ロスメモ A'S二十八話
お久しぶりになります。
実に遅くなってしまいましたが、漸く完成しました。(まあ、完成したとは言っても前編何ですが………)
遅筆で申し訳ありません。
今回から暫らくは、物語は進まず、短編の様な感じで行こうと思っています。
いや、もう、A’s編終わるの何時になるんだろうと言う感じですが………。
兎も角、未だにやる気だけは落ちていませんので、末長ーくで、見守って頂ければ幸いです。
でwww
――― 7 ―――
バリッ、バリバリバリーー。ピシャッ、ゴロゴロゴローン!
稲光が、走っていた。
「はぁ、はぁ。はぁー。はぁー」
唯ひたすらに荒い吐息。
ゼェゼェと喘ぐ様に引き出される呼気音が自分の口から発せられると気付くまで、若干の間が必要だった。
「ごく、ぅ」
唾を飲み込む音が生々しく辺りに響く。
外は、雨だ。
湿度が高い。
湿気が強い。
血が臭う。
「う、はぁ、はぁ」
腕が、重かった。
腕が、ひたすらに重かった。
一体何が重いのか、思い出す為に更に時間を必要とした。
普段と比して余りにも鈍い、脳の回転。
お粗末だ。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
「ヒャァ………!?」
覚醒の実感が濃くなっていくと共に鋭敏化していく感性が、稲妻の轟音に衝動的な恐怖を覚える。
思わず、右手を口に当てて声を遮った。
此の雨と轟音だ。
生半可な声では、執事の鮫島やメイド達には聞えないだろうが万が一と言うこともある。
「………ど、どうしよう」
カツン
HEREKEの絨毯に得物がテンテンテンと微かな音を立てる。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
「ひう………?!」
稲光が照らす。
左手に未だに引っかかる紅く濡れた鉄バットを。
そして
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
頭部から血を流し倒れ伏す黒いジャケットを着込んだ男を
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
天道鉄矢の遺体を………。
「どうしようぅぅ」
正直どうもこうも無い。
手に残る『デラゴッツイ』フルスイングの感触。
メキィッと言うか
ミシィッと言うか
兎にも角にも、分厚い布に包れた陶器に罅が入るような感触。
「………ああ、もう………何で、こうなるのよ………」
そして、その加害者『アリサ・バニングス』は手に残る生々しい感触に怯えながら、震えるように呟いた。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
魔法少女リリカルなのはA's ロストロギアメモリー
第二十八話 天道鉄矢の空恐ろしく長い一日(―アリサ編 前編―)
話はおよそ一時間前に遡る。
――― 1 ―――
深夜、何一つ音を立てないまま覚醒した。
眼を薄く開ける。
オレンジ色の間接灯が柔らかく室内を照らしていた。
眼を軽く見開き、通常通り自分の名前、自分が居る場所、状況等を頭の中で纏めて覚醒する。
呼吸を通常行動用に移行し、全身をチェック、おかしな所が一つ。しかし、それは仕方が無い事なので瞬き一つで諦め、同時に極警戒モードに移行していたカイロスを通常の警戒に切り替える。
カイロスを眠る時にも装着している癖で、右腕の手首から指先までを丹念に揉み解して漸く起き上がろうとすると、このまま起きると胸の上にのっかている緋焔が落ちる事に気が付いた。
「………ふぅ」
起こさないように、胸から一先ず床に降ろそうとぐるりんと横を向くと………。
「っっっ?!」
滅茶苦茶驚かされた。
驚か『された』だ。
「すぅー、すぅー」
顔面すぐ間近に八神はやての寝顔があったのだ。
ちか、ちっか?!
うわ、メッチャ息掛かってる?!
つーか、何で気付かない俺?!
「…………おぉぉぉぉぅ」
そわっ、そわっ、そわっ、そわっ
助けを求めるように前後左右から、何時の間にか掛けられていた毛布の中まで探ってみるが救いの手は無い。
「くっ」
見事に何にも無い。
仕方が無い。
「…………」
諦めてはやての寝顔でも鑑賞しよう。
………言うまでも無い事だが、アッサリとこう言う発想に行く鉄矢はちょっと変態が入ってる。
(…………うーむ……こいつ、意外と睫毛なげーな………まあ、俺の周りには睫毛なげー奴しか居ないから自分との比較だけど………)
ふむ、と折角だから更にしみじみと寝顔を眺めてみる事とした。
うーむ、寝ている人間ってのは顔の筋肉の力が緩んで不細工な面になるって言うけど、あんまり崩れてねーなこいつ。
………と言うより、悪夢でも見ているのか眉間に軽く皺が寄っている。
(じーーーー、うーーーむ)
現在はやては車椅子に乗ったまま鉄矢が枕にしているソファーの肘掛部分に両腕を枕にして眠っている。中々に寝苦しそうだった。
(しかし、こんなにじっくりはやての顔を見る事無かったな。まあ、最近はヴォルケンと一緒で気が回らなかったからな………)
蔑ろにした分たっぷりと眺めなくてはと言う妙な使命感に支配された鉄矢はそれはそれは、はしたない程にガン見する。
肩の辺りで切り揃えられたブラウンの髪は横になっているからか頬に掛かっており、鉄矢は何となくその髪を耳にかけてやった。
細やかな髪のかかる鼻筋はすっと通り、頬や細い眉のラインから感じる印象は快活だ。
とは言え
「まあ、あんまり華やかじゃないな」
もっとも、髪や瞳の色が黒やこげ茶色の多い日本人は、古来より余り華やかなものを良しとする文化が無い。
華やかと言われて思いだされるのは、やはりフェイトやアリサの様な金髪だろう。
まあ二人とも、受ける印象は正反対なのだが、性格的にも動と静だし。
例えるならば、二人は目を引く華やかな紅い華。しかし、薔薇とカーネーション位の違いがあるように思える。どちらがどちらとは言わない。第一、そんなに花の知識があるわけでもない。
ふむ
そういう意味では
「言うなれば、野山に咲く純白の花のような可憐さ。控えめに言っても、嫌いじゃない…………」
ピクリ
「ぬ?」
………一瞬動いたように思えるが、呼吸は安定している。流石に、目蓋を開く訳には行かないがその奥に感じる眼球運動も、まあ眠っているような感じだ。
今の聞かれたら首を吊りかねない台詞だったので、セーフである。
しかし、どんな花が似合うだろう。
どんなイメージが合うだろうか………。
華やかさよりも、快活な印象を受けるのは確かだ。一切の装飾を廃した寝顔からは、飾り気の無い素朴な魅力が際立っている。
そういう意味ではナデシコの様な花が合うかもしれない。
だが、鉄矢ははやてからそんな印象を受けた事は、殆ど無い。正確に言うならば、ヴォルケンリッターをぶっ殺すと宣言してから一度も………。
だからか、その寝顔にも微かに悲壮染みたものが漂っている。
「………………はぁ~~~うッッッッッ。………と、トイレ」
はぉあ
と不思議な声を出した後、胸の上の緋焔を一時肩に乗せる。
「………きゅぅ?」
「寝てろ」
浅い眠りだったのか、微かに声を出す緋焔に一言告げて、寝床にしていたソファーから降りるとそのままはやてをお姫様抱っこで抱き上げて入れ替わりに寝かせた。
そして「くぁぁ」と大きな微笑ましい欠伸をする緋焔に軽く微笑み
「お前も、暫らく………」
と声を掛けかけ、絶句した。
暫らく………何なのか。
緋焔に一体何を言うべきか、言葉が繋がらない。
俺は一体何をしているんだ。
緋焔の眠たげな眼差しが、鉄矢に激しい焦りを火花のように散らせる。
薄く開かれた無邪気な瞳が、何かを問い質すような光を帯びているように見えるのは気のせいか………。
疾く、疾く一刻も疾く、緋焔の望み通り奴等との決着を付けるべきではないのか?
そんな思いが鉄矢からは消えない。
それを、こんな風にズルズルと先延ばしにして………。
焦りは募る。
理由は、分かっている。分かっている………つもりだ。
だが結局、鉄矢は緋焔の瞳が再び閉ざされるまで何も言えなかった。
「………暫らく、はやてと、仲良くしてやってくれ」
漸くそれだけ言うと、寝苦しくならないようはやての横に寝かしつける。
「………」
こうしてみると分かる。おぼろげな明かりに照らされるはやての頬は青褪めていた。
理由は、余り考えない事にしよう。考えると、指一本動かせなくなってしまう気がする。
この事ばかりは、考えない以外に解決策が見つからない。実に、情けない事に………。
その素朴な可愛らしさと相反する苦悩が鉄矢に一つの花を連想させた。
「マーガレットって感じかな………」
マーガレット
一重咲きの純白な花弁に、色鮮やかな黄色のめしべとおしべのコントラストが美しい花だ。
確か、恋占いの花として愛されている花。多分、何処か数多くの漫画で『好き』『嫌い』『好き』とか言って花弁を毟られてしまう花である。
そして花言葉は………確か………「恋を占う」「貞節」「誠実」そして「心に秘めた愛」に「真実の友情」………。
「馬鹿みたいだ」
軽く赤面し、その言葉だけ残して
「と、トイレ!!!」
トイレに向かう鉄矢だった。
*****************************
――― 5 ―――
「ん、ん?」
深夜、呻き声を上げて覚醒した。
眼を薄く開ける。
ピカァ
「ン、んんっ」
強い金色の光が目頭に突き刺さった。
それを嫌って、微かに身じろぐ。
ゴロゴロゴロゴロ
(………えん、雷)
眠りが浅かった所為か、微かなに開くカーテンの所為か、稲光がアリサの眠りを僅かながら妨げた。
「あむ、ん、んん」
無論、眠気は強い。
脳も覚醒した訳ではない。
半分以上は眠っている精神が、目蓋を介して突き刺さる強い光を嫌って寝返りを打つ際に、自然と意識が覚醒しただけ。
眠りにつくのは早い。
いや、既に半ば以上眠っている。
後は、此の微かな意識を放り捨てるだけで、朝焼けの光が再び彼女を揺り起こすまで安らかな時が流れるだろう。
その全てを理解し、意識を手放さない理由が見当たらないアリサは、人間と言う種に根ざす三大欲求の一つに緩やかに身を任せ
ピカァ
その、稲光に微かな違和感を受けて指先に掛かる程度の意識が、残ってしまった。
(うー、んん。ねむい)
起こされたのが稲光なら、眠りを妨げるのも稲光。
雷の音と光にビクッとする事はあっても、殊更に、そう殊更には『怖い』と感じる事の無いアリサだったが、流石に此の状況で快眠しろと言うのは難しいかもしれない。
ゴロゴロゴロゴロ
遠い稲妻の残り火
重低音が耳に残り、消えかけている意識を拙く繋ぎ止める。
まるで、初めて縫う編み物のように滅茶苦茶に乱される意識が、眠気から微かな吐き気を催すほどだ。
(うー、ねむ、い、のに)
ピカァ
再び稲光が室内に一瞬だけ金色の光を刺す。
(ッ?!)
だが
そう、だが
今のは、何だろう?
心拍数が、上がった。
今、何か、なにか、変な物が見えた気がする。
ドクゥ、ドクッ、ドク
血が血管を駆け巡る。
心臓の音が強い。
ゴロゴロゴロゴロ
「い、ひゃ………ッ!!」
その混乱状況に轟く重低音。
先程とほぼ同程度の雷鳴だが此方の心持ちが違う。
思わず、悲鳴を上げ掛け、慌てて口を閉じる。
そうしてから、軽く叫んでしまえば良かったと思った。
バニングス家では夜中でも、執事やメイド達によって定期的に見回りが行われている。
それでなくても異変を感じれば、誰かが来てくれる可能性は大きい。
いや
でも
だけど………。
(い、いまの………は…?)
両手で口元を押さえて、跳ねる様な心臓の音に耳を傾けながら、待つ。
いま、ほんの一瞬、チラッと見えたものが、何なのかを、確認しなければ。
*****************************
――― 2 ―――
「………参ったな…」
八神邸一階トイレで呟く。
「………参ったな」
赤色に染まる便器を眺めてポツリと呟く。
言って置くが血便ではないし、血尿でもない。
「………かはっ」
短く、熱い感触
ビチャビチャビチャと喉奥から零れる鮮血。
紅い、ひたすらに赤い、血色の花。
トイレの便器に…………紅い花が咲く。トイレの便器に………。
「………ゲロじゃないよ?」
『誰に言ってるんですか誰に………』
薄ら寒い声音は、シラーッと言う擬音が聞えてしまうほどに冷めてらっしゃるカイロスである。
「けほ、別に、ガラガラガラガラ」
『トイレの水を使ってのうがい。人間の尊厳を捨てましたね?』
「こぺぇッ、捨ててねーよ?!」
無論、便器にベッタリと張り付いた喀血を流した後である。ほら、トイレって水流すと同時に上からも水出てくるじゃん? 手洗い用だろうけど。多分。
「心臓に悪いよお前」
『すみません。最近、あまり話してなったもので、ついつい』
「主を馬鹿にするデバイスが此処に居ますよ」
『まさかまさかまさか、敬愛する我が主を馬鹿にするなど、とてもとてもとても』
「おーい、その態度で馬鹿にしてないとホザキやがるたぁ、随分太い肝をお持ちで………」
『肝なんてありません』
「知ってますぅ」
ペッともう一滴垂れて来た血を唾の様に吐き捨てる。
そして、流す。
ごぼぉ
「あれ? 流れね?」
『水が溜まるまで待たないと駄目ですよ』
「え? 何処に?」
『トイレのタンクです。別に、その取っ手が水道管に直結してるわけではありません。トイレと言うものはタンクにある一定量までは常に溜まるようになっているので、その取っ手は貯水した水を流すためのものです』
「へー?」
がっぽんがっぽん
『トイレで遊ぶなよ。うんこ』
「うんこ?!」
な、何と言う言い草!!
流石の俺も一瞬で堪忍袋の緒が切れましたよ?
「この、うんこって言う奴がうんこなんだよ!! うんこうんこうんこ!!」
『ふむ、それにしても』
「か、完全無視?!」
放置プレイ? 放置プレイって奴なのか?!
あら、やだよ奥さん。うちの子(デバイス)が人に言えない性癖に目覚めちゃったよ?!
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「うぅ、なんだよー。少し位相手しろよー」
『はいはい、ツンデレ乙、ツンデレ乙』
「このツン子にデレ期は来るのか?」
『別に貴方の事を心配しているわけじゃないからね』
「その、気だるい【くーるぼいす】は好きだけど、もそっと乗り良く元気良く言ってくれませんか?」
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「無視ですか。そうですか」
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「………」
幾度目かの申告。
告げられるたびに増す深刻さに遂に無言を強いられた。
『で、実際のところ自覚症状は?』
「………分からねぇ。一言で言うなら、虫食い状態?」
『………少々と言った所です』
眉を顰め、口元が微かに震える。
その微かな震えさえも許さぬとばかりに厳しく口元を引き締め、ほっと一息を付く。
くしゃくしゃと髪をかき混ぜ
「ま、仕方が無い」
短く呟く。
『………』
「仕方が、無い………」
それ以外に、無い。
仕方が無い故に、仕方が無い。
『確かに、ですね』
そう、仕方が無い。
『ですが、至りました………』
そう、仕方が無く。
そしてそれが故に至った。
逆に言えば
『しかし、早すぎました』
「………」
到りは………した。
此処に居たり、天道鉄矢は遂に至った。
『恐らくアレがSUNの戦闘法です』
「…………」
そして理解する。
全く同じ才覚ながら、一人は太陽の英雄として、一人はDランク魔道士として枝分かれしていた未来が漸く統合されていった。
そして理解する。
なるほど………と。
なるほど、アレが可能ならば、そして己が才覚を信じ抜く事が出来るならば、成れる。
至ったとは言っても魔力量が増強された訳でも、魔力出力が上がった訳でも、ましてや魔法技能が向上した訳でもない。
しかし
それでも尚、なるほど成れると鉄矢は納得する。
アレならば倒せる。
この世に蠢く数多の魔道士そして騎士共を、一匹残らず凌駕する事が可能だ。
だから成れる。
かつて在った『太陽の英雄』の同一存在に何時かは至れる。
だけど
『全身の筋肉系、神経系のみならず。内臓へのダメージが此処まで大きいとは………』
「………」
だが、未熟。
此処に来て未熟が露呈される。
「出来た。取り合えず使用可能な領域までは来れた。でも………」
『長期的な使用は、全身に深刻なダメージを与えていきます。恐らく、ですが魔力操作の不確かさが、肉体にも影響を与えているのではないかと………』
「………ま、魔力操作かー」
『この世で最も苦手な事ですね』
「う、ぅぅううぅ、こんな事なら訓練校でもう少し、魔道系の勉強すれば良かったぜ」
『成績を見させて頂きましたが、座学と武道系は最終的にトップですけど魔道系はぜーんぶドン穴で、追試受けまくりでしたね?』
「あううううう~~~。射撃魔法なんて、近づいて殴れば結果的に同じじゃなーい!!」
『まあ、訓練校のお陰で自力で二つ以上の魔法を行使出来るようになったお陰でまともな戦闘行為を行えるようになった訳ですが』
「………うー、ん」
最初の頃
カイロスと出会ったばかりで、魔法の魔の字も知らなかった頃は、カイロスの手助けがあってでさえ、二つ以上の魔法を行使できず『マジでよくアレで生き残れたよね?』的な勢いだったのだが………。
しかし、二つの魔法を同時に行使すると言うのはマルチタスクを駆使する、と言うより魔道士ならば肉体強化と他の魔法の併用は基礎中の基礎なので出来る様になるまで随分とやられたのだが。
『まあ、技能的にはあくまでも最低限ですし………』
「う、--ん」
訓練校とそれプラス在学中三ヶ月の間俺を引き取ってくれた人がミッチリ、ネッチリと基礎を叩き込んでくれたお陰で、何とか、本当に何とか訓練校卒業レベルの魔道は身に付ける事が出来た。
その後の3ヶ月間の激闘の日々と海鳴に帰還してからのヴォルケンとの死闘の所為で、更に多少の技能向上は認められる。
しかし、このSUNと同じ戦闘法を実践するには足りないらしい。
拙い魔力操作技術が我が身を焼いている。
それは分かる。理解できる。でも………。
「今から、魔法の練習して間に合うのか?」
『………う、うーん』
と言うか完全に肉体に影響を及ぼさないように使用可能になるまで一体何『年』掛かるんだ?
