奴に多大な迷惑を掛ける奴だったってだけだろ?」

「何を、そんな」

「お前は、その迷惑を掛けられた奴のために怒った。良い事だそれは。少なくとも私はそう思う。んでもって相手は、ただ生きてるだけで迷惑を掛けちまう奴だったってだけだろ? でもそいつは別に悪い奴じゃない。良い奴でもないけどな。だから、お前がそいつ等をぶっ殺すってんなら、それはそれで良いことだろ?」

 違うのか?

 そう言われて、答えに窮する。

 分からない。

 だって、いや、でも

「………ああ、わりー、わりー。別にお前を困らせるつもりじゃなかったんだ。ただ、私はそう思うって話だ。意見として取り入れたけりゃ勝手にすれば良い」

「………」

 そんな勝手な言い分。

 此方の意思を崩しておいて………。

 いや、だが俺の意思がその程度で崩れる程度の物だったって事で………。

 くそ、考えが………?!

「さて、でさ」

「?」

 パンパンと手拍子を叩きながら言う。ちなみに手拍子で先程のメイドさん達が再び入室して、俺たちが派手に喰い散らかした食事の跡を片付けている。

「お前の事少し分かって良かった」

「そ、そうか………」

「んで、益々興味が沸いた。想像以上にガキだったけど、それはそれで純粋な感じがして好感が持てる」

「そ、そうですか………」

 その言葉と同時に、何故か全身に酷く重苦しいものが降りかかる。何故か敬語になってしまうほどに………。

「ああ、正直に言うと始めて見た時から惹かれてた」

「………」

 一瞬、告白じみた言葉に心臓が跳ねた。

 そして、心臓が跳ねた理由が緊張に在るものだと咽喉が干上がる。

「お前しか居ないって、思っちまった。連れてきて話して、その想いは益々強くなってきてる」

「………………」

 ゾクゾクゾクゾク

 背骨が氷柱に入れ替わる。

「ああ、そうだ。一目見たときに気付いたのかもしれない。ああ、コイツしか居ない。コイツが私の」

 テッターイ!

 テッターイ!!!

 久々登場のオタクレーダーが異常な反応を示す。

 まずい、まずいまずい!!

 変なのに目をつけられた!!!!!!!!!!

「ライバルだってな」

 ゾワァ

 全身の毛穴がぶち広がる。

「お前も、試したくないか? 修行の成果。どれ位強くなったか知りたくないか?」

 右腕が震える。

 先程までのランによる指摘の動揺は消えた。

 そんな暇は無い。

「闘(や)ろうぜ。天道鉄矢、私はお前と交わりたい」

「……………………………………」

 悪寒と交じり合った爽快感が全身を痺れさせる。

 何て純粋な闘気。

 闘いたいから戦うという、今まで一度も感じた事の無い何か。

 毛穴が開く。背筋が凍る。

 戦意に心臓が燃える。


 鉄矢の内に眠る闘神の如き古代の血が目を覚ます。


「カイロス………如何すっか?」

 それは質問に似た宣告。

 刃の如き眼光が、鉄矢の中の刃を抜き放たせる。

 鉄矢も瞬時に悟った。

 この殺意の無い純粋な闘気。

 圧迫感。

 戦う姿を見ずとも分かる。

 その絶大な戦闘能力。

 そしてその方向性は天道鉄矢に酷似している事にも気が付かされた。

 遅まきながら鉄矢も気付く。

 目の前の女は、女に在って女に非ず。

 追い求める事も無い。

 探す事も無かった宝物がこの手に転がってきた。

 そう、彼女こそが天道鉄矢の終生のライバルである事を全身の細胞が知っていたのだ。


 カイロスの返答は無い。

 答えは無い事はつまりイエス。

 脳内変換されたゴーの合図に鉄矢は唇を舐める様にして応えた。


「応」

 その言葉で全てを悟ったのだろう。

 目の前の少女は頬を染めるように闘気を放ち

「是」


 と応えた。

 もはや止めるものは居ない。

 ひょんな事からであったライバル同士。

 やる事は決まっている。

 そう、タイマンである。











 ちなみに、その宿命の対決っぽい何かを止められた筈のカイロスは

『鉄矢の唇が、鉄矢のチューが、怪我、けが、穢され………ブツブツブツブツ』

 最初から最後までブツブツ言っていた。





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No title

リーゼアリアとロッテの鉄矢の戦いにみせられたようですね。

はやては緋焔相手に心を開いてもらえずに苦労していますね。

なのはは鉄矢のことで悩んでいますがどう結論を出すのでしょう。

鉄矢は永遠のライバルとなるだろうランと戦いますか。

次回も楽しみにしています。

No title

26話おまちしてました!

アリアとロッテがなにやら不穏な会話してますね~、プランBいったいどうゆうものなのでしょうか?とりあえず鉄矢ガンバレ!!
なのはさんなにやら悩んでいるようですが根幹がはっきりしていないみたいですね・・・てっきり一般的な倫理観がつよいため鉄矢にああゆうこと言ったと思ったんですが、鉄矢のためだったのか?それとすずかの反応がやけにきなる・・・

次回はあちこちでバトルの予感がする・・・・・・ランと鉄矢は正統派なバトル(Z的な)な感じに、なのはとフェイト?は夕日をバックに殴り合いですか?
しかし、こういった原作にない展開(おもにバトルや恋愛模様)はいいですね。こういった空腹さん独自の展開は先がわからないとゆうこともあってすごくわくわくします。
次回期待しています!