アレは唯の魔道技術ではない。
魔法自体は極単純な構築、難しさなど何も無い。そもそも、魔法で難しい事は出来ない。(そんな魔法の技術があるならハイパーノヴァストライクは今頃ビームになって飛ばしてる。無いから肉体に取り込んでるのである)
しかし、それでもSUNの戦闘技術は全能総力を傾注した極技ではあった。
此処で魔法を車に例えてみよう。
魔力量、出力で比較するならば鉄矢は軽トラック、高町なのははレーシングカー。
ドライバーとしての技量は仮免とトップレーサー程の隔たりがある。
一般的な魔法戦をレーシング上での走破性を競うものとするならば、最早勝負どころか話どころか、説明にすらなっていない。
最初の一吹かしで絶望的な差がつけられもうその後は積み重なる周回差のみが現実と言った具合だろう。
そんな中でSUNと同じ魔技を使用すると言う事は、粗末なエンジンに無理矢理ニトロを注ぎ込むような暴挙。
確かに、瞬間的に莫大な出力は得られるかもしれないが、爆裂寸前のエンジンで得るスピード、タイヤを一瞬でパンクさせ車体に致命的な損傷を与えながらの死走………仮免程度のドライバーに制御出来る物ではない。
カーブを曲がりきれず、ぶつかり、捻り、脱線し、爆発する。
アレはそういう類のものだった。
「………」
『ご、五年? いや、十年もあればもしかしたら………』
み、耳が痛い。
無理矢理捻り出した様な声音は、端的に今の言の二倍から三倍程度の時間が必要だと語っている。
「う、うーん」
六ヶ月かかって仮免な鉄矢は頭を抱えた。
割と死闘の数々を繰り広げてきた鉄矢は頭を抱えた。
言わずもがな、魔法にかけては此の後成長の兆しなど一筋の光明すら見られない。
パンツの糸屑ほども………無い。
『まあ、トイレで悩んでても仕方が無いでしょう』
「………あ、あぁ、トイレで悩んでても仕方が無いな」
冷静に突っ込まれてちょっと凹んだ。
ペッと喉奥に残る血塊を吐き出してレバーを捻る。
ジャーーっと流れる水流。
「………血の匂いが残ったな」
『まあ、芳香剤があるから大丈夫でしょう』
ゲロゲロッと吐き出した所為か血の匂いが篭ったトイレから出ようと扉に触れた瞬間
スッと、鉄矢の目が細まる。
和やかだった気配は静謐となり、弓の弦の如く引き絞られていく。
「………」
『………』
キィィ
微かな扉の軋み。
零れる光が、夜闇に熔けていた輪郭を浮き上がらせる。
鮮やかな、桜色の燐光。
一瞬、目を奪われる。
それは、此方を静かに見詰めていた。
敵意は、無い。
戦闘の意思は何も感じられない。
腕を組み、背を壁に預け、解けた長い髪がその艶やかな肢体を彩るようだ。
告白すえば、息が詰まるほどに美しいモノに呼吸が止まった。心臓が強く跳ねた。美しく、艶やかなその存在に目が奪われかねない。
ソレは、柔らかそうな薄手の寝間着に身を包んだまま常と変わらぬ静かな口調で一言発する。
「辛そうだな………」
「ッギ!!」
その一言で惚けてた脳が覚醒する。
弱みを見られたと言う事実が、渾身の憎しみを誘発させる。
「………いや、そう睨むな。此方に敵意は無い」
敵意を無い事を示すように広げられる掌。
武器は無い。
装着するにしてもコンマ一秒は掛かる。
此の間合い。一足一刀(ショートレンジ)。
斃せないにしても、展開速度ならば既に身に付けているこちらが速い。
此の状況ならばほぼ確実に一撃を見舞える距離。
その間合いで、ソレは淡く微笑む。闘う気は無いと、証明するように、少し戸惑ったように。
初めて向けられる、そうこれは、好意の視線。
ビギィッ
何かが、歪む。頭の何処かが、痛む。
「………まあ、警戒するなと言うのも無理な話か………」
「………」
歯を噛締めた。
敵意が、無い。
戦意が、無い。
その厳しく細められていた眼差しが、ふっと和らいでいる。
ギリィッ
気を、喪いかねないほどの鈍痛
歯を喰いしばって、それに耐える以外何も考えられない。
「今回の、お前の蒐集で私達は確信を持っている」
「………何をだ」
言って、後悔した。
言葉なんて交わすべきじゃないと、理解している筈なのにやってしまった。
「今の私達には、お前以外に主はやてを任せられる人間は居ないと言う事が、だ」
―――お前達には関係ないッッ!!
言葉を発しかけ、止めた。
話さないほうが良いと、先程気付いたばかりなのに愚行を繰り返す事は良くないと思ったからだ。
「………230ページ程、集めたそうだな」
「………」
無言で静かに睨み付けて来る鉄矢に微苦笑を浮かべるシグナム。
だが、それも詮無い事かと受け入れ、そして心中で詫びる。
「蒐集活動の困難さは分かっているつもりだ。相手を殺さずに、それだけの数を短時間で集めきるにはどれだけの負担が必要なのか、想像もつかない」
「………」
「先程も言ったように、お前になら任せられる。しかし、我々が心配している事は一つだ」
「………………」
「お前、最後まで持つのか?」
「………黙れ」
頭痛が消える。
視界が晴れる。
達観とでも言うべき透明な瞳をシグナムに向け鉄矢は言う。
「お前等は、はやての心配だけしてりゃあ良いんだ」
「………」
目線を切る。
最早何も言うべき言葉は無い。
今の俺ならば、背後から一閃を受けたとしても確実に反応できる。
その判断から、脇をスッと通り抜けた。
言葉は無い。
先程の言葉が全てだ。
扉に手を掛ける。
「………そうする」
短く、微かな笑みすら含んだ声。
遮るように、扉を開け放ち
バタン
閉めた。
*****************************
――― 3 ―――
ひんやりとした夜気が身を包む。
だが、恐らく氷点下には達していまい。
元々海鳴は海に近く温暖なため、冬の寒さも耐え切れないほどではない。
それに着ている服も、見た目は軽装だが、各部に備えつけられたジェネレーターである程度の防護機能を備え付けられていると言う特級品だ。何でも二百年以上前の品物らしい。
………一体どんな技術力だ魔道世界。
いや、問題は其処ではない。
「ふぅ、んで………あの仮面野郎については何か分かったか?」
『ん、データ回収は完了しています。あの家に仕掛けた盗聴器、意外と見つからないものでしたね』
「機械式ってのが盲点なんだろ?」
お前がそう言ったんじゃんと悪役真っ青な笑みを浮かべる鉄矢にカイロスは微かに嘆息した。
『本来なら、あの場で全滅させるつもりでしたから、念には念を入れてと進言したんですけどね』
「まあ、俺は兎も角、クロノをフルボッコにするような奴がヴォルケンに追加されると大変だし………」
鉄矢の脳裏に浮かぶ者は、仮面を被った蒼い髪の男だ。声が勇者●っぽくてカッコイイ奴だった。
「修行前に、此処を襲撃したときも結局居なかったしな………」
もう一週間ほど前になるだろうか………。
それは管理局がヴォルケンリッターを罠に嵌め、強壮結界内に閉じ込めた時の事だ。
突如としてその闘いに乱入し、俺とクロノをボコッて更にフェイトのリンカーコアすらも奪ったと予測される奴だった。
戦闘の最中、クロノとの連携によりなんとかハイパーキックβを一発喰らわせる事が出来たが、βは所詮反動軽減を考慮し、威力を三発分に分割したモノ。
ハイパーキックαの様な原子崩壊機能は無い。一撃必殺とまでは行かないのだ。
そして、鉄矢にも止めを刺せたと言う感触は無かった。
それにてっきり、奴を含めた五騎でヴォルケンリッターなのかと思っていたのだが………。
残念ながら奴は、八神邸に奇襲を仕掛けた時にも戻ってこなかった。
実際、確実に肋骨を砕き、内臓にまで響くダメージを負わせていたから、あの場に奴が来る分には何の問題も無かったと思う。
八神邸に蒐集成果を持ってきた後も何時来るのか何時来るのかと、思っていたが、未だにその兆しは無い。
「あの時はこうなるとは思わなかったけど、盗聴器ぐらい仕掛けてみようって言うお前のアイディアは何か役に立ったみたいだな」
『八神はやてに奴等の悪行を暴露した後、奴等が戻ってくるまで暫らく時間がありましたし。あの場を逃げ切られたとして、八神邸に戻ってくる確率は低いと思われますが、暇でしたしね』
「まあ、家には盗聴器とか銃とかバイクとかロケット弾とか色々あるしな」
『言っておきますがロケット弾弄っちゃ駄目ですよ? マジ爆発しますからね、アレ誘導装置付いてないんですからね? 推進機器オンリーですよ。投射兵器ですからね』
「撃ち方なんて知らないよ………」
銃とかナイフとかバイクの運転とかなら物心付いたときから習ってるけど。
まあ、そう言った家の倉庫に放置されている盗聴器をカイロスにチョコチョコと弄ってデータを転送出来る様にした物を設置しておいたのだ。(ちなみに、コンセントの裏側に設置して電気供給受けちゃうタイプだけど犯罪なので決して真似してはいけません)
「気付かれてないんだもんなぁ」
『貴方は単独で動いていると思われていますし。モノが第97管理外世界製です。アレは古い騎士のデータですから、魔力技術が含まれない機械類には疎いと思いますよ? まあ、元々暇だったから付けた物ですし、気付かれて油断させるためにあえて残している可能性も大でしたが』
「気付かれた可能性は?」
『恐らく、無い』
「おそらく………ね」
『内容は話半分で聞いてくださいって事です』
「あっそ、んで? あの仮面野郎の居場所とか言ってたか?」
『編集したものは後でお渡ししますが、どうも会話の内容から推定すると仮面の男はヴォルケンリッターでは無いような会話をしています』
「ふむ、となると何か? 闇の書を横取りにしてやるぜ的な悪の組織の人?」
『いえ、実はそれもオカシイと言う様な話をしています。なんでも、闇の書完成と共にマスターに掛けられた洗脳等は解けるため、無意味だそうですよ?』
「………うーん? それって、魔法だけじゃなくて薬物とかも?」
『さあ、其処までは』
「例えば、今の内に精神的に痛めつけて支配下に置くとかは? 脳の一部を切除して外部からの命令に従う状態にされたような場合でも?」
『それもなんとも………ただ、どんな治癒魔法でも損傷した脳を元に戻す事は出来ません。脳の再生等は死者蘇生にも等しい真の意味での魔法です』
「ヴォルケンは残しておいて正解だったか………」
『そう思わせる戦略かもしれませんがね………』
………悩ましい。
ヴォルケンだけでも手に余ると言うのに………。
心底、世界は八神はやてに優しくない。
まあ、誰々に優しい世界なんてものが何処かにあるかどうかも怪しい所だが。
「はぁ………」
仮面野郎についてはヴォルケンと同一視してきたため、余り考えてこなかったが、どーも重要なファクターっぽい。
はやては一人にしない方が良い気がする。それに………
「………けほっ」
咳が、一つ出た。
思わず口元を手で抑えている。
口元から手をずらす。
「………赤い」
赤かった。
掌に赤黒いシミが滲みこむ様な血痕。
『………魔力を制限します』
「ん?」
『オカシイ。其処までのダメージを負っている筈が無いんです。あの余り思い出したくも無い方法で無理矢理! 飲まされたエリクサーは確実に効力を示した筈です。それは確認しています。その後の模擬戦にしても、内臓を深く傷つけるようなダメージはありませんでした。だから、幾らあの魔法行使が肉体に負荷を掛けたとしても、こんなに後々まで残るダメージを受ける筈が無いんです。』
オカシイ………か。
確かに、身体の異変は感じ続けている。
だが、それは未だに未熟だからそうなってしまうだけだ。
その、筈だ。
あと、『無理矢理』って所に力を入れ過ぎである。
「んで、魔力を制限するって?」
『回復力を高めるため、戦闘用の魔力のリソースを減らします。具体的には使用可能な魔力出力を半分以下にして、全身に循環させる魔力を増加させ、特に内蔵機能の自然回復力を一気に高める事にします。以前、左腕を負傷したときのような感じです。』
「………ふむ」
微妙に長い説明だったが、概要は分かった。
あと、トラウマを刺激しないで欲しい。
アレ、マジで痛かったんだからね!!
と、それはさておき
「それって、何時まで掛かるんだ? 蒐集もあと、えっと60ページ分ぐらいやんなきゃだしな」
『さあ、どうでしょうか。正直貴方の状況は概ね把握していますが、別に内臓を透視出来る訳でもありませんし、何より回復の利きが遅い理由が不明なので』
「何時完治するか分からない?」
『簡単に言えばそうです。如何でしょう。折角ですし、思い切って一日程休暇をとっては?』
「え? 休暇?」
『はい、今日一日八神はやてや闇の書の事等忘れて、リフレッシュに当てては?』
「な、に………?!」
り、りふれっしゅ………だと?!
『戯画調の顔になる位ビックリしないでくださいよ』
「いや、でも、だって」
休暇………だと?
『戯画調の顔になる位ビックリしないでくださいよ』
「いや、でも、だって………なん、だと?」
『苦労してますねMy Lord。グスッ』
「え? 俺、お前に同情される位不幸?」
『不幸か幸福で言えば、貴方はご両親が亡くなってからずーーーーーーーッと不幸ですよ?』
「う、うーん」
其処までハッキリ言われると悩んでしまう。
嬉しい事も、楽しい事もあった様に思うのだが………。
しかし、あの頃を基準とするならば、やはり不幸なのかもしれない。
「はぁ………」
呼気が白く煙る。
まあ、兎も角、確かに………。
「………疲れてるな」
他人事のように呟く。
全身に根深く残る疲労感。
特殊な魔力行使を別にして、四~五日間に及ぶ戦闘は精神的にきつかったのかも知れない。
「だけどさ、まあ、未だ無理は利くな」
しかし、大丈夫だ。
問題は無い。
そんな柔な鍛え方はしていない。
俺は天の果てに居る男が産まれた瞬間から、天の道を行く事も地の道を行く事も、どちらを選ぶ事が出来るように鍛え上げられ磨きぬかれてきた。
十年に満たない時間ではあったが、心も身体も並みである筈が無い。
その事を証明できる自分で無ければならない。
「大丈夫、行ける」
『止めなさい』
「大丈夫だって、元々魔力なんざに頼った戦いはもうしない。魔法なんてものは所詮、俺を補助するだけのものだ」
『止めろ』
グイッと持ち上がる手
「はい………」
プルプルと震える。
困ったものだぜ。
俺がどんなに強くなっても、強くなった分強化されたパンチが顔面を襲うんだぜ?
逆らえねーよッ!!!
「うーん、しかし休みねー」
『好きな事すれば良いんじゃないですか? 良く考えてみれば、此の世界で自由にすると言うのはかなり珍しいのでは?』
そう、言われてみると、完全に自分の意思で好きに遊ぶと言うのは、ものすッごく久しぶり………と言うか、もしかしたらお袋と親父が死んで以来初めてなのかもしれない………。
「うーん、でも蒐集もしなきゃだし………取り合えず、一時間は休もうか」
『はぁ、馬鹿………』
「た、溜息付いて馬鹿って」
『休める時に休める能力は戦士に必要な能力ですよ?』
「もう二時間は寝た」
『それにしても、ヴォルケンリッターに警戒を残したままだったでしょうに。精神を、休めてください』
「大丈夫。俺は、不死身だ!!」
『寝言は寝て言えバーロー』
「なんと………」
リアルで寝言は寝て言えって言われてしまった………。
つーか、バーローって………。
ふふ、染められてきたね。俺に!!
『戯言は置いておいて、休め』
ガチャ
「わ、わ、わわ、分かった………」
ぶつぞーっと振り被られる右拳から首を背けながら言いなりになる。
「ぶぶぶぶ、ぶつなよ?」
『其処までビビられてしまうと、微妙に納得が行かないのは何故でしょう?』
「知るかよ?!」
な、何て勝手な奴?!
まるで、ル●ィのじいちゃんの様な奴だな!! それでも孫に愛されたいってかぁ?!
『兎も角、休暇です。元々海鳴に戻って来たのは、休憩が目的だったんですから』
「むぅ。それは、確かに………」
………まあ、途中からそれは方便で、11番艦エリシオン所属から3番艦アースラへの事件協力員として派遣されているような形にはなって居るのだが………。
「ぬぅ、リンディさんにはもう少し情報わたさねーとなぁ………」
ゾブッ!
「ぐぇぇぇッ?!」
自らの貫手が脇腹に突き刺さった。
お、おま、リバーを、俺のレバーを!! ごふッ!
『仕事の事を考えるのは後回しにしましょう、ね?』
「わ、分かった。分かったから、殴るな、突くな………うぇッ………ッ」
ま、まさか鉄拳以外にもこんな攻撃を覚えていたとは!?
貫手は、成長すまで指を骨折するから親父も使っちゃ駄目だって言ってたのにっぃぃ!! 実際、練習で数回指の骨はパキッと逝った事多数なのにぃー!!
『ふむ。分かれば良いのです。分かれば』
ちくしょう!
畜生!!
アレだけ修行したのに!
俺は100体以上のドラゴンの王様なのに!!
うぅぅー。まだまだ天の道を行く男は名乗れねーなぁ………。
「はぁ………」
『溜息をつくと幸せが逃げると良く言いますよ?』
「お前の所為で、俺は今限りなくブルーだよ」
『え? 私が何か?』
長く苦しい(と言っても四日とか五日だが)修行の成果がカイロス相手には全くでない事が判明してブルーなのだが、もう無意味なので何も言わない。
「はぁーー」
『む、むむ? そ、そんなに痛かったですか? 傷に響きましたか?』
「そういうこっちゃねーんだよ。はぁーー」
『むむぅ………』
カイロスが何やら悩んでいるが、どうせ説明したところで殴るのを止める程度だ。
………何故だろう、殴られなくなると思うと微妙にやるせないと言うか悲しいと言うか………。
寧ろ不満が残ると言うか、アレ………待てよ、それって
「俺はMじゃないよーーーー!!」
『正気に、もどれぇぇぇぇぇ!!』
がずすッッ!!
「ありがとうございましたーーーーー!!」
ズザザァァッ、とコンクリート地面を滑る夜中に叫び声を上げる公害。
『ふぅ、こう言っては何ですが、本格的に休息をとらないと本当に駄目かもしれませんよ』
うぐ、そ、そうかもしれない。
ドラゴン共との激しいバトルやランとの殴り合い、此のままでは別の領域内にあるイケナイ趣味に目覚めてしまう可能性があるぜ!!
「な、なんとしても、なんんっとしてもそれだけは防がねば!!」
『………あの、本格的に大丈夫ですか? 殴られすぎて、脳みそぶっ壊れてしまいましたか?!』
本格的に哀れみを含んだ言葉に軽く凹む。
畜生ぉぉ。
「分かったよ。休む、休めばいいんだろ?!」
『はい。ようやく分かってくれましたか?』
「ったく。そんじゃ、録り溜めたANIMEを、思う存分! 気が済むまで、うぐふふふ」
思えば半年! 半年だ!
コレまでの、俺の人生でこれほどまでにアニメーションを観なかった日々が有っただろうか?! イヤ無い!(反語)
「うー、ふっふふーん」
『ご機嫌ですねー』
「まーなー、と言う訳で一路家路へ!!」
と、ふと何となく顔を上げる。
夜闇に紛れる様に浮かぶ灰色の雲が視界の多くを閉めていた。
ピリリ、とした感触。
『どうしました?』
痛んだ。
体中彼処
特に首筋とデコの辺り。
つまり、古傷が、痛んだ。
「………雨が降るな」
確定的に言った。
それは確信だった。
『ふむ………そう言えば今日の降水確率は50%でしたね』
「いや、十分後ぐらいだな」
天気予報でも確認したのか、そう告げるカイロスの言に重ねるように
雲の動きと、風と言うか気圧、なのか………。
そう言う物が、雨が降る前兆と言うか雨の気配が解る気がする。
古傷がジクジクと痛んで、それが何よりも
『そうですか、では早く家に帰りましょう』
くいくいと微かに指を動かして家路へと誘導するカイロス。
雲………か。
暫らくすれば曇天が空を覆う。此の分だと雷も随分と鳴り響く事だろう。
「………ふむ、予定変更するか」
『え? アニメ見たり漫画読んだりしないんですか?』
「惜しいけどな。良く考えりゃ、やらなきゃいけないことがあったんだった」
『やらなきゃいけないこと? 何かありました?』
「ああ、約束を護りに行こうか」
『え? では?』
「まずは、着替えに家帰る」
こんな古代ベルカの民族衣装なんぞを着ていては、あいつ等の前に立てないだろう。
*****************************
――― 6 ―――
「は、ぁ、はぁ、はぁッ」
稲光が走った。
アリサの視線の先で窓枠に区切られた雷光が室内を照らす。
しかし、イヤ何故、その区切られる稲光に、不可思議な凹凸が見えるのか?!
何だ。あの影は?
一体、何がどうなればあんな影が出来るのか?!
(ち、違う、嘘、分かってる)
ピッカァァァ、ゴロゴロッ!
(う、ぁぁ)
雷光が映し出す影に混ざる異物。
その凹凸は、影は、ヒトのカタチをしていて………。
(だ、誰? 誰?)
いや、違う。見間違いだ。きっと外の木とかそう言う何かがヒトのようなカタチに見えるだけに過ぎない。
そう。
そうに決まっている。
だって、こんな時間に、こんな場所に来るヒトなんて居るはずが無い。
だから違う。
ありえない。
そう、だから、きっと、こんな風に取り乱す必要なんて無いし、アレは人なんかじゃ
コンコン
「ッッッッッ!!!!!」
待って、待って、何今の………。
いや、違う、今のもきっと風か何かの………。
コンコン
「ぅッ~~~~~~!!」
その時、アリサの脳裏に浮かび上がったものは、以前偶々観る機会のあったかなり古いドラマである金田●少年の事件簿のワンシーンだった。
それは『オペラ座館殺人事件』と言うストーリー中で歌月(かげつ)と言う犯人役の怪人が嵐の夜ヒロインの居室に訪れると言う話だ。
その話中でも、そんな風に
コンコンッ
(ッッッッッ?!)
と窓を叩くのだ。
そして笑うニッコリと
そして言う。
(はじめまして、歌月と申します………くふふふふ、ふはははははって)
ガクッ、ガクガクガクガク
知らず、身体が震える。ダメだ。もうダメだ。
助けて、だれか、ああ、だれか。
「あ、だ、だれ………」
か
キィィッ
(は、え、アレ? なに、今の音?)
助けを求める声を喪った。
混乱する。予想もしなかった音に。
コンコンと言う、何かを叩く音ならば分かる。
でも、今の音は?
ガチャッ………
(が、がちゃ? ガチャって何?!)
歯の根が合わない。
チッチッチッチと断続的に響く音は自らの歯が鳴らす音だ。
カッカッカッカ
圧倒的な恐怖
誰かが言った。
ヒトは未知なるものに恐怖を抱くと。
その通り
今正に、その言葉の正しさを実感している。
何が起きるか分からない。
だからこそ、今アリサの中には無数の恐怖がある。
起こりうる可能性の全てがアリサを怯えさせる。
「だ、ダレ・・・!」
もう耐え切れない。
そうして、ベットから立ち上がろうとした瞬間
「ふぅ………」
「ッッッッッッ?!」
異音
そしてザーッと言う雨音
今、部屋の中に、誰かが居る。
それが、確信としてあった。
「ぁ、ぁ………」
助けを、呼べない。
今声を出したら、誰かが来るよりも早く此の部屋に入ってきた誰かに、酷い事をされるかもしれない………ッ!!
第一どうやって入ってきたの?
何が目的なの?
カツ、カツ、カツ
ドクドクドクドクドク
心臓が跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねる。
近づいてくる。
一歩一歩、嬲る様に………。
(………ぁぁ、ど、どうしよう)
混乱して、頭が巧く働かない。
声は出せない。
如何する?
如何する?
声を出せば、酷い事される。
でも、このままでも、酷い事される。
如何する?
如何すればいいの?
「………」
微かな呼気
近づいてくる。
後、数歩で此のベットの脇まで来る。
このままじゃダメだ。此のままじゃダメだ。
でも、誰が、どうやって?
誰も助けてくれない。
ダレにも助けは求められない。
なら、なら、なら。
何をする?
何をすれば?
何を
「………アリサ?」
「ハッ・・・!?」
ブチィッ
瞬間、アリサの中で何かが切れた。
バサァ!
身体に被せてあった掛け布団を跳ね上げる。
「………おう?!」
くぐもった声が布団から響いたが最早アリサの脳はそう言った事象を受け入れない。
脳内麻薬の過剰分泌
攻撃一色に染まったアリサの手が何故かベット脇においてあった金属バットを掴む。
「ッ!?」
声は発さなかった。
ガインッ
ゴロゴロゴロォォ!!
「ホゲ?!」
布団越しに鈍い感触。
「ッッッッ?!」
声が響いてくる。
もぞもぞと布団が動く。
自分の視界を塞ぐ物を排除しようと蠢いている。
「わああああああ!!」
ゴロゴロゴロゴロ
恐怖に駆られた叫びと雷鳴が完全に一致する。
ガインッ
「むごぉ?!」
フルスイング
外観から見れば、不安定なベット上でこの上なく華麗な一撃を決めたアリサは、そのままストッとベットから飛び降り今度こそ、身体を一本の螺子の様に回転させた渾身の一撃を叩き込む。
だが倒れない。
金属バットでフルスイングしたと言うのに、振り切れなかった。
まるで、硬い岩にバットをぶつけた様な手応え。
人間じゃない。
少なくとも、回転率が著しく低下したアリサの脳は尚もモゾモゾと蠢く布団を被った何かを人間と認識しなかった。
「ふぅンッッ!!」
ガィン!!
「ホゲぇ!」
「んあ!!」
ガィン!!
「ぽゲぇ!」
ピカァッゴロゴロゴロゴロ!! ドアーン!!
折り悪く。
近くに雷が落下したらしく、盛大な轟音と輝きが辺りを包む。
その最中
アリサ・バニングスによる私刑は、布団の動きが止まるまで続けられた。
ガインッ!
ゲインッ!!
ゴインッ!!!!
etc.etc.………………
そして冒頭に繋がる。
*****************************
――― 8 ―――
「あぅぅぅぅッ、ちょっと、ねぇ、大丈夫?」
金属バットのフルスイングで滅多打ちにした相手に掛ける言葉ではないだろうが、それ以外に思い付く言葉が無い。
なお、何撃目かのフルスイングで掛け布団は既に剥がされているのでアリサも自分が誰を殴りまくったかは分かっている。
最も、客観的に観れば深夜寝込んでいる9歳児(ょぅι゛ょ)の寝室に無断侵入した天道鉄矢に同情の余地ゼロなのだが………。
とは言え流石に顔面流血及び白目剥き状態、これ以上何を如何しろと言う状態である。ぶっちゃけ見た目はマンマ死体である。
「ねぇ、ねぇってば………」
ゆさゆさゆさ
だが、その身体はピクリとも動かない。
「そ、そうだ?! びょ、病院?!」
病院病院、誰かを呼ばなきゃ!
「あ、でも人って確か心肺停止してから2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度だけど、4分では50%、5分では25%程度だから、えっと人工呼吸と心臓マッサージッ?!」
出来るか?
えっと人工呼吸はまず気道を確保してから鼻を押さえて局部が膨らむように息を約一秒吹き込んで、心臓マッサージは胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、肘を真っ直ぐ伸ばし、100回/分以上の速さで継続出来る範囲で強く圧迫を繰り返すだから、多分出来る………と思う。
なお、この期に及んで誰も呼ばないのは完全な混乱情況にあるが故にである。
「そ、そうだその前に、鼓動と呼吸を確認しなきゃ………止まってたら如何しよぅ………」
いや、如何しようではなく、止まってたら救命措置をしなくてはいけない………。
変わらず白目を剥いたままの鉄矢のコートを肌蹴、耳を寄せる。
「………ダメッ。分からない」
鳴っている様な気もするし、鳴っていない様な気もする。雨音と雷が煩すぎる。
「えっと、じゃあ、呼吸呼吸!!」
と顔をマフラーの巻かれた首の方に向かわせるとパチリと言うか、ギロリと言った眼差しがアリサを貫いた。
ドグンッ?!
心臓が傷むほどの驚き。
「キんぐぐぐうぐぐぐうぐうううぅぅぅ!!」
叫び声を上げる寸前、節くれた荒々しい手が口を塞ぐ。
眼前に、掌のみを間に挟んで限りなく近い位置に左の額から流血する鉄矢の顔。
ピクンッと身体が跳ねる。
「ん、んぐんぐんぐんぐ?!」
「落ち着け、俺だ俺………」
ふと、俺だから一体なんだと言うんだと言った疑問が、脳裏に浮かんだが全力で無視した。
ふと、現在深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒しているという状況を客観的に鑑みて泣きたくなったが全力で無視した。
「んん~~ッ、んー、んー!」
「………あ~~、えっと」
「んーっ、んー、んーんー!!」
困った。激しく困った。
当然の事ながら、アリサに危害を加えに来たわけではない。
ただ、約束を護りに着ただけなのだが、何でこんなことになったのか。
約束事が余り大っぴらに出来る事でもないので今の内に行ってしまおう(一般的な小学生の睡眠時間を良く分かってない)と思い、始めはコンコンと窓を叩いて、向こうから来てもらおうと思ったのだが、熟睡しているのかアリサは起きて来なかった。
仕方が無いから、ピンポイントシフトで手だけを室内に転移させて鍵を開けて侵入したのだが、アリサはどうも起きている様だったが此方を向いていないので軽く声を掛けた瞬間
金属バットのフルスイング乱舞を受けて気を喪ったのだった。
………それにしても、まさか同年代女子の金属バットフルスイングで気を喪うとは………。いつもなら、車に撥ね飛ばされても、まあ平気位な感じなのに。魔力を抑制した所為か………。
いや違う、今は此の状況を如何にかしなければ?!
此のままでは深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒す変質者の汚名を………。ってまんまじゃねーかよーーーーーーー!!
ち、ちくしょう。ツンツン。
だ、ダメだ。
この、深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒す変質者と言う状況に何を追加すれば変質者で無くなるのかまったく読めねーっす!!
うおおおーーーん。ツンツン
って、ツンツン?
「………………」
ツンツン
ジトーーーぉっとした目で見られてますよ………。
何時の間にか、落ち着いた瞳で、此方を見ている。
それ自体は非常に望ましい状況なんだが、冷静に戻られると、それ自体が問題にならないとも言えないと言うか、う、うーむ………。
「………………」
ツンツン(こ・の・手・を・外・せ)
「………はい」(←観念した)
「ぷはぁっ………」
口を塞ぐとは言っても強さには気を付けていたのだが、多少は息苦しかったのか熱い息をつくアリサ。
観念し、全てを諦めた苦笑いを浮かべる鉄矢。
見つめあう二人。
「…………」
「…………」(←ベットに押し倒したままなのに気がついて上から退いてる)
カチコチカチコチ
カチコチカチコチ
嫌な、沈黙だった。
取り合えず、アリサ悲鳴→両親襲来→警察→両親居ない→孤児院or少年院行きと言うコンボは避けられたのだが
結局の所アリサの胸三寸で俺の今後の人生(前科一犯)が決まってしまう。
どうなる?!
如何なる俺の人生?!
ドクドクと心臓を高鳴らせながら、閻魔(アリサ)の審判を待つ。
「その、ごめんなさい」
「………はい?」
謝られた? え、何で? 俺何かされた?
「あたま、大丈夫?」
「いや、別に其処まで悪くは無いと思うけど?」
「違うわよッ。その、血一杯出てるじゃない。殴っちゃったからでしょ? だから、そのゴメン………死んじゃったのかと思ったし………」
「んん?」
そう言われて見れば左顔面が引き攣るような感じがするような気がしないでもない。
触れてみると、パラパラと生乾きの血液が………。
………コレが殴られて出た血??
幾ら魔力補正が無かったとしても、唯の九歳児のフルスイングで大出血するほど落ちぶれてないぞ? そもそも痣は出来ても、傷を負ったようには思えないんだけど………。
どこだ? 何処から、出血したんだ………ってこれは
「いや、コレは古傷が開いただけだよ。もう止まってる。ちょっと、大げさに血が出たけど、問題ないよ」
「そ、そうなの?!」
「ああチョイ待ち………」
袖でゴシゴシと左額にある傷を拭う。
思ったとおり、一度血を拭ってしまえば、それ以上血は流れ出て来ない。
「ほら、此処に傷跡があるだろ? 其処から出ただけだから」
「見せて………ッ」
頭を抱きかかえる様にして、傷跡を覗き込まれる。
自然、ワンピース型の寝間着の胸元に引き込まれる形になった。
「良かったッ。血は、ちゃんと止まってるみたい………」
「あ、ああ、だから言っただろ?」
マズイ、何か柔らかくて良い匂いがする。
薄布を挟んだ位置から心臓の鼓動が聞えてしまいそうに近い。
血と岩石の匂いに慣れきった脳髄を溶かす様な甘い少女の香りに少しクラクラした。
幸運な事に妙な事を口走る前にアリサは身体を離して、また鉄矢に申し訳なさそうな顔を見せる。
「でも、本当にごめん。その、変な人が部屋の中に入ってきたのかと思って、つい」
つい、金属バットフルスイングか………。
いや、まあ裁判でもやったら100%俺の方が悪いような気がしないでもないけど………。
「で、でも、怪我させたのは謝るけど、殴った事は謝らないわよ? 普通、こんな時間にあんな所から入ってきたら、変に思うでしょ?」
「はい、その通りでございます」
アリサの言は余りにも正しすぎるので完全降伏する以外に手段が無い。
むしろ、前科一犯に成らなかった事について感謝しなければいけないのかもしれない。
まあ、個人的には『何でこうなった』と言う想いが無い訳でもないのだが………。あれー、おっかしいなぁ。
「とりあえず、救急セット持ってくるからちょっと待ってて」
「は?」
「は? じゃなくて、一応消毒とかしておいた方が良いでしょ?」
至極一般的な物言いをして、ベットから降りようとするアリサ。
ヤッベェ、此処で誰かに見つかったら殴られ損じゃんと慌てた鉄矢。
「ちょ、待つんだアリサ」
「へ? んきゃぁッ、むぐ?!」
ペシッ
「………」(←急に手を掴まれてバランスを崩し、声を上げ掛けた所をまた口栓された)
「………」(←止めようと思ったらアリサがバランスを崩したので助け様としたのだが、また声を上げられそうだったので取り合えず押し倒してしまった)
再び時が止まる。
アリサは怒りの為か頬を紅潮している。
ツンツン(こ・の・手・を・外・せ)
「………はい」
「………あ、アンタ、もしかしてあたしのこと押し倒しに来たんじゃないでしょうね?!」
「………いえ、決してそう言う訳では………」
「もう、じゃあ一体何しにきたのよ?」
「え、いや、だって、約束?」
「え? 約束なんてしてた?」
「………」
微妙に悲しそうな顔をする鉄矢。
「あ、待った。ちょっと待って、んと、今思い出すから。え~~~っとーー」
軽く面倒くさい奴だなと思いつつ、鉄矢との口約束を思い出す。
そもそも、会った回数自体が少ないのだから思い返すことは容易い筈だ。
「え~っと………」
最後に会ったのは、スーパー銭湯に行った時だと思うけど………その時は特に約束は無かったような…………。
だから、約束って言うならその前にすずかと一緒に鉄矢の家に行った時で………。
うん。段々思い出してきた。
確かその場で、大きな、とても大きな巨馬に食べられそうになったんだっけ………。(←勘違い)
思い返すと本当に怖い馬だった。大きく、威圧的で、子犬でも見る様な眼差しをしていたように思う。
大きく、恐ろしげで、眩いほどに輝く白銀の毛並みが美しく、芸術品のような巨馬。
そして、漆黒の絹の様な毛並みのライオン並みの体躯を持った大きなワンコ。
家に居るどの子よりも、強い知性を感じさせ、同時に家に居る犬達とは違う激しい野性味を感じさせる子が居た。
一頻り、二頭と触れ合って
確かその帰り道、確かすずかが
『鉄矢さん、今度はイクスさんに乗せてくれるって言ってたよ?』
って、言ってたっけ。
…………えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!