No title

アリアとロッテの会話から考えると鉄矢を犠牲にする作戦を立てていますね。

鉄矢とランの間にライバルとしての関係が成り立ったようでどうなるんでしょう。

次回も楽しみにしています。

No title

なんということでしょう!!

つ、ついにライバルが爆誕!!!鉄矢の明日はどっちだ!

なんか最後に、ほとんど持っていかれました。

次回も頑張ってください。

返信

koni様へ


>リーゼアリアとロッテの鉄矢の戦いにみせられたようですね。


さあ、一体鉄矢のバトルッぷりを見ていたのは誰なんでしょうか? きっと誰も知らない猫姉妹ですよ?


>はやては緋焔相手に心を開いてもらえずに苦労していますね。


はやてと言うより、ヴォルケンにビビリまくりな緋焔ちゃんでした。ほんとに怖いんだよあいつ等?


>なのはは鉄矢のことで悩んでいますがどう結論を出すのでしょう。


まずは自分自身の気持ちに決着をつけなければ鉄矢とOHANASHI出来ません。


>鉄矢は永遠のライバルとなるだろうランと戦いますか。


戦闘体勢に入ったことで、感じ取った雰囲気。言うなればゴクウとべジータ!


>次回も楽しみにしています。


ういっす。そろそろ次話に手をつけなければ!!



海人民様へ


>26話おまちしてました!


本当にお待たせしました!!ソレもコレも残ギョが悪いんだい!!(見苦しい言い訳)


>アリアとロッテがなにやら不穏な会話してますね~、プランBいったいどうゆうものなのでしょうか?とりあえず鉄矢ガンバレ!!


はてさて、一体何のことやら。とりあえず鉄矢超頑張れ!!


>なのはさんなにやら悩んでいるようですが根幹がはっきりしていないみたいですね・・・てっきり一般的な倫理観がつよいため鉄矢にああゆうこと言ったと思ったんですが、鉄矢のためだったのか?それとすずかの反応がやけにきなる・・・


無論一般的な常識的価値観の持ち主であるなのはは論理観から『殺しはけない』と言いました。しかし、その裏に少しだけ利己的な思いもあるのです。良いじゃない人間だもの。
そして、あの僅かな一行ですずかに突っ込むとは、通ですなぁ♪♪


>次回はあちこちでバトルの予感がする・・・・・・ランと鉄矢は正統派なバトル(Z的な)な感じに、なのはとフェイト?は夕日をバックに殴り合いですか?


はっはっはっは、何を言います、彼彼女達は皆平和主義者ですよ?(大嘘)
殺し合いなんてしませんよ………多分


>しかし、こういった原作にない展開(おもにバトルや恋愛模様)はいいですね。こういった空腹さん独自の展開は先がわからないとゆうこともあってすごくわくわくします。
次回期待しています!


うぅ、ソレを書こうとするが故に更新が遅れてしまう空腹です。特に恋愛って難しい………愛って何だ?!
オリジナルと言えば最近はヴィヴィット時代の構成が固まってきて怖い。もう、どうやってヴィヴィットまで行くかは決まっているのに、未だにA’S!!………さて、次話書きましょう!!



焔様へ


アリアとロッテの会話から考えると鉄矢を犠牲にする作戦を立てていますね。


さてさて、一体皆さん何のことを話しているのやら。まあ、一言意見をするのならば鉄矢は滅茶苦茶頑張れ!!!


>鉄矢とランの間にライバルとしての関係が成り立ったようでどうなるんでしょう。


本能で生きる部分の多い2人故に起こってしまった事態でした。と言うより、もはや遺伝子のレベルで………。


次回も楽しみにしています。


感想ありがとうございました!!



南極熊様へ


>なんということでしょう!!
つ、ついにライバルが爆誕!!!鉄矢の明日はどっちだ!


鉄矢のライバルは必ず作ろうと思っていました。はじめはクロノで良かったんですが、stsのアレッぷりに止むを得ずオリキャラ………。まあ、太陽の騎士誕生編でどなたかがガウェインの話を空腹に持ってきた事から全ては始まったのですが………さて、一体どなただったのか………。


>なんか最後に、ほとんど持っていかれました。
次回も頑張ってください。


最後は、もう少し穏やかに戦意が高まっていく風にしたんですが、余りにも鬱陶しくなってしまってアッサリ気味に成りました。実際、ランが普通に闘うと鉄矢瞬殺な位の戦闘能力差はあるのですが、性格がアレなのでライバル関係に収まります。
でww、次回も頑張ります!!

No title

はじめましてになります。

某大型捜索掲示板でここの作品を知り、一期の一話からここまで一気に読みました!

色々とお忙しいでしょうが、次回の更新を楽しみに待っています。

頑張ってください!

コメ返し

偽猿様へ

>はじめましてになります。
某大型捜索掲示板でここの作品を知り、一期の一話からここまで一気に読みました!


おぉ、気が付けば結構な数だったのですが、兎も角感想感謝です!!


>色々とお忙しいでしょうが、次回の更新を楽しみに待っています。
頑張ってください!


久々に上げる事が出来ました。
つまらないものですが、どうぞ!!
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