「や、や、約束ってアレ?! あのイクスって言う名前のお馬さんに乗せてくれるって言う??!!」
「し、シー、シーッ。音量落とせ、気付かれるだろッ?!」
小声で叫ぶ鉄矢に合わせて目を輝かせたアリサも声を落とす。
「うん、うん。そ、それで、約束ってソレで合ってるわよね?!」
この期に及んで違うなんていうんじゃねーだろーな的なオーラを発するアリサ。ぉぉう。此処で違うと言えばただではすまない。その結末(フルスイング)を明確に予感させる。
だが、運の良い事に今日深夜コッソリとアリサを尋ねた理由は正にソレだった。
「勿論」
「やったッ!!」
花が綻ぶ様に微笑むアリサ。そんな顔をされると、嬉しくなってしまう。
「あ、でも、如何してこんな時間に? 普通に来れば良いんじゃないの?」
「来る分には何時でも良いんだけどな。イクスの奴を好きに走らせるには、今日みたいな厚い雲が覆ってる夜が良いんだよ」
「そ、そそれって、例の空を飛べるって奴のこと?」
「ああ」
「うわぁぁぁ!!」
そんなに目を輝かせて、よっぽどイクスに乗れるのが嬉しいんだな。うん。
コレは、ささっとイクスの乗り心地を教えてやらねばならんだろうて!!
「んで、今更だけど、アリサは今から大丈夫か? 夜遅いけど?」
「全然ッ! もう、バッチリ目は覚めてる! それに明日は学校は休みだし、なのは達との約束もないし、習い事も午後だし、ってそんな事より鉄矢の方こそ大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、頭殴ちゃって、血も出たでしょ? 今日は、止めにした方が………」
「こんなの全然だって、言ったろ? 古傷が開いただけだって」
実の所、古傷とは言っても、12/1に受けた傷だからおよそ2週間ほど前の傷なのだが、治癒魔法とエリクサーの影響で、すっかり古傷染みた外観になっている。
「………古傷………ね」
一瞬何か言い掛けたような気がする。
少し、待ってみたが、アリサに話の続きをするような気配は無いように思えた。
「んじゃ、行こうか?」
「うん。あ、でも書置きしていかなきゃ、もしあたしが黙って居なくなったなんて知れたら、心配するだろうし。………お仕置きも、半端無い事になるわ………」
「ああ、大丈夫大丈夫。コアとセンサー置いてくから、誰か来たら、すぐ戻れるよ」
「はぁ?」
何を言ってるんだコイツはと言う顔を向けるアリサに、鉄矢は得意げに笑う。
「大丈夫。俺は魔道士だからな」
「はぁああ? ま、まどうし?!」
「魔法使いでも何でも良いけどな………」
言って、(今、初めて気付いたが五本の指にそれぞれ、鎖の付いた指輪をしていた)人差し指から多少薄汚れた観の指輪を抜き取り、腕輪に繋がった鎖を取り外して無造作にベットに置く。
「さ、これでOK.上でイクスも待ってるし行くぞ?」
「う、上? そ、それに魔法使い??」
混乱気味のアリサの声がまた大きくなってきている。
鉄矢は無造作に人差し指でアリサの唇を塞いだ。
「論より証拠。さて、お嬢様、夜の乗馬体験ツアーにご招待いたしましょう」
そのまま、アリサの身体をお姫様抱っこで抱え上げ
『ふぅ、Solid Jump & Dimension Shift』
天井に向けて高く飛び上がった。
「ちょ?!」
息つく間もないまま抱きかかえ上げられ、跳び上がられ、そして迫る天井。
思わず悲鳴をあげ掛けた正にその瞬間
ボフンッ
「ふわぁ?!」
雲を、突き抜けた。
微かに、冷たい霧のような感触。
そこから先は、輝く星と月が視界一面を覆う。
それに、目を奪われた瞬間、今度は飛び抜けた雲に向かって落ち始めている。
落下の浮遊感がアリサを襲う。
しかし
「到着。って、おぉぉ? すげッ、雲の草原って感じだな?」
抱え上げられた、胸よりも高い位置から響く楽しげな声。
見渡せば、星と月明かりが照明の、鉄矢の言う通り、雲の草原。
「く、雲に立てるの?」
「ん? ああ、厳密には違うんだけどな。っと、その格好じゃ少し寒いか、カイロス」
『ふぅ、Yes.My Lord』
ふわりと、アリサの全身を薄く蒼い光が包む。
そうすると、確かに感じていた肌寒さが消える。
また、同時に薄暗く感じた雲の草原も、しっかりと目に映りこみ、その美しさが増したように感じた。
『視覚強化はサービスしておきました』
「ナイス」
『とは言え、魔力制限中ですので補助魔法程度なら問題ありませんが、攻撃魔法は使用できませんので、あしからず』
抱え上げられるその右腕が微かに燐光を放っていた。
「………う、腕輪が喋ってる」
『テンプレな反応ドーモ』
「腕輪にテンプレって言われた?!」
ドキッン、ドキンッ
激しい鼓動。
白い、白い幻想的な光景。
ヒヒィィン
そして、その幻想を崩さない。
否、より幻想的な世界へと誘う獣が奔って来る。
「さて、何処に行こうか………」
夜は続く。
否、夜はこれからだとでも言うような、誘うような声が聞える。
それが、アリサ・バニングスが生涯忘れえぬ夜の始まりだった。
実に遅くなってしまいましたが、漸く完成しました。(まあ、完成したとは言っても前編何ですが………)
遅筆で申し訳ありません。
今回から暫らくは、物語は進まず、短編の様な感じで行こうと思っています。
いや、もう、A’s編終わるの何時になるんだろうと言う感じですが………。
兎も角、未だにやる気だけは落ちていませんので、末長ーくで、見守って頂ければ幸いです。
でwww
――― 7 ―――
バリッ、バリバリバリーー。ピシャッ、ゴロゴロゴローン!
稲光が、走っていた。
「はぁ、はぁ。はぁー。はぁー」
唯ひたすらに荒い吐息。
ゼェゼェと喘ぐ様に引き出される呼気音が自分の口から発せられると気付くまで、若干の間が必要だった。
「ごく、ぅ」
唾を飲み込む音が生々しく辺りに響く。
外は、雨だ。
湿度が高い。
湿気が強い。
血が臭う。
「う、はぁ、はぁ」
腕が、重かった。
腕が、ひたすらに重かった。
一体何が重いのか、思い出す為に更に時間を必要とした。
普段と比して余りにも鈍い、脳の回転。
お粗末だ。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
「ヒャァ………!?」
覚醒の実感が濃くなっていくと共に鋭敏化していく感性が、稲妻の轟音に衝動的な恐怖を覚える。
思わず、右手を口に当てて声を遮った。
此の雨と轟音だ。
生半可な声では、執事の鮫島やメイド達には聞えないだろうが万が一と言うこともある。
「………ど、どうしよう」
カツン
HEREKEの絨毯に得物がテンテンテンと微かな音を立てる。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
「ひう………?!」
稲光が照らす。
左手に未だに引っかかる紅く濡れた鉄バットを。
そして
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
頭部から血を流し倒れ伏す黒いジャケットを着込んだ男を
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
天道鉄矢の遺体を………。
「どうしようぅぅ」
正直どうもこうも無い。
手に残る『デラゴッツイ』フルスイングの感触。
メキィッと言うか
ミシィッと言うか
兎にも角にも、分厚い布に包れた陶器に罅が入るような感触。
「………ああ、もう………何で、こうなるのよ………」
そして、その加害者『アリサ・バニングス』は手に残る生々しい感触に怯えながら、震えるように呟いた。
ピカァッ! ゴロロロロロッォォォ
魔法少女リリカルなのはA's ロストロギアメモリー
第二十八話 天道鉄矢の空恐ろしく長い一日(―アリサ編 前編―)
話はおよそ一時間前に遡る。
――― 1 ―――
深夜、何一つ音を立てないまま覚醒した。
眼を薄く開ける。
オレンジ色の間接灯が柔らかく室内を照らしていた。
眼を軽く見開き、通常通り自分の名前、自分が居る場所、状況等を頭の中で纏めて覚醒する。
呼吸を通常行動用に移行し、全身をチェック、おかしな所が一つ。しかし、それは仕方が無い事なので瞬き一つで諦め、同時に極警戒モードに移行していたカイロスを通常の警戒に切り替える。
カイロスを眠る時にも装着している癖で、右腕の手首から指先までを丹念に揉み解して漸く起き上がろうとすると、このまま起きると胸の上にのっかている緋焔が落ちる事に気が付いた。
「………ふぅ」
起こさないように、胸から一先ず床に降ろそうとぐるりんと横を向くと………。
「っっっ?!」
滅茶苦茶驚かされた。
驚か『された』だ。
「すぅー、すぅー」
顔面すぐ間近に八神はやての寝顔があったのだ。
ちか、ちっか?!
うわ、メッチャ息掛かってる?!
つーか、何で気付かない俺?!
「…………おぉぉぉぉぅ」
そわっ、そわっ、そわっ、そわっ
助けを求めるように前後左右から、何時の間にか掛けられていた毛布の中まで探ってみるが救いの手は無い。
「くっ」
見事に何にも無い。
仕方が無い。
「…………」
諦めてはやての寝顔でも鑑賞しよう。
………言うまでも無い事だが、アッサリとこう言う発想に行く鉄矢はちょっと変態が入ってる。
(…………うーむ……こいつ、意外と睫毛なげーな………まあ、俺の周りには睫毛なげー奴しか居ないから自分との比較だけど………)
ふむ、と折角だから更にしみじみと寝顔を眺めてみる事とした。
うーむ、寝ている人間ってのは顔の筋肉の力が緩んで不細工な面になるって言うけど、あんまり崩れてねーなこいつ。
………と言うより、悪夢でも見ているのか眉間に軽く皺が寄っている。
(じーーーー、うーーーむ)
現在はやては車椅子に乗ったまま鉄矢が枕にしているソファーの肘掛部分に両腕を枕にして眠っている。中々に寝苦しそうだった。
(しかし、こんなにじっくりはやての顔を見る事無かったな。まあ、最近はヴォルケンと一緒で気が回らなかったからな………)
蔑ろにした分たっぷりと眺めなくてはと言う妙な使命感に支配された鉄矢はそれはそれは、はしたない程にガン見する。
肩の辺りで切り揃えられたブラウンの髪は横になっているからか頬に掛かっており、鉄矢は何となくその髪を耳にかけてやった。
細やかな髪のかかる鼻筋はすっと通り、頬や細い眉のラインから感じる印象は快活だ。
とは言え
「まあ、あんまり華やかじゃないな」
もっとも、髪や瞳の色が黒やこげ茶色の多い日本人は、古来より余り華やかなものを良しとする文化が無い。
華やかと言われて思いだされるのは、やはりフェイトやアリサの様な金髪だろう。
まあ二人とも、受ける印象は正反対なのだが、性格的にも動と静だし。
例えるならば、二人は目を引く華やかな紅い華。しかし、薔薇とカーネーション位の違いがあるように思える。どちらがどちらとは言わない。第一、そんなに花の知識があるわけでもない。
ふむ
そういう意味では
「言うなれば、野山に咲く純白の花のような可憐さ。控えめに言っても、嫌いじゃない…………」
ピクリ
「ぬ?」
………一瞬動いたように思えるが、呼吸は安定している。流石に、目蓋を開く訳には行かないがその奥に感じる眼球運動も、まあ眠っているような感じだ。
今の聞かれたら首を吊りかねない台詞だったので、セーフである。
しかし、どんな花が似合うだろう。
どんなイメージが合うだろうか………。
華やかさよりも、快活な印象を受けるのは確かだ。一切の装飾を廃した寝顔からは、飾り気の無い素朴な魅力が際立っている。
そういう意味ではナデシコの様な花が合うかもしれない。
だが、鉄矢ははやてからそんな印象を受けた事は、殆ど無い。正確に言うならば、ヴォルケンリッターをぶっ殺すと宣言してから一度も………。
だからか、その寝顔にも微かに悲壮染みたものが漂っている。
「………………はぁ~~~うッッッッッ。………と、トイレ」
はぉあ
と不思議な声を出した後、胸の上の緋焔を一時肩に乗せる。
「………きゅぅ?」
「寝てろ」
浅い眠りだったのか、微かに声を出す緋焔に一言告げて、寝床にしていたソファーから降りるとそのままはやてをお姫様抱っこで抱き上げて入れ替わりに寝かせた。
そして「くぁぁ」と大きな微笑ましい欠伸をする緋焔に軽く微笑み
「お前も、暫らく………」
と声を掛けかけ、絶句した。
暫らく………何なのか。
緋焔に一体何を言うべきか、言葉が繋がらない。
俺は一体何をしているんだ。
緋焔の眠たげな眼差しが、鉄矢に激しい焦りを火花のように散らせる。
薄く開かれた無邪気な瞳が、何かを問い質すような光を帯びているように見えるのは気のせいか………。
疾く、疾く一刻も疾く、緋焔の望み通り奴等との決着を付けるべきではないのか?
そんな思いが鉄矢からは消えない。
それを、こんな風にズルズルと先延ばしにして………。
焦りは募る。
理由は、分かっている。分かっている………つもりだ。
だが結局、鉄矢は緋焔の瞳が再び閉ざされるまで何も言えなかった。
「………暫らく、はやてと、仲良くしてやってくれ」
漸くそれだけ言うと、寝苦しくならないようはやての横に寝かしつける。
「………」
こうしてみると分かる。おぼろげな明かりに照らされるはやての頬は青褪めていた。
理由は、余り考えない事にしよう。考えると、指一本動かせなくなってしまう気がする。
この事ばかりは、考えない以外に解決策が見つからない。実に、情けない事に………。
その素朴な可愛らしさと相反する苦悩が鉄矢に一つの花を連想させた。
「マーガレットって感じかな………」
マーガレット
一重咲きの純白な花弁に、色鮮やかな黄色のめしべとおしべのコントラストが美しい花だ。
確か、恋占いの花として愛されている花。多分、何処か数多くの漫画で『好き』『嫌い』『好き』とか言って花弁を毟られてしまう花である。
そして花言葉は………確か………「恋を占う」「貞節」「誠実」そして「心に秘めた愛」に「真実の友情」………。
「馬鹿みたいだ」
軽く赤面し、その言葉だけ残して
「と、トイレ!!!」
トイレに向かう鉄矢だった。
*****************************
――― 5 ―――
「ん、ん?」
深夜、呻き声を上げて覚醒した。
眼を薄く開ける。
ピカァ
「ン、んんっ」
強い金色の光が目頭に突き刺さった。
それを嫌って、微かに身じろぐ。
ゴロゴロゴロゴロ
(………えん、雷)
眠りが浅かった所為か、微かなに開くカーテンの所為か、稲光がアリサの眠りを僅かながら妨げた。
「あむ、ん、んん」
無論、眠気は強い。
脳も覚醒した訳ではない。
半分以上は眠っている精神が、目蓋を介して突き刺さる強い光を嫌って寝返りを打つ際に、自然と意識が覚醒しただけ。
眠りにつくのは早い。
いや、既に半ば以上眠っている。
後は、此の微かな意識を放り捨てるだけで、朝焼けの光が再び彼女を揺り起こすまで安らかな時が流れるだろう。
その全てを理解し、意識を手放さない理由が見当たらないアリサは、人間と言う種に根ざす三大欲求の一つに緩やかに身を任せ
ピカァ
その、稲光に微かな違和感を受けて指先に掛かる程度の意識が、残ってしまった。
(うー、んん。ねむい)
起こされたのが稲光なら、眠りを妨げるのも稲光。
雷の音と光にビクッとする事はあっても、殊更に、そう殊更には『怖い』と感じる事の無いアリサだったが、流石に此の状況で快眠しろと言うのは難しいかもしれない。
ゴロゴロゴロゴロ
遠い稲妻の残り火
重低音が耳に残り、消えかけている意識を拙く繋ぎ止める。
まるで、初めて縫う編み物のように滅茶苦茶に乱される意識が、眠気から微かな吐き気を催すほどだ。
(うー、ねむ、い、のに)
ピカァ
再び稲光が室内に一瞬だけ金色の光を刺す。
(ッ?!)
だが
そう、だが
今のは、何だろう?
心拍数が、上がった。
今、何か、なにか、変な物が見えた気がする。
ドクゥ、ドクッ、ドク
血が血管を駆け巡る。
心臓の音が強い。
ゴロゴロゴロゴロ
「い、ひゃ………ッ!!」
その混乱状況に轟く重低音。
先程とほぼ同程度の雷鳴だが此方の心持ちが違う。
思わず、悲鳴を上げ掛け、慌てて口を閉じる。
そうしてから、軽く叫んでしまえば良かったと思った。
バニングス家では夜中でも、執事やメイド達によって定期的に見回りが行われている。
それでなくても異変を感じれば、誰かが来てくれる可能性は大きい。
いや
でも
だけど………。
(い、いまの………は…?)
両手で口元を押さえて、跳ねる様な心臓の音に耳を傾けながら、待つ。
いま、ほんの一瞬、チラッと見えたものが、何なのかを、確認しなければ。
*****************************
――― 2 ―――
「………参ったな…」
八神邸一階トイレで呟く。
「………参ったな」
赤色に染まる便器を眺めてポツリと呟く。
言って置くが血便ではないし、血尿でもない。
「………かはっ」
短く、熱い感触
ビチャビチャビチャと喉奥から零れる鮮血。
紅い、ひたすらに赤い、血色の花。
トイレの便器に…………紅い花が咲く。トイレの便器に………。
「………ゲロじゃないよ?」
『誰に言ってるんですか誰に………』
薄ら寒い声音は、シラーッと言う擬音が聞えてしまうほどに冷めてらっしゃるカイロスである。
「けほ、別に、ガラガラガラガラ」
『トイレの水を使ってのうがい。人間の尊厳を捨てましたね?』
「こぺぇッ、捨ててねーよ?!」
無論、便器にベッタリと張り付いた喀血を流した後である。ほら、トイレって水流すと同時に上からも水出てくるじゃん? 手洗い用だろうけど。多分。
「心臓に悪いよお前」
『すみません。最近、あまり話してなったもので、ついつい』
「主を馬鹿にするデバイスが此処に居ますよ」
『まさかまさかまさか、敬愛する我が主を馬鹿にするなど、とてもとてもとても』
「おーい、その態度で馬鹿にしてないとホザキやがるたぁ、随分太い肝をお持ちで………」
『肝なんてありません』
「知ってますぅ」
ペッともう一滴垂れて来た血を唾の様に吐き捨てる。
そして、流す。
ごぼぉ
「あれ? 流れね?」
『水が溜まるまで待たないと駄目ですよ』
「え? 何処に?」
『トイレのタンクです。別に、その取っ手が水道管に直結してるわけではありません。トイレと言うものはタンクにある一定量までは常に溜まるようになっているので、その取っ手は貯水した水を流すためのものです』
「へー?」
がっぽんがっぽん
『トイレで遊ぶなよ。うんこ』
「うんこ?!」
な、何と言う言い草!!
流石の俺も一瞬で堪忍袋の緒が切れましたよ?
「この、うんこって言う奴がうんこなんだよ!! うんこうんこうんこ!!」
『ふむ、それにしても』
「か、完全無視?!」
放置プレイ? 放置プレイって奴なのか?!
あら、やだよ奥さん。うちの子(デバイス)が人に言えない性癖に目覚めちゃったよ?!
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「うぅ、なんだよー。少し位相手しろよー」
『はいはい、ツンデレ乙、ツンデレ乙』
「このツン子にデレ期は来るのか?」
『別に貴方の事を心配しているわけじゃないからね』
「その、気だるい【くーるぼいす】は好きだけど、もそっと乗り良く元気良く言ってくれませんか?」
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「無視ですか。そうですか」
『余り具合がよろしそうじゃありませんね』
「………」
幾度目かの申告。
告げられるたびに増す深刻さに遂に無言を強いられた。
『で、実際のところ自覚症状は?』
「………分からねぇ。一言で言うなら、虫食い状態?」
『………少々と言った所です』
眉を顰め、口元が微かに震える。
その微かな震えさえも許さぬとばかりに厳しく口元を引き締め、ほっと一息を付く。
くしゃくしゃと髪をかき混ぜ
「ま、仕方が無い」
短く呟く。
『………』
「仕方が、無い………」
それ以外に、無い。
仕方が無い故に、仕方が無い。
『確かに、ですね』
そう、仕方が無い。
『ですが、至りました………』
そう、仕方が無く。
そしてそれが故に至った。
逆に言えば
『しかし、早すぎました』
「………」
到りは………した。
此処に居たり、天道鉄矢は遂に至った。
『恐らくアレがSUNの戦闘法です』
「…………」
そして理解する。
全く同じ才覚ながら、一人は太陽の英雄として、一人はDランク魔道士として枝分かれしていた未来が漸く統合されていった。
そして理解する。
なるほど………と。
なるほど、アレが可能ならば、そして己が才覚を信じ抜く事が出来るならば、成れる。
至ったとは言っても魔力量が増強された訳でも、魔力出力が上がった訳でも、ましてや魔法技能が向上した訳でもない。
しかし
それでも尚、なるほど成れると鉄矢は納得する。
アレならば倒せる。
この世に蠢く数多の魔道士そして騎士共を、一匹残らず凌駕する事が可能だ。
だから成れる。
かつて在った『太陽の英雄』の同一存在に何時かは至れる。
だけど
『全身の筋肉系、神経系のみならず。内臓へのダメージが此処まで大きいとは………』
「………」
だが、未熟。
此処に来て未熟が露呈される。
「出来た。取り合えず使用可能な領域までは来れた。でも………」
『長期的な使用は、全身に深刻なダメージを与えていきます。恐らく、ですが魔力操作の不確かさが、肉体にも影響を与えているのではないかと………』
「………ま、魔力操作かー」
『この世で最も苦手な事ですね』
「う、ぅぅううぅ、こんな事なら訓練校でもう少し、魔道系の勉強すれば良かったぜ」
『成績を見させて頂きましたが、座学と武道系は最終的にトップですけど魔道系はぜーんぶドン穴で、追試受けまくりでしたね?』
「あううううう~~~。射撃魔法なんて、近づいて殴れば結果的に同じじゃなーい!!」
『まあ、訓練校のお陰で自力で二つ以上の魔法を行使出来るようになったお陰でまともな戦闘行為を行えるようになった訳ですが』
「………うー、ん」
最初の頃
カイロスと出会ったばかりで、魔法の魔の字も知らなかった頃は、カイロスの手助けがあってでさえ、二つ以上の魔法を行使できず『マジでよくアレで生き残れたよね?』的な勢いだったのだが………。
しかし、二つの魔法を同時に行使すると言うのはマルチタスクを駆使する、と言うより魔道士ならば肉体強化と他の魔法の併用は基礎中の基礎なので出来る様になるまで随分とやられたのだが。
『まあ、技能的にはあくまでも最低限ですし………』
「う、--ん」
訓練校とそれプラス在学中三ヶ月の間俺を引き取ってくれた人がミッチリ、ネッチリと基礎を叩き込んでくれたお陰で、何とか、本当に何とか訓練校卒業レベルの魔道は身に付ける事が出来た。
その後の3ヶ月間の激闘の日々と海鳴に帰還してからのヴォルケンとの死闘の所為で、更に多少の技能向上は認められる。
しかし、このSUNと同じ戦闘法を実践するには足りないらしい。
拙い魔力操作技術が我が身を焼いている。
それは分かる。理解できる。でも………。
「今から、魔法の練習して間に合うのか?」
『………う、うーん』
と言うか完全に肉体に影響を及ぼさないように使用可能になるまで一体何『年』掛かるんだ?
アレは唯の魔道技術ではない。
魔法自体は極単純な構築、難しさなど何も無い。そもそも、魔法で難しい事は出来ない。(そんな魔法の技術があるならハイパーノヴァストライクは今頃ビームになって飛ばしてる。無いから肉体に取り込んでるのである)
しかし、それでもSUNの戦闘技術は全能総力を傾注した極技ではあった。
此処で魔法を車に例えてみよう。
魔力量、出力で比較するならば鉄矢は軽トラック、高町なのははレーシングカー。
ドライバーとしての技量は仮免とトップレーサー程の隔たりがある。
一般的な魔法戦をレーシング上での走破性を競うものとするならば、最早勝負どころか話どころか、説明にすらなっていない。
最初の一吹かしで絶望的な差がつけられもうその後は積み重なる周回差のみが現実と言った具合だろう。
そんな中でSUNと同じ魔技を使用すると言う事は、粗末なエンジンに無理矢理ニトロを注ぎ込むような暴挙。
確かに、瞬間的に莫大な出力は得られるかもしれないが、爆裂寸前のエンジンで得るスピード、タイヤを一瞬でパンクさせ車体に致命的な損傷を与えながらの死走………仮免程度のドライバーに制御出来る物ではない。
カーブを曲がりきれず、ぶつかり、捻り、脱線し、爆発する。
アレはそういう類のものだった。
「………」
『ご、五年? いや、十年もあればもしかしたら………』
み、耳が痛い。
無理矢理捻り出した様な声音は、端的に今の言の二倍から三倍程度の時間が必要だと語っている。
「う、うーん」
六ヶ月かかって仮免な鉄矢は頭を抱えた。
割と死闘の数々を繰り広げてきた鉄矢は頭を抱えた。
言わずもがな、魔法にかけては此の後成長の兆しなど一筋の光明すら見られない。
パンツの糸屑ほども………無い。
『まあ、トイレで悩んでても仕方が無いでしょう』
「………あ、あぁ、トイレで悩んでても仕方が無いな」
冷静に突っ込まれてちょっと凹んだ。
ペッと喉奥に残る血塊を吐き出してレバーを捻る。
ジャーーっと流れる水流。
「………血の匂いが残ったな」
『まあ、芳香剤があるから大丈夫でしょう』
ゲロゲロッと吐き出した所為か血の匂いが篭ったトイレから出ようと扉に触れた瞬間
スッと、鉄矢の目が細まる。
和やかだった気配は静謐となり、弓の弦の如く引き絞られていく。
「………」
『………』
キィィ
微かな扉の軋み。
零れる光が、夜闇に熔けていた輪郭を浮き上がらせる。
鮮やかな、桜色の燐光。
一瞬、目を奪われる。
それは、此方を静かに見詰めていた。
敵意は、無い。
戦闘の意思は何も感じられない。
腕を組み、背を壁に預け、解けた長い髪がその艶やかな肢体を彩るようだ。
告白すえば、息が詰まるほどに美しいモノに呼吸が止まった。心臓が強く跳ねた。美しく、艶やかなその存在に目が奪われかねない。
ソレは、柔らかそうな薄手の寝間着に身を包んだまま常と変わらぬ静かな口調で一言発する。
「辛そうだな………」
「ッギ!!」
その一言で惚けてた脳が覚醒する。
弱みを見られたと言う事実が、渾身の憎しみを誘発させる。
「………いや、そう睨むな。此方に敵意は無い」
敵意を無い事を示すように広げられる掌。
武器は無い。
装着するにしてもコンマ一秒は掛かる。
此の間合い。一足一刀(ショートレンジ)。
斃せないにしても、展開速度ならば既に身に付けているこちらが速い。
此の状況ならばほぼ確実に一撃を見舞える距離。
その間合いで、ソレは淡く微笑む。闘う気は無いと、証明するように、少し戸惑ったように。
初めて向けられる、そうこれは、好意の視線。
ビギィッ
何かが、歪む。頭の何処かが、痛む。
「………まあ、警戒するなと言うのも無理な話か………」
「………」
歯を噛締めた。
敵意が、無い。
戦意が、無い。
その厳しく細められていた眼差しが、ふっと和らいでいる。
ギリィッ
気を、喪いかねないほどの鈍痛
歯を喰いしばって、それに耐える以外何も考えられない。
「今回の、お前の蒐集で私達は確信を持っている」
「………何をだ」
言って、後悔した。
言葉なんて交わすべきじゃないと、理解している筈なのにやってしまった。
「今の私達には、お前以外に主はやてを任せられる人間は居ないと言う事が、だ」
―――お前達には関係ないッッ!!
言葉を発しかけ、止めた。
話さないほうが良いと、先程気付いたばかりなのに愚行を繰り返す事は良くないと思ったからだ。
「………230ページ程、集めたそうだな」
「………」
無言で静かに睨み付けて来る鉄矢に微苦笑を浮かべるシグナム。
だが、それも詮無い事かと受け入れ、そして心中で詫びる。
「蒐集活動の困難さは分かっているつもりだ。相手を殺さずに、それだけの数を短時間で集めきるにはどれだけの負担が必要なのか、想像もつかない」
「………」
「先程も言ったように、お前になら任せられる。しかし、我々が心配している事は一つだ」
「………………」
「お前、最後まで持つのか?」
「………黙れ」
頭痛が消える。
視界が晴れる。
達観とでも言うべき透明な瞳をシグナムに向け鉄矢は言う。
「お前等は、はやての心配だけしてりゃあ良いんだ」
「………」
目線を切る。
最早何も言うべき言葉は無い。
今の俺ならば、背後から一閃を受けたとしても確実に反応できる。
その判断から、脇をスッと通り抜けた。
言葉は無い。
先程の言葉が全てだ。
扉に手を掛ける。
「………そうする」
短く、微かな笑みすら含んだ声。
遮るように、扉を開け放ち
バタン
閉めた。
*****************************
――― 3 ―――
ひんやりとした夜気が身を包む。
だが、恐らく氷点下には達していまい。
元々海鳴は海に近く温暖なため、冬の寒さも耐え切れないほどではない。
それに着ている服も、見た目は軽装だが、各部に備えつけられたジェネレーターである程度の防護機能を備え付けられていると言う特級品だ。何でも二百年以上前の品物らしい。
………一体どんな技術力だ魔道世界。
いや、問題は其処ではない。
「ふぅ、んで………あの仮面野郎については何か分かったか?」
『ん、データ回収は完了しています。あの家に仕掛けた盗聴器、意外と見つからないものでしたね』
「機械式ってのが盲点なんだろ?」
お前がそう言ったんじゃんと悪役真っ青な笑みを浮かべる鉄矢にカイロスは微かに嘆息した。
『本来なら、あの場で全滅させるつもりでしたから、念には念を入れてと進言したんですけどね』
「まあ、俺は兎も角、クロノをフルボッコにするような奴がヴォルケンに追加されると大変だし………」
鉄矢の脳裏に浮かぶ者は、仮面を被った蒼い髪の男だ。声が勇者●っぽくてカッコイイ奴だった。
「修行前に、此処を襲撃したときも結局居なかったしな………」
もう一週間ほど前になるだろうか………。
それは管理局がヴォルケンリッターを罠に嵌め、強壮結界内に閉じ込めた時の事だ。
突如としてその闘いに乱入し、俺とクロノをボコッて更にフェイトのリンカーコアすらも奪ったと予測される奴だった。
戦闘の最中、クロノとの連携によりなんとかハイパーキックβを一発喰らわせる事が出来たが、βは所詮反動軽減を考慮し、威力を三発分に分割したモノ。
ハイパーキックαの様な原子崩壊機能は無い。一撃必殺とまでは行かないのだ。
そして、鉄矢にも止めを刺せたと言う感触は無かった。
それにてっきり、奴を含めた五騎でヴォルケンリッターなのかと思っていたのだが………。
残念ながら奴は、八神邸に奇襲を仕掛けた時にも戻ってこなかった。
実際、確実に肋骨を砕き、内臓にまで響くダメージを負わせていたから、あの場に奴が来る分には何の問題も無かったと思う。
八神邸に蒐集成果を持ってきた後も何時来るのか何時来るのかと、思っていたが、未だにその兆しは無い。
「あの時はこうなるとは思わなかったけど、盗聴器ぐらい仕掛けてみようって言うお前のアイディアは何か役に立ったみたいだな」
『八神はやてに奴等の悪行を暴露した後、奴等が戻ってくるまで暫らく時間がありましたし。あの場を逃げ切られたとして、八神邸に戻ってくる確率は低いと思われますが、暇でしたしね』
「まあ、家には盗聴器とか銃とかバイクとかロケット弾とか色々あるしな」
『言っておきますがロケット弾弄っちゃ駄目ですよ? マジ爆発しますからね、アレ誘導装置付いてないんですからね? 推進機器オンリーですよ。投射兵器ですからね』
「撃ち方なんて知らないよ………」
銃とかナイフとかバイクの運転とかなら物心付いたときから習ってるけど。
まあ、そう言った家の倉庫に放置されている盗聴器をカイロスにチョコチョコと弄ってデータを転送出来る様にした物を設置しておいたのだ。(ちなみに、コンセントの裏側に設置して電気供給受けちゃうタイプだけど犯罪なので決して真似してはいけません)
「気付かれてないんだもんなぁ」
『貴方は単独で動いていると思われていますし。モノが第97管理外世界製です。アレは古い騎士のデータですから、魔力技術が含まれない機械類には疎いと思いますよ? まあ、元々暇だったから付けた物ですし、気付かれて油断させるためにあえて残している可能性も大でしたが』
「気付かれた可能性は?」
『恐らく、無い』
「おそらく………ね」
『内容は話半分で聞いてくださいって事です』
「あっそ、んで? あの仮面野郎の居場所とか言ってたか?」
『編集したものは後でお渡ししますが、どうも会話の内容から推定すると仮面の男はヴォルケンリッターでは無いような会話をしています』
「ふむ、となると何か? 闇の書を横取りにしてやるぜ的な悪の組織の人?」
『いえ、実はそれもオカシイと言う様な話をしています。なんでも、闇の書完成と共にマスターに掛けられた洗脳等は解けるため、無意味だそうですよ?』
「………うーん? それって、魔法だけじゃなくて薬物とかも?」
『さあ、其処までは』
「例えば、今の内に精神的に痛めつけて支配下に置くとかは? 脳の一部を切除して外部からの命令に従う状態にされたような場合でも?」
『それもなんとも………ただ、どんな治癒魔法でも損傷した脳を元に戻す事は出来ません。脳の再生等は死者蘇生にも等しい真の意味での魔法です』
「ヴォルケンは残しておいて正解だったか………」
『そう思わせる戦略かもしれませんがね………』
………悩ましい。
ヴォルケンだけでも手に余ると言うのに………。
心底、世界は八神はやてに優しくない。
まあ、誰々に優しい世界なんてものが何処かにあるかどうかも怪しい所だが。
「はぁ………」
仮面野郎についてはヴォルケンと同一視してきたため、余り考えてこなかったが、どーも重要なファクターっぽい。
はやては一人にしない方が良い気がする。それに………
「………けほっ」
咳が、一つ出た。
思わず口元を手で抑えている。
口元から手をずらす。
「………赤い」
赤かった。
掌に赤黒いシミが滲みこむ様な血痕。
『………魔力を制限します』
「ん?」
『オカシイ。其処までのダメージを負っている筈が無いんです。あの余り思い出したくも無い方法で無理矢理! 飲まされたエリクサーは確実に効力を示した筈です。それは確認しています。その後の模擬戦にしても、内臓を深く傷つけるようなダメージはありませんでした。だから、幾らあの魔法行使が肉体に負荷を掛けたとしても、こんなに後々まで残るダメージを受ける筈が無いんです。』
オカシイ………か。
確かに、身体の異変は感じ続けている。
だが、それは未だに未熟だからそうなってしまうだけだ。
その、筈だ。
あと、『無理矢理』って所に力を入れ過ぎである。
「んで、魔力を制限するって?」
『回復力を高めるため、戦闘用の魔力のリソースを減らします。具体的には使用可能な魔力出力を半分以下にして、全身に循環させる魔力を増加させ、特に内蔵機能の自然回復力を一気に高める事にします。以前、左腕を負傷したときのような感じです。』
「………ふむ」
微妙に長い説明だったが、概要は分かった。
あと、トラウマを刺激しないで欲しい。
アレ、マジで痛かったんだからね!!
と、それはさておき
「それって、何時まで掛かるんだ? 蒐集もあと、えっと60ページ分ぐらいやんなきゃだしな」
『さあ、どうでしょうか。正直貴方の状況は概ね把握していますが、別に内臓を透視出来る訳でもありませんし、何より回復の利きが遅い理由が不明なので』
「何時完治するか分からない?」
『簡単に言えばそうです。如何でしょう。折角ですし、思い切って一日程休暇をとっては?』
「え? 休暇?」
『はい、今日一日八神はやてや闇の書の事等忘れて、リフレッシュに当てては?』
「な、に………?!」
り、りふれっしゅ………だと?!
『戯画調の顔になる位ビックリしないでくださいよ』
「いや、でも、だって」
休暇………だと?
『戯画調の顔になる位ビックリしないでくださいよ』
「いや、でも、だって………なん、だと?」
『苦労してますねMy Lord。グスッ』
「え? 俺、お前に同情される位不幸?」
『不幸か幸福で言えば、貴方はご両親が亡くなってからずーーーーーーーッと不幸ですよ?』
「う、うーん」
其処までハッキリ言われると悩んでしまう。
嬉しい事も、楽しい事もあった様に思うのだが………。
しかし、あの頃を基準とするならば、やはり不幸なのかもしれない。
「はぁ………」
呼気が白く煙る。
まあ、兎も角、確かに………。
「………疲れてるな」
他人事のように呟く。
全身に根深く残る疲労感。
特殊な魔力行使を別にして、四~五日間に及ぶ戦闘は精神的にきつかったのかも知れない。
「だけどさ、まあ、未だ無理は利くな」
しかし、大丈夫だ。
問題は無い。
そんな柔な鍛え方はしていない。
俺は天の果てに居る男が産まれた瞬間から、天の道を行く事も地の道を行く事も、どちらを選ぶ事が出来るように鍛え上げられ磨きぬかれてきた。
十年に満たない時間ではあったが、心も身体も並みである筈が無い。
その事を証明できる自分で無ければならない。
「大丈夫、行ける」
『止めなさい』
「大丈夫だって、元々魔力なんざに頼った戦いはもうしない。魔法なんてものは所詮、俺を補助するだけのものだ」
『止めろ』
グイッと持ち上がる手
「はい………」
プルプルと震える。
困ったものだぜ。
俺がどんなに強くなっても、強くなった分強化されたパンチが顔面を襲うんだぜ?
逆らえねーよッ!!!
「うーん、しかし休みねー」
『好きな事すれば良いんじゃないですか? 良く考えてみれば、此の世界で自由にすると言うのはかなり珍しいのでは?』
そう、言われてみると、完全に自分の意思で好きに遊ぶと言うのは、ものすッごく久しぶり………と言うか、もしかしたらお袋と親父が死んで以来初めてなのかもしれない………。
「うーん、でも蒐集もしなきゃだし………取り合えず、一時間は休もうか」
『はぁ、馬鹿………』
「た、溜息付いて馬鹿って」
『休める時に休める能力は戦士に必要な能力ですよ?』
「もう二時間は寝た」
『それにしても、ヴォルケンリッターに警戒を残したままだったでしょうに。精神を、休めてください』
「大丈夫。俺は、不死身だ!!」
『寝言は寝て言えバーロー』
「なんと………」
リアルで寝言は寝て言えって言われてしまった………。
つーか、バーローって………。
ふふ、染められてきたね。俺に!!
『戯言は置いておいて、休め』
ガチャ
「わ、わ、わわ、分かった………」
ぶつぞーっと振り被られる右拳から首を背けながら言いなりになる。
「ぶぶぶぶ、ぶつなよ?」
『其処までビビられてしまうと、微妙に納得が行かないのは何故でしょう?』
「知るかよ?!」
な、何て勝手な奴?!
まるで、ル●ィのじいちゃんの様な奴だな!! それでも孫に愛されたいってかぁ?!
『兎も角、休暇です。元々海鳴に戻って来たのは、休憩が目的だったんですから』
「むぅ。それは、確かに………」
………まあ、途中からそれは方便で、11番艦エリシオン所属から3番艦アースラへの事件協力員として派遣されているような形にはなって居るのだが………。
「ぬぅ、リンディさんにはもう少し情報わたさねーとなぁ………」
ゾブッ!
「ぐぇぇぇッ?!」
自らの貫手が脇腹に突き刺さった。
お、おま、リバーを、俺のレバーを!! ごふッ!
『仕事の事を考えるのは後回しにしましょう、ね?』
「わ、分かった。分かったから、殴るな、突くな………うぇッ………ッ」
ま、まさか鉄拳以外にもこんな攻撃を覚えていたとは!?
貫手は、成長すまで指を骨折するから親父も使っちゃ駄目だって言ってたのにっぃぃ!! 実際、練習で数回指の骨はパキッと逝った事多数なのにぃー!!
『ふむ。分かれば良いのです。分かれば』
ちくしょう!
畜生!!
アレだけ修行したのに!
俺は100体以上のドラゴンの王様なのに!!
うぅぅー。まだまだ天の道を行く男は名乗れねーなぁ………。
「はぁ………」
『溜息をつくと幸せが逃げると良く言いますよ?』
「お前の所為で、俺は今限りなくブルーだよ」
『え? 私が何か?』
長く苦しい(と言っても四日とか五日だが)修行の成果がカイロス相手には全くでない事が判明してブルーなのだが、もう無意味なので何も言わない。
「はぁーー」
『む、むむ? そ、そんなに痛かったですか? 傷に響きましたか?』
「そういうこっちゃねーんだよ。はぁーー」
『むむぅ………』
カイロスが何やら悩んでいるが、どうせ説明したところで殴るのを止める程度だ。
………何故だろう、殴られなくなると思うと微妙にやるせないと言うか悲しいと言うか………。
寧ろ不満が残ると言うか、アレ………待てよ、それって
「俺はMじゃないよーーーー!!」
『正気に、もどれぇぇぇぇぇ!!』
がずすッッ!!
「ありがとうございましたーーーーー!!」
ズザザァァッ、とコンクリート地面を滑る夜中に叫び声を上げる公害。
『ふぅ、こう言っては何ですが、本格的に休息をとらないと本当に駄目かもしれませんよ』
うぐ、そ、そうかもしれない。
ドラゴン共との激しいバトルやランとの殴り合い、此のままでは別の領域内にあるイケナイ趣味に目覚めてしまう可能性があるぜ!!
「な、なんとしても、なんんっとしてもそれだけは防がねば!!」
『………あの、本格的に大丈夫ですか? 殴られすぎて、脳みそぶっ壊れてしまいましたか?!』
本格的に哀れみを含んだ言葉に軽く凹む。
畜生ぉぉ。
「分かったよ。休む、休めばいいんだろ?!」
『はい。ようやく分かってくれましたか?』
「ったく。そんじゃ、録り溜めたANIMEを、思う存分! 気が済むまで、うぐふふふ」
思えば半年! 半年だ!
コレまでの、俺の人生でこれほどまでにアニメーションを観なかった日々が有っただろうか?! イヤ無い!(反語)
「うー、ふっふふーん」
『ご機嫌ですねー』
「まーなー、と言う訳で一路家路へ!!」
と、ふと何となく顔を上げる。
夜闇に紛れる様に浮かぶ灰色の雲が視界の多くを閉めていた。
ピリリ、とした感触。
『どうしました?』
痛んだ。
体中彼処
特に首筋とデコの辺り。
つまり、古傷が、痛んだ。
「………雨が降るな」
確定的に言った。
それは確信だった。
『ふむ………そう言えば今日の降水確率は50%でしたね』
「いや、十分後ぐらいだな」
天気予報でも確認したのか、そう告げるカイロスの言に重ねるように
雲の動きと、風と言うか気圧、なのか………。
そう言う物が、雨が降る前兆と言うか雨の気配が解る気がする。
古傷がジクジクと痛んで、それが何よりも
『そうですか、では早く家に帰りましょう』
くいくいと微かに指を動かして家路へと誘導するカイロス。
雲………か。
暫らくすれば曇天が空を覆う。此の分だと雷も随分と鳴り響く事だろう。
「………ふむ、予定変更するか」
『え? アニメ見たり漫画読んだりしないんですか?』
「惜しいけどな。良く考えりゃ、やらなきゃいけないことがあったんだった」
『やらなきゃいけないこと? 何かありました?』
「ああ、約束を護りに行こうか」
『え? では?』
「まずは、着替えに家帰る」
こんな古代ベルカの民族衣装なんぞを着ていては、あいつ等の前に立てないだろう。
*****************************
――― 6 ―――
「は、ぁ、はぁ、はぁッ」
稲光が走った。
アリサの視線の先で窓枠に区切られた雷光が室内を照らす。
しかし、イヤ何故、その区切られる稲光に、不可思議な凹凸が見えるのか?!
何だ。あの影は?
一体、何がどうなればあんな影が出来るのか?!
(ち、違う、嘘、分かってる)
ピッカァァァ、ゴロゴロッ!
(う、ぁぁ)
雷光が映し出す影に混ざる異物。
その凹凸は、影は、ヒトのカタチをしていて………。
(だ、誰? 誰?)
いや、違う。見間違いだ。きっと外の木とかそう言う何かがヒトのようなカタチに見えるだけに過ぎない。
そう。
そうに決まっている。
だって、こんな時間に、こんな場所に来るヒトなんて居るはずが無い。
だから違う。
ありえない。
そう、だから、きっと、こんな風に取り乱す必要なんて無いし、アレは人なんかじゃ
コンコン
「ッッッッッ!!!!!」
待って、待って、何今の………。
いや、違う、今のもきっと風か何かの………。
コンコン
「ぅッ~~~~~~!!」
その時、アリサの脳裏に浮かび上がったものは、以前偶々観る機会のあったかなり古いドラマである金田●少年の事件簿のワンシーンだった。
それは『オペラ座館殺人事件』と言うストーリー中で歌月(かげつ)と言う犯人役の怪人が嵐の夜ヒロインの居室に訪れると言う話だ。
その話中でも、そんな風に
コンコンッ
(ッッッッッ?!)
と窓を叩くのだ。
そして笑うニッコリと
そして言う。
(はじめまして、歌月と申します………くふふふふ、ふはははははって)
ガクッ、ガクガクガクガク
知らず、身体が震える。ダメだ。もうダメだ。
助けて、だれか、ああ、だれか。
「あ、だ、だれ………」
か
キィィッ
(は、え、アレ? なに、今の音?)
助けを求める声を喪った。
混乱する。予想もしなかった音に。
コンコンと言う、何かを叩く音ならば分かる。
でも、今の音は?
ガチャッ………
(が、がちゃ? ガチャって何?!)
歯の根が合わない。
チッチッチッチと断続的に響く音は自らの歯が鳴らす音だ。
カッカッカッカ
圧倒的な恐怖
誰かが言った。
ヒトは未知なるものに恐怖を抱くと。
その通り
今正に、その言葉の正しさを実感している。
何が起きるか分からない。
だからこそ、今アリサの中には無数の恐怖がある。
起こりうる可能性の全てがアリサを怯えさせる。
「だ、ダレ・・・!」
もう耐え切れない。
そうして、ベットから立ち上がろうとした瞬間
「ふぅ………」
「ッッッッッッ?!」
異音
そしてザーッと言う雨音
今、部屋の中に、誰かが居る。
それが、確信としてあった。
「ぁ、ぁ………」
助けを、呼べない。
今声を出したら、誰かが来るよりも早く此の部屋に入ってきた誰かに、酷い事をされるかもしれない………ッ!!
第一どうやって入ってきたの?
何が目的なの?
カツ、カツ、カツ
ドクドクドクドクドク
心臓が跳ねて跳ねて跳ねて跳ねて跳ねる。
近づいてくる。
一歩一歩、嬲る様に………。
(………ぁぁ、ど、どうしよう)
混乱して、頭が巧く働かない。
声は出せない。
如何する?
如何する?
声を出せば、酷い事される。
でも、このままでも、酷い事される。
如何する?
如何すればいいの?
「………」
微かな呼気
近づいてくる。
後、数歩で此のベットの脇まで来る。
このままじゃダメだ。此のままじゃダメだ。
でも、誰が、どうやって?
誰も助けてくれない。
ダレにも助けは求められない。
なら、なら、なら。
何をする?
何をすれば?
何を
「………アリサ?」
「ハッ・・・!?」
ブチィッ
瞬間、アリサの中で何かが切れた。
バサァ!
身体に被せてあった掛け布団を跳ね上げる。
「………おう?!」
くぐもった声が布団から響いたが最早アリサの脳はそう言った事象を受け入れない。
脳内麻薬の過剰分泌
攻撃一色に染まったアリサの手が何故かベット脇においてあった金属バットを掴む。
「ッ!?」
声は発さなかった。
ガインッ
ゴロゴロゴロォォ!!
「ホゲ?!」
布団越しに鈍い感触。
「ッッッッ?!」
声が響いてくる。
もぞもぞと布団が動く。
自分の視界を塞ぐ物を排除しようと蠢いている。
「わああああああ!!」
ゴロゴロゴロゴロ
恐怖に駆られた叫びと雷鳴が完全に一致する。
ガインッ
「むごぉ?!」
フルスイング
外観から見れば、不安定なベット上でこの上なく華麗な一撃を決めたアリサは、そのままストッとベットから飛び降り今度こそ、身体を一本の螺子の様に回転させた渾身の一撃を叩き込む。
だが倒れない。
金属バットでフルスイングしたと言うのに、振り切れなかった。
まるで、硬い岩にバットをぶつけた様な手応え。
人間じゃない。
少なくとも、回転率が著しく低下したアリサの脳は尚もモゾモゾと蠢く布団を被った何かを人間と認識しなかった。
「ふぅンッッ!!」
ガィン!!
「ホゲぇ!」
「んあ!!」
ガィン!!
「ぽゲぇ!」
ピカァッゴロゴロゴロゴロ!! ドアーン!!
折り悪く。
近くに雷が落下したらしく、盛大な轟音と輝きが辺りを包む。
その最中
アリサ・バニングスによる私刑は、布団の動きが止まるまで続けられた。
ガインッ!
ゲインッ!!
ゴインッ!!!!
etc.etc.………………
そして冒頭に繋がる。
*****************************
――― 8 ―――
「あぅぅぅぅッ、ちょっと、ねぇ、大丈夫?」
金属バットのフルスイングで滅多打ちにした相手に掛ける言葉ではないだろうが、それ以外に思い付く言葉が無い。
なお、何撃目かのフルスイングで掛け布団は既に剥がされているのでアリサも自分が誰を殴りまくったかは分かっている。
最も、客観的に観れば深夜寝込んでいる9歳児(ょぅι゛ょ)の寝室に無断侵入した天道鉄矢に同情の余地ゼロなのだが………。
とは言え流石に顔面流血及び白目剥き状態、これ以上何を如何しろと言う状態である。ぶっちゃけ見た目はマンマ死体である。
「ねぇ、ねぇってば………」
ゆさゆさゆさ
だが、その身体はピクリとも動かない。
「そ、そうだ?! びょ、病院?!」
病院病院、誰かを呼ばなきゃ!
「あ、でも人って確か心肺停止してから2分以内に心肺蘇生が開始された場合の救命率は90%程度だけど、4分では50%、5分では25%程度だから、えっと人工呼吸と心臓マッサージッ?!」
出来るか?
えっと人工呼吸はまず気道を確保してから鼻を押さえて局部が膨らむように息を約一秒吹き込んで、心臓マッサージは胸の真ん中に手の付け根を置き両手を重ねて、肘を真っ直ぐ伸ばし、100回/分以上の速さで継続出来る範囲で強く圧迫を繰り返すだから、多分出来る………と思う。
なお、この期に及んで誰も呼ばないのは完全な混乱情況にあるが故にである。
「そ、そうだその前に、鼓動と呼吸を確認しなきゃ………止まってたら如何しよぅ………」
いや、如何しようではなく、止まってたら救命措置をしなくてはいけない………。
変わらず白目を剥いたままの鉄矢のコートを肌蹴、耳を寄せる。
「………ダメッ。分からない」
鳴っている様な気もするし、鳴っていない様な気もする。雨音と雷が煩すぎる。
「えっと、じゃあ、呼吸呼吸!!」
と顔をマフラーの巻かれた首の方に向かわせるとパチリと言うか、ギロリと言った眼差しがアリサを貫いた。
ドグンッ?!
心臓が傷むほどの驚き。
「キんぐぐぐうぐぐぐうぐうううぅぅぅ!!」
叫び声を上げる寸前、節くれた荒々しい手が口を塞ぐ。
眼前に、掌のみを間に挟んで限りなく近い位置に左の額から流血する鉄矢の顔。
ピクンッと身体が跳ねる。
「ん、んぐんぐんぐんぐ?!」
「落ち着け、俺だ俺………」
ふと、俺だから一体なんだと言うんだと言った疑問が、脳裏に浮かんだが全力で無視した。
ふと、現在深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒しているという状況を客観的に鑑みて泣きたくなったが全力で無視した。
「んん~~ッ、んー、んー!」
「………あ~~、えっと」
「んーっ、んー、んーんー!!」
困った。激しく困った。
当然の事ながら、アリサに危害を加えに来たわけではない。
ただ、約束を護りに着ただけなのだが、何でこんなことになったのか。
約束事が余り大っぴらに出来る事でもないので今の内に行ってしまおう(一般的な小学生の睡眠時間を良く分かってない)と思い、始めはコンコンと窓を叩いて、向こうから来てもらおうと思ったのだが、熟睡しているのかアリサは起きて来なかった。
仕方が無いから、ピンポイントシフトで手だけを室内に転移させて鍵を開けて侵入したのだが、アリサはどうも起きている様だったが此方を向いていないので軽く声を掛けた瞬間
金属バットのフルスイング乱舞を受けて気を喪ったのだった。
………それにしても、まさか同年代女子の金属バットフルスイングで気を喪うとは………。いつもなら、車に撥ね飛ばされても、まあ平気位な感じなのに。魔力を抑制した所為か………。
いや違う、今は此の状況を如何にかしなければ?!
此のままでは深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒す変質者の汚名を………。ってまんまじゃねーかよーーーーーーー!!
ち、ちくしょう。ツンツン。
だ、ダメだ。
この、深夜、寝室に押し入って女の子の口を押さえてベットに押し倒す変質者と言う状況に何を追加すれば変質者で無くなるのかまったく読めねーっす!!
うおおおーーーん。ツンツン
って、ツンツン?
「………………」
ツンツン
ジトーーーぉっとした目で見られてますよ………。
何時の間にか、落ち着いた瞳で、此方を見ている。
それ自体は非常に望ましい状況なんだが、冷静に戻られると、それ自体が問題にならないとも言えないと言うか、う、うーむ………。
「………………」
ツンツン(こ・の・手・を・外・せ)
「………はい」(←観念した)
「ぷはぁっ………」
口を塞ぐとは言っても強さには気を付けていたのだが、多少は息苦しかったのか熱い息をつくアリサ。
観念し、全てを諦めた苦笑いを浮かべる鉄矢。
見つめあう二人。
「…………」
「…………」(←ベットに押し倒したままなのに気がついて上から退いてる)
カチコチカチコチ
カチコチカチコチ
嫌な、沈黙だった。
取り合えず、アリサ悲鳴→両親襲来→警察→両親居ない→孤児院or少年院行きと言うコンボは避けられたのだが
結局の所アリサの胸三寸で俺の今後の人生(前科一犯)が決まってしまう。
どうなる?!
如何なる俺の人生?!
ドクドクと心臓を高鳴らせながら、閻魔(アリサ)の審判を待つ。
「その、ごめんなさい」
「………はい?」
謝られた? え、何で? 俺何かされた?
「あたま、大丈夫?」
「いや、別に其処まで悪くは無いと思うけど?」
「違うわよッ。その、血一杯出てるじゃない。殴っちゃったからでしょ? だから、そのゴメン………死んじゃったのかと思ったし………」
「んん?」
そう言われて見れば左顔面が引き攣るような感じがするような気がしないでもない。
触れてみると、パラパラと生乾きの血液が………。
………コレが殴られて出た血??
幾ら魔力補正が無かったとしても、唯の九歳児のフルスイングで大出血するほど落ちぶれてないぞ? そもそも痣は出来ても、傷を負ったようには思えないんだけど………。
どこだ? 何処から、出血したんだ………ってこれは
「いや、コレは古傷が開いただけだよ。もう止まってる。ちょっと、大げさに血が出たけど、問題ないよ」
「そ、そうなの?!」
「ああチョイ待ち………」
袖でゴシゴシと左額にある傷を拭う。
思ったとおり、一度血を拭ってしまえば、それ以上血は流れ出て来ない。
「ほら、此処に傷跡があるだろ? 其処から出ただけだから」
「見せて………ッ」
頭を抱きかかえる様にして、傷跡を覗き込まれる。
自然、ワンピース型の寝間着の胸元に引き込まれる形になった。
「良かったッ。血は、ちゃんと止まってるみたい………」
「あ、ああ、だから言っただろ?」
マズイ、何か柔らかくて良い匂いがする。
薄布を挟んだ位置から心臓の鼓動が聞えてしまいそうに近い。
血と岩石の匂いに慣れきった脳髄を溶かす様な甘い少女の香りに少しクラクラした。
幸運な事に妙な事を口走る前にアリサは身体を離して、また鉄矢に申し訳なさそうな顔を見せる。
「でも、本当にごめん。その、変な人が部屋の中に入ってきたのかと思って、つい」
つい、金属バットフルスイングか………。
いや、まあ裁判でもやったら100%俺の方が悪いような気がしないでもないけど………。
「で、でも、怪我させたのは謝るけど、殴った事は謝らないわよ? 普通、こんな時間にあんな所から入ってきたら、変に思うでしょ?」
「はい、その通りでございます」
アリサの言は余りにも正しすぎるので完全降伏する以外に手段が無い。
むしろ、前科一犯に成らなかった事について感謝しなければいけないのかもしれない。
まあ、個人的には『何でこうなった』と言う想いが無い訳でもないのだが………。あれー、おっかしいなぁ。
「とりあえず、救急セット持ってくるからちょっと待ってて」
「は?」
「は? じゃなくて、一応消毒とかしておいた方が良いでしょ?」
至極一般的な物言いをして、ベットから降りようとするアリサ。
ヤッベェ、此処で誰かに見つかったら殴られ損じゃんと慌てた鉄矢。
「ちょ、待つんだアリサ」
「へ? んきゃぁッ、むぐ?!」
ペシッ
「………」(←急に手を掴まれてバランスを崩し、声を上げ掛けた所をまた口栓された)
「………」(←止めようと思ったらアリサがバランスを崩したので助け様としたのだが、また声を上げられそうだったので取り合えず押し倒してしまった)
再び時が止まる。
アリサは怒りの為か頬を紅潮している。
ツンツン(こ・の・手・を・外・せ)
「………はい」
「………あ、アンタ、もしかしてあたしのこと押し倒しに来たんじゃないでしょうね?!」
「………いえ、決してそう言う訳では………」
「もう、じゃあ一体何しにきたのよ?」
「え、いや、だって、約束?」
「え? 約束なんてしてた?」
「………」
微妙に悲しそうな顔をする鉄矢。
「あ、待った。ちょっと待って、んと、今思い出すから。え~~~っとーー」
軽く面倒くさい奴だなと思いつつ、鉄矢との口約束を思い出す。
そもそも、会った回数自体が少ないのだから思い返すことは容易い筈だ。
「え~っと………」
最後に会ったのは、スーパー銭湯に行った時だと思うけど………その時は特に約束は無かったような…………。
だから、約束って言うならその前にすずかと一緒に鉄矢の家に行った時で………。
うん。段々思い出してきた。
確かその場で、大きな、とても大きな巨馬に食べられそうになったんだっけ………。(←勘違い)
思い返すと本当に怖い馬だった。大きく、威圧的で、子犬でも見る様な眼差しをしていたように思う。
大きく、恐ろしげで、眩いほどに輝く白銀の毛並みが美しく、芸術品のような巨馬。
そして、漆黒の絹の様な毛並みのライオン並みの体躯を持った大きなワンコ。
家に居るどの子よりも、強い知性を感じさせ、同時に家に居る犬達とは違う激しい野性味を感じさせる子が居た。
一頻り、二頭と触れ合って
確かその帰り道、確かすずかが
『鉄矢さん、今度はイクスさんに乗せてくれるって言ってたよ?』
って、言ってたっけ。
…………えぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!
「や、や、約束ってアレ?! あのイクスって言う名前のお馬さんに乗せてくれるって言う??!!」
「し、シー、シーッ。音量落とせ、気付かれるだろッ?!」
小声で叫ぶ鉄矢に合わせて目を輝かせたアリサも声を落とす。
「うん、うん。そ、それで、約束ってソレで合ってるわよね?!」
この期に及んで違うなんていうんじゃねーだろーな的なオーラを発するアリサ。ぉぉう。此処で違うと言えばただではすまない。その結末(フルスイング)を明確に予感させる。
だが、運の良い事に今日深夜コッソリとアリサを尋ねた理由は正にソレだった。
「勿論」
「やったッ!!」
花が綻ぶ様に微笑むアリサ。そんな顔をされると、嬉しくなってしまう。
「あ、でも、如何してこんな時間に? 普通に来れば良いんじゃないの?」
「来る分には何時でも良いんだけどな。イクスの奴を好きに走らせるには、今日みたいな厚い雲が覆ってる夜が良いんだよ」
「そ、そそれって、例の空を飛べるって奴のこと?」
「ああ」
「うわぁぁぁ!!」
そんなに目を輝かせて、よっぽどイクスに乗れるのが嬉しいんだな。うん。
コレは、ささっとイクスの乗り心地を教えてやらねばならんだろうて!!
「んで、今更だけど、アリサは今から大丈夫か? 夜遅いけど?」
「全然ッ! もう、バッチリ目は覚めてる! それに明日は学校は休みだし、なのは達との約束もないし、習い事も午後だし、ってそんな事より鉄矢の方こそ大丈夫なの?」
「何が?」
「何がって、頭殴ちゃって、血も出たでしょ? 今日は、止めにした方が………」
「こんなの全然だって、言ったろ? 古傷が開いただけだって」
実の所、古傷とは言っても、12/1に受けた傷だからおよそ2週間ほど前の傷なのだが、治癒魔法とエリクサーの影響で、すっかり古傷染みた外観になっている。
「………古傷………ね」
一瞬何か言い掛けたような気がする。
少し、待ってみたが、アリサに話の続きをするような気配は無いように思えた。
「んじゃ、行こうか?」
「うん。あ、でも書置きしていかなきゃ、もしあたしが黙って居なくなったなんて知れたら、心配するだろうし。………お仕置きも、半端無い事になるわ………」
「ああ、大丈夫大丈夫。コアとセンサー置いてくから、誰か来たら、すぐ戻れるよ」
「はぁ?」
何を言ってるんだコイツはと言う顔を向けるアリサに、鉄矢は得意げに笑う。
「大丈夫。俺は魔道士だからな」
「はぁああ? ま、まどうし?!」
「魔法使いでも何でも良いけどな………」
言って、(今、初めて気付いたが五本の指にそれぞれ、鎖の付いた指輪をしていた)人差し指から多少薄汚れた観の指輪を抜き取り、腕輪に繋がった鎖を取り外して無造作にベットに置く。
「さ、これでOK.上でイクスも待ってるし行くぞ?」
「う、上? そ、それに魔法使い??」
混乱気味のアリサの声がまた大きくなってきている。
鉄矢は無造作に人差し指でアリサの唇を塞いだ。
「論より証拠。さて、お嬢様、夜の乗馬体験ツアーにご招待いたしましょう」
そのまま、アリサの身体をお姫様抱っこで抱え上げ
『ふぅ、Solid Jump & Dimension Shift』
天井に向けて高く飛び上がった。
「ちょ?!」
息つく間もないまま抱きかかえ上げられ、跳び上がられ、そして迫る天井。
思わず悲鳴をあげ掛けた正にその瞬間
ボフンッ
「ふわぁ?!」
雲を、突き抜けた。
微かに、冷たい霧のような感触。
そこから先は、輝く星と月が視界一面を覆う。
それに、目を奪われた瞬間、今度は飛び抜けた雲に向かって落ち始めている。
落下の浮遊感がアリサを襲う。
しかし
「到着。って、おぉぉ? すげッ、雲の草原って感じだな?」
抱え上げられた、胸よりも高い位置から響く楽しげな声。
見渡せば、星と月明かりが照明の、鉄矢の言う通り、雲の草原。
「く、雲に立てるの?」
「ん? ああ、厳密には違うんだけどな。っと、その格好じゃ少し寒いか、カイロス」
『ふぅ、Yes.My Lord』
ふわりと、アリサの全身を薄く蒼い光が包む。
そうすると、確かに感じていた肌寒さが消える。
また、同時に薄暗く感じた雲の草原も、しっかりと目に映りこみ、その美しさが増したように感じた。
『視覚強化はサービスしておきました』
「ナイス」
『とは言え、魔力制限中ですので補助魔法程度なら問題ありませんが、攻撃魔法は使用できませんので、あしからず』
抱え上げられるその右腕が微かに燐光を放っていた。
「………う、腕輪が喋ってる」
『テンプレな反応ドーモ』
「腕輪にテンプレって言われた?!」
ドキッン、ドキンッ
激しい鼓動。
白い、白い幻想的な光景。
ヒヒィィン
そして、その幻想を崩さない。
否、より幻想的な世界へと誘う獣が奔って来る。
「さて、何処に行こうか………」
夜は続く。
否、夜はこれからだとでも言うような、誘うような声が聞える。
それが、アリサ・バニングスが生涯忘れえぬ夜の始まりだった。
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No title
更新待ってました!
週に3、4階は確認させてもらっています。
今回はアリサの出番でしたので後編が終わったら次はすずかの番ですよね!!
これからも更新楽しみにさせていただきますのでお体を壊さない程度に執筆頑張ってください!!!
週に3、4階は確認させてもらっています。
今回はアリサの出番でしたので後編が終わったら次はすずかの番ですよね!!
これからも更新楽しみにさせていただきますのでお体を壊さない程度に執筆頑張ってください!!!
海人民
ロスメモお待ちしてました!
よかった!まだ続くようで本当によかった。・゚・(ノД`)・゚・。
・・・では感想おば
鉄矢君は相変わらずヴォルケンには鉄板だな。まぁこれはもうしょがないことなんだけど・・・。本当にA’sはどういう最終回を迎えるんだろうか。
アリサに魔法ばれ?まったく予想出来ませんでした。とゆうか、約束のことすら忘れていた(´゚∀゚`;)
いつものことながら、鉄矢はぼろぼろ・・・前回の感想返しを読ませていただいたときに魔導師としてではなく人間として強くなったと言っていましたがそれが関係しているのでしょうか?
ではまた次回更新お待ちしてます!
よかった!まだ続くようで本当によかった。・゚・(ノД`)・゚・。
・・・では感想おば
鉄矢君は相変わらずヴォルケンには鉄板だな。まぁこれはもうしょがないことなんだけど・・・。本当にA’sはどういう最終回を迎えるんだろうか。
アリサに魔法ばれ?まったく予想出来ませんでした。とゆうか、約束のことすら忘れていた(´゚∀゚`;)
いつものことながら、鉄矢はぼろぼろ・・・前回の感想返しを読ませていただいたときに魔導師としてではなく人間として強くなったと言っていましたがそれが関係しているのでしょうか?
ではまた次回更新お待ちしてます!
No title
おー、久しぶりに来て見たら。
うーん、そろそろクライマックスですなー。
うーん、そろそろクライマックスですなー。
No title
更新お疲れ様でした!
8月に公開されているのに今更感想だなんて、図々しくてすみません。
恒例の鉄矢とカイロスの漫才には何かホッとする。
何より、このタイミングでアリサに魔法バレするとは、原作通りA'Sのエピローグあたりで挿んでくる話だと思っていただけに完全に意表を突かれました!鉄矢マジフリーダム。
今回の話も面白かったです!次回の更新も楽しみに待っています!!
8月に公開されているのに今更感想だなんて、図々しくてすみません。
恒例の鉄矢とカイロスの漫才には何かホッとする。
何より、このタイミングでアリサに魔法バレするとは、原作通りA'Sのエピローグあたりで挿んでくる話だと思っていただけに完全に意表を突かれました!鉄矢マジフリーダム。
今回の話も面白かったです!次回の更新も楽しみに待っています!!
No title
はじめまして、真田と名乗らせていただきます。
作品を通読させていただきました。
最初主人公の設定を理解したときはカブトとのクロス作品かと思いましたが、話が進むに連れて完全な主人公になってきてどんどん引き込まれてしまいました。
しかしながら、ヴォルケンリッター以降の展開は個人的な趣味で言って申し訳ありませんが、鉄矢にたいしてあまり良い印象を受けません。なんというか、彼が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのかわからなくなってきている気がします。
また鉄矢が常識がないとか学校行ってないというのを差し引いても頭が悪すぎる気がします。何と言うか、人の話は聞かないわ注意されても聞かないわ相手を理解しようとしないわわからないことは思考停止させて終わりにするわ、確かに学校等に通っていないため勉強などで身につける教養や常識などが足りないのは無印終了後に訓練なりで座学を学んでいたはず田としても百歩譲っていいとしましょう。人の話を聞かず、聞いたとしても理解しようという努力もせず。聞いたうえで自分の考えを貫き通すとかできないものでしょうか。それでこそ鉄の矢の意志ってものじゃないでしょうか。もしこれが作品の展開上の演出だったらすみません。しかし、いまの彼に天の道を継がせたいとはどうしても思えません。
彼は本当に天の道を往くつもりがあるのか疑問に思います。
ただ、成長談としてはとても良い作品展開だと思います。モチベーションを下げるような発言をしてもうしわけありませんでした。
作品を通読させていただきました。
最初主人公の設定を理解したときはカブトとのクロス作品かと思いましたが、話が進むに連れて完全な主人公になってきてどんどん引き込まれてしまいました。
しかしながら、ヴォルケンリッター以降の展開は個人的な趣味で言って申し訳ありませんが、鉄矢にたいしてあまり良い印象を受けません。なんというか、彼が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのかわからなくなってきている気がします。
また鉄矢が常識がないとか学校行ってないというのを差し引いても頭が悪すぎる気がします。何と言うか、人の話は聞かないわ注意されても聞かないわ相手を理解しようとしないわわからないことは思考停止させて終わりにするわ、確かに学校等に通っていないため勉強などで身につける教養や常識などが足りないのは無印終了後に訓練なりで座学を学んでいたはず田としても百歩譲っていいとしましょう。人の話を聞かず、聞いたとしても理解しようという努力もせず。聞いたうえで自分の考えを貫き通すとかできないものでしょうか。それでこそ鉄の矢の意志ってものじゃないでしょうか。もしこれが作品の展開上の演出だったらすみません。しかし、いまの彼に天の道を継がせたいとはどうしても思えません。
彼は本当に天の道を往くつもりがあるのか疑問に思います。
ただ、成長談としてはとても良い作品展開だと思います。モチベーションを下げるような発言をしてもうしわけありませんでした。
No title
こんにちは。いつもロストメモリー楽しんで読ませてもらっています。
コメントしたことはありませんでしたが1期を投稿していた頃から読ませていただいていました。
久しぶりに1話から読み返したので応援も兼ねてコメントさせていただくことにしました。
私も来年から就職ですが、何年でも待っています。
コメントしたことはありませんでしたが1期を投稿していた頃から読ませていただいていました。
久しぶりに1話から読み返したので応援も兼ねてコメントさせていただくことにしました。
私も来年から就職ですが、何年でも待っています。
コメ返し
MOTO様へ
>更新待ってました!
週に3、4階は確認させてもらっています。
申し訳ありません。次回更新のときにコメ返ししようと思ってたらこんな有様です!!
>今回はアリサの出番でしたので後編が終わったら次はすずかの番ですよね!!
実はフェイトだったりします。無論全員分やるつもりなのですが、イチャイチャするのはフェイトまでで、その後はダークに転がって行くのみってかんじを想定していたりー。
>これからも更新楽しみにさせていただきますのでお体を壊さない程度に執筆頑張ってください!!!
それ所ではないレベルで遅くなって申し訳ないです!
海人民様へ
>ロスメモお待ちしてました!
よかった!まだ続くようで本当によかった。・゚・(ノД`)・゚・。
自分でも、まだ続くんだと軽く驚いてたり。
>・・・では感想おば
鉄矢君は相変わらずヴォルケンには鉄板だな。まぁこれはもうしょがないことなんだけど・・・。本当にA’sはどういう最終回を迎えるんだろうか。
結局の所、色々迷ったり悩んだりしてますが、緋焔は子供なので親が殺されたこと許せませんし、緋焔が許さない限り鉄矢もヴォルケンを許すことは無いのですよー。
>アリサに魔法ばれ?まったく予想出来ませんでした。とゆうか、約束のことすら忘れていた(´゚∀゚`;)
いつものことながら、鉄矢はぼろぼろ・・・前回の感想返しを読ませていただいたときに魔導師としてではなく人間として強くなったと言っていましたがそれが関係しているのでしょうか?
正確に言うと、一般的な魔道師とは別ベクトルへの進化の方向性を見つけたって感じです。そしてその方向性に向かうには人間として、一段階前に進む必要があったのです。
>ではまた次回更新お待ちしてます!
なんとか更新させていただきました。
マイマイY@様へ
>おー、久しぶりに来て見たら。
うーん、そろそろクライマックスですなー。
この忙しい一日シリーズが終わったら、まもなく最終戦ですねー。
偽猿様へ
>更新お疲れ様でした!
8月に公開されているのに今更感想だなんて、図々しくてすみません。
それどころか、一年以上更新できずに申し訳ありませんでしたーーー。
>恒例の鉄矢とカイロスの漫才には何かホッとする。
何より、このタイミングでアリサに魔法バレするとは、原作通りA'Sのエピローグあたりで挿んでくる話だと思っていただけに完全に意表を突かれました!鉄矢マジフリーダム。
魔法バレのタイミングは色々考えましたが、此処にしました。鉄矢は今、色々と迷っている最中だったので、魔法を知らない一般人と接させてあげたかったのです。
>今回の話も面白かったです!次回の更新も楽しみに待っています!!
申し訳ありませんでしたーー。
真田様へ
>はじめまして、真田と名乗らせていただきます。
作品を通読させていただきました。
はじめまして、そしてお久しぶりです。感想の方も見ていなかったので、実は最近感想が来ていることに気づきました。
>最初主人公の設定を理解したときはカブトとのクロス作品かと思いましたが、話が進むに連れて完全な主人公になってきてどんどん引き込まれてしまいました。
カブトと言うか主人公の天道さんが大好きなので、そのエッセンスが入った主人公と言っても過言ではありません。実際、彼らが直接登場することは絶対にありませんので。
>しかしながら、ヴォルケンリッター以降の展開は個人的な趣味で言って申し訳ありませんが、鉄矢にたいしてあまり良い印象を受けません。なんというか、彼が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのかわからなくなってきている気がします。
それについては、申し訳ありません。正直自分も良い印象は持ってません、書いてて何やってんだこいつはと思ってしまいます。自分の作品の中で勝手に動いているキャラなのです。ちなみに主人公が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのか分からないとの事ですが、彼は終始彼の家族である緋焔のため、友達であるはやての為に動いています。やってることは、滅茶苦茶ですけど、一人と一匹に対して出来うる限りの何かをしようと必死になってます。それがどういう結果になるかは未だに分かりません。
>また鉄矢が常識がないとか学校行ってないというのを差し引いても頭が悪すぎる気がします。
何と言うか、人の話は聞かないわ注意されても聞かないわ相手を理解しようとしないわわからないことは思考停止させて終わりにするわ、確かに学校等に通っていないため勉強などで身につける教養や常識などが足りないのは無印終了後に訓練なりで座学を学んでいたはず田としても百歩譲っていいとしましょう。
人の話を聞かず、聞いたとしても理解しようという努力もせず。聞いたうえで自分の考えを貫き通すとかできないものでしょうか。それでこそ鉄の矢の意志ってものじゃないでしょうか。
確かにその通りです。鉄矢は人の話は聞かないし、理解出来ていない、その努力も放棄しています。ただ、これは彼が馬鹿で頭が悪いと言う事を差し引いても、ちょっと状況が混乱しすぎていることも加味していただきたいと思います。
鉄矢は、緋焔に親の敵をとってやりたいと思っていますが、はやての家族を奪うことにも抵抗を覚えています。
しかし、どちらに比重を置くかと言うと、やはり既に奪われた命である緋焔の心のほうを優先したいと思っています。しかし、此処ではやてにも命の危機が迫っていると言う事態の為、彼の許容量は満杯を超えてしまいました。
そのため、管理局側の理屈もヴォルケン側の理屈も聞き受ける余力が無いと考えていただけるとーー。平にー平にー
>もしこれが作品の展開上の演出だったらすみません。しかし、いまの彼に天の道を継がせたいとはどうしても思えません。彼は本当に天の道を往くつもりがあるのか疑問に思います。
ただ、成長談としてはとても良い作品展開だと思います。モチベーションを下げるような発言をしてもうしわけありませんでした。
確かにA’sは鉄矢の成長編としての側面を強く意識しています。
小ネタ太陽編等を見て頂くと分かるかもしれませんが、stsまでに鉄矢は大幅な成長を遂げ、聖堂教会最強の騎士の一人にまで登り詰める予定です。しかし、無印から散々言っていますが鉄矢にそのような才覚はありません。
その才覚が無いままで、どのように成長していくのか、その最初の段階をこのA’S編で書きたいと思っています。
本家の場合ですと、それぞれの話がそれなりに独立していますが、ロスメモは全編を通して見ないと分からない。A’S編もその一部とご考え下さい。
ちなみに、モチベーションは全く下がりません。色々書いていただけると、自分一人の視点でしか見えていない部分が広がっていきますので、自分が書きたい内容が伝えられているのかが良く分かります。今後も、可能ならばよろしくお願いします。
来年から社会人様へ
>こんにちは。いつもロストメモリー楽しんで読ませてもらっています。
コメントしたことはありませんでしたが1期を投稿していた頃から読ませていただいていました。
はじめまして、お久しぶりです。そんな長期の読者様が未だにいらっしゃるとは、本当にありがたいことです。
>久しぶりに1話から読み返したので応援も兼ねてコメントさせていただくことにしました。
私も来年から就職ですが、何年でも待っています。
就職四年目ですが、社会人になってからSSを書いていく大変さを味わいっぱなしです。具体的に言いますと、時間が無いってことに集約されるのですがーー。
出来れば、出来ればstsまで行きたいと思いますので、末永く見守ってください。
コメあるとやる気がアップしますー。
>更新待ってました!
週に3、4階は確認させてもらっています。
申し訳ありません。次回更新のときにコメ返ししようと思ってたらこんな有様です!!
>今回はアリサの出番でしたので後編が終わったら次はすずかの番ですよね!!
実はフェイトだったりします。無論全員分やるつもりなのですが、イチャイチャするのはフェイトまでで、その後はダークに転がって行くのみってかんじを想定していたりー。
>これからも更新楽しみにさせていただきますのでお体を壊さない程度に執筆頑張ってください!!!
それ所ではないレベルで遅くなって申し訳ないです!
海人民様へ
>ロスメモお待ちしてました!
よかった!まだ続くようで本当によかった。・゚・(ノД`)・゚・。
自分でも、まだ続くんだと軽く驚いてたり。
>・・・では感想おば
鉄矢君は相変わらずヴォルケンには鉄板だな。まぁこれはもうしょがないことなんだけど・・・。本当にA’sはどういう最終回を迎えるんだろうか。
結局の所、色々迷ったり悩んだりしてますが、緋焔は子供なので親が殺されたこと許せませんし、緋焔が許さない限り鉄矢もヴォルケンを許すことは無いのですよー。
>アリサに魔法ばれ?まったく予想出来ませんでした。とゆうか、約束のことすら忘れていた(´゚∀゚`;)
いつものことながら、鉄矢はぼろぼろ・・・前回の感想返しを読ませていただいたときに魔導師としてではなく人間として強くなったと言っていましたがそれが関係しているのでしょうか?
正確に言うと、一般的な魔道師とは別ベクトルへの進化の方向性を見つけたって感じです。そしてその方向性に向かうには人間として、一段階前に進む必要があったのです。
>ではまた次回更新お待ちしてます!
なんとか更新させていただきました。
マイマイY@様へ
>おー、久しぶりに来て見たら。
うーん、そろそろクライマックスですなー。
この忙しい一日シリーズが終わったら、まもなく最終戦ですねー。
偽猿様へ
>更新お疲れ様でした!
8月に公開されているのに今更感想だなんて、図々しくてすみません。
それどころか、一年以上更新できずに申し訳ありませんでしたーーー。
>恒例の鉄矢とカイロスの漫才には何かホッとする。
何より、このタイミングでアリサに魔法バレするとは、原作通りA'Sのエピローグあたりで挿んでくる話だと思っていただけに完全に意表を突かれました!鉄矢マジフリーダム。
魔法バレのタイミングは色々考えましたが、此処にしました。鉄矢は今、色々と迷っている最中だったので、魔法を知らない一般人と接させてあげたかったのです。
>今回の話も面白かったです!次回の更新も楽しみに待っています!!
申し訳ありませんでしたーー。
真田様へ
>はじめまして、真田と名乗らせていただきます。
作品を通読させていただきました。
はじめまして、そしてお久しぶりです。感想の方も見ていなかったので、実は最近感想が来ていることに気づきました。
>最初主人公の設定を理解したときはカブトとのクロス作品かと思いましたが、話が進むに連れて完全な主人公になってきてどんどん引き込まれてしまいました。
カブトと言うか主人公の天道さんが大好きなので、そのエッセンスが入った主人公と言っても過言ではありません。実際、彼らが直接登場することは絶対にありませんので。
>しかしながら、ヴォルケンリッター以降の展開は個人的な趣味で言って申し訳ありませんが、鉄矢にたいしてあまり良い印象を受けません。なんというか、彼が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのかわからなくなってきている気がします。
それについては、申し訳ありません。正直自分も良い印象は持ってません、書いてて何やってんだこいつはと思ってしまいます。自分の作品の中で勝手に動いているキャラなのです。ちなみに主人公が目指すのは正義の味方なのかダークヒーローなのか分からないとの事ですが、彼は終始彼の家族である緋焔のため、友達であるはやての為に動いています。やってることは、滅茶苦茶ですけど、一人と一匹に対して出来うる限りの何かをしようと必死になってます。それがどういう結果になるかは未だに分かりません。
>また鉄矢が常識がないとか学校行ってないというのを差し引いても頭が悪すぎる気がします。
何と言うか、人の話は聞かないわ注意されても聞かないわ相手を理解しようとしないわわからないことは思考停止させて終わりにするわ、確かに学校等に通っていないため勉強などで身につける教養や常識などが足りないのは無印終了後に訓練なりで座学を学んでいたはず田としても百歩譲っていいとしましょう。
人の話を聞かず、聞いたとしても理解しようという努力もせず。聞いたうえで自分の考えを貫き通すとかできないものでしょうか。それでこそ鉄の矢の意志ってものじゃないでしょうか。
確かにその通りです。鉄矢は人の話は聞かないし、理解出来ていない、その努力も放棄しています。ただ、これは彼が馬鹿で頭が悪いと言う事を差し引いても、ちょっと状況が混乱しすぎていることも加味していただきたいと思います。
鉄矢は、緋焔に親の敵をとってやりたいと思っていますが、はやての家族を奪うことにも抵抗を覚えています。
しかし、どちらに比重を置くかと言うと、やはり既に奪われた命である緋焔の心のほうを優先したいと思っています。しかし、此処ではやてにも命の危機が迫っていると言う事態の為、彼の許容量は満杯を超えてしまいました。
そのため、管理局側の理屈もヴォルケン側の理屈も聞き受ける余力が無いと考えていただけるとーー。平にー平にー
>もしこれが作品の展開上の演出だったらすみません。しかし、いまの彼に天の道を継がせたいとはどうしても思えません。彼は本当に天の道を往くつもりがあるのか疑問に思います。
ただ、成長談としてはとても良い作品展開だと思います。モチベーションを下げるような発言をしてもうしわけありませんでした。
確かにA’sは鉄矢の成長編としての側面を強く意識しています。
小ネタ太陽編等を見て頂くと分かるかもしれませんが、stsまでに鉄矢は大幅な成長を遂げ、聖堂教会最強の騎士の一人にまで登り詰める予定です。しかし、無印から散々言っていますが鉄矢にそのような才覚はありません。
その才覚が無いままで、どのように成長していくのか、その最初の段階をこのA’S編で書きたいと思っています。
本家の場合ですと、それぞれの話がそれなりに独立していますが、ロスメモは全編を通して見ないと分からない。A’S編もその一部とご考え下さい。
ちなみに、モチベーションは全く下がりません。色々書いていただけると、自分一人の視点でしか見えていない部分が広がっていきますので、自分が書きたい内容が伝えられているのかが良く分かります。今後も、可能ならばよろしくお願いします。
来年から社会人様へ
>こんにちは。いつもロストメモリー楽しんで読ませてもらっています。
コメントしたことはありませんでしたが1期を投稿していた頃から読ませていただいていました。
はじめまして、お久しぶりです。そんな長期の読者様が未だにいらっしゃるとは、本当にありがたいことです。
>久しぶりに1話から読み返したので応援も兼ねてコメントさせていただくことにしました。
私も来年から就職ですが、何年でも待っています。
就職四年目ですが、社会人になってからSSを書いていく大変さを味わいっぱなしです。具体的に言いますと、時間が無いってことに集約されるのですがーー。
出来れば、出来ればstsまで行きたいと思いますので、末永く見守ってください。
コメあるとやる気がアップしますー